第4話 今世紀最大の勇気

ある木曜日、二度寝から起きてカーテンと窓を開け放ち空を眺めて、「今日はお散歩しよう」と思った。

思い立ったが吉。私はすぐにメッセージアプリの公式アカウントで休業のお知らせを流す。

『誠に勝手ながら、お散歩日和なので本日のホシユメの営業はお休みします。店主』

オープンより一時間前だしセーフだろう。

趣味で始めたカフェだから、月に何度かこんな休み方をする。

公式アカウントを登録してくれている常連さんたちは急な休みでも特に文句を言ったりはしない。

私は今日のノルマを達成した気分になりながら、ブランチにエッグマフィンを作って頬張った。

食事を終えると早速腹ごなしも兼ねてお散歩に出かける。

閑静な住宅街に反響する子鳥のさえずりがいっそう静けさを強調する。

十五分も歩くとそこそこ広い公園にたどり着く。

お気に入りのその公園には小さな子連れのお母さんたちや、お昼を食べに来た労働戦士が居る。

そんな中、散歩に来ると必ず見かける人が一人だけいた。

緑のネクタイがトレードマークの五十歳は超えているであろうサラリーマンだ。

そのサラリーマンは少し前から何かに思い悩んでいるようで、前かがみで猫背になっている。

今日もそうだった。



その日の夜、緑のネクタイのサラリーマンが夢に出てきた。

顔は不明瞭だが、緑のネクタイだけははっきりと見えていた。

彼の隣には若い女性が並んでいて、仲良く腕を組んで歩いていた。

── 仲のいい親子だなぁ。

そう思いながらすれ違って、なんとなく気になって振り返ると、二人は白のタキシードとウエディングドレス姿になっていた。



季節は巡り冬、初雪が降ったのでお店を休んでお散歩することにした。

この日は丁度クリスマスイブでいつもの散歩コースの公園もイルミネーションが施されてキラキラと輝いていた。

一際大きな木はもみの木ではなかったけれど、メインのクリスマスツリーとして豪華に飾られている。

「うわぁ……あんな高い所、どうやって飾ったんだろう?」

私はひとりで呟き、近くのベンチに腰を下ろした。

ツリーの周りには何組かのカップルが仲睦まじく腕を組んでいる。

そんな中に見知った緑のネクタイの人を見つけた。

その人の隣には若い女性が寄り添っていて、ふたりはとても幸せそうに笑いあっていた。

「あ、やっぱりそうだったんだ」



「やっぱり僕たち少し浮いてるかな……親子ぐらい年が離れてるし……」

「そんなことどうだっていいわよ。私はあなたに出会えて幸せだもの」

「それは僕の方こそ……!」

「あ、でも」

「で……でも?」

「欲を言うなら二十年早く生まれたかったわ。そうすればもっと早くあなたに出会えて、もっと長く一緒にいられた」

「……そうだね! あ、でもそれだと出会う機会があったかどうか……」

「運命で結ばれていれるんだから、当然出会えるわよ」



【夢の媒介人】

次女がよく行く公園で見かけるサラリーマン(52歳)


【視点】

次女

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