第5話 大事にしたいもの
会社に新しい派遣ちゃんがやってきた。
私に負けず劣らず華のある可愛らしい子だ。
高卒で入社した会社が肌に合わず退職し、今は派遣社員をしながら自分に合う会社を探しているらしい。
可愛くて若い女の子の登場に男連中はそれはもう盛り上がっていた。
特に若い奴らは「彼氏いるのかな?」「アプローチしてみようかな」と興味津々だ。
私は、何しに会社に来てるんだか、と呆れながら派遣ちゃんの言動を少し気にかけるようにした。
◆
旅をする翼を広げた可愛らしい少女にとある翼を畳んだ少年は何やら怖い顔をして問い詰めていた。
少女の顔には見覚えがある。
一ヶ月ほど前にうちの会社に来た派遣ちゃんだ。
年齢は少し若返っているし、まるで天使のような風体だが、間違いなくあの派遣ちゃんだという不思議な確信があった。
少女は新天地に向けて飛び立とうとしたのだが、少年は少女の足を掴んで行かせまいと引っ張っていた。
二人の口論は次第に激しくなり、ついに少女は少年の抵抗を振り切って飛び立って行った。
どんどん二人の距離は離れていく。
少女はとても悲しそうな顔で空を突き進んでいたが、地上にいる少年は思い通りに行かない少女を責め立てるように顔を赤くして怒鳴り散らしていた。
声は聞こえない。けれどその表情から彼の口から出る言葉が罵声であることは疑いようがなかった。
◆
天使の少年と少女が相入れず別れる夢を見た数日後、派遣ちゃんは少し疲れた顔をしながら仕事をしていた。
どうしても気になった私は、普段なら自分のデスクから見ているだけなのだが声をかけてみることにした。
「体調悪い?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「本当に?」
「……はい、大丈夫です」
派遣ちゃんは俯き、膝の上に握られた手にポタリと涙が落ちた。
「今日は帰りな。仕事にならないでしょ」
「すみません……でも」
派遣ちゃんが謝るとほぼ同時に、十二時を知らせるチャイムが鳴った。
「あの、お昼、お時間貰っていいですか?」
自分のデスクに妹のお手製弁当を取りに戻ろうとした時、派遣ちゃんが突然そんなことを言い出した。
お昼はいつも彼氏と通話をしながら過ごしているので、正直これ以上この子といるつもりはなかった。
けれど涙目の上目遣いで頼まれたら……断ることは難しい。
だって私、面食いだから。
「お弁当食べながらでいいなら」
「ありがとうございます!」
涙をポロリと零して力なく笑った顔は、とても辛そうに見えた。
その後、私と派遣ちゃんは二人で人気のない屋上の隅でお昼ご飯を食べることにした。
カツサンドを食べながら聞かされた派遣ちゃんの話は、「彼氏との価値観の相違による喧嘩が絶えない」というものだった。
彼氏くんは今大学生で、高二の頃から付き合っているらしい。
高校生の頃はとても仲が良かったのだが、派遣ちゃんが最初の会社を辞めた辺りから仲が拗れ始めた。
彼氏曰く、「何度も会社を辞めるなんてありえない」との事で、最近は「もしかしてそうやって男も取っかえ引っ変えするんじゃないだろうな?」などと言われているようだ。
言っちゃなんだか酷い奴だな。別れちまえ。
私がそう思ったように、派遣ちゃんも彼氏くんの言葉には相当傷ついたようで、心がズタボロなんだとか。
「そっかー、それは辛いね」
「すみません、こんな話聞いてもらって」
「いいよ別に。それより今日はもう帰りなね」
「いえ! 話聞いてもらって少しは元気になったんで働けます!」
「そんな真っ赤な目で?」
「えっ……あ……帰ります」
手鏡で自分の顔を確認した派遣ちゃんは少し恥ずかしそうに俯いてそう答えた。
「上司には私から上手く言っとくよ」
「すみません、お願いします」
◆
後日、派遣ちゃんは私にこんな報告をしに来た。
「別れました! 私の生き方を否定する男なんて願い下げです!」
「そっか」
言葉はハキハキしていて吹っ切れたように聞こえるけど、その笑顔は全然清々しいというものではなかった。
きっと派遣ちゃんにとって彼氏くんは本当に大事な人だったんだろう。
でも価値観が絶望的に合わなかった。
◆
あれから数年、派遣ちゃんは契約ちゃんになって今も私と一緒に働いている。
どうやら私は彼女に懐かれたらしい。
そして半年ほど前、妹の夢に私と可愛らしい翼を持った少女とその少女を大きな翼で包み込む大男が出てきた。
妹曰く、少女が私にその大男を自慢していたようだ。
その夢は現実となり、契約ちゃんには彼氏が出来た。
最近は昼休みの度に惚気話を聞かされてもううんざりだ。
◆◆
【夢の媒介人】
長女の会社の同僚(19歳〜)
【視点】
長女
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