第2話 チャンス到来
とある町の片隅にある【ホシユメ】というカフェには意外と沢山の常連客がいる。
OLの私もそのうちの一人だ。
私はランチメニューの本日のパスタをフォークに巻き付けてため息をついた。
「はぁ……」
私の好きな人は同じ会社の同期なのだが、その人には学生の頃から付き合っている彼女がいるのだ。
近々結婚も視野に入れているとのことで、その人は時折ジュエリーショップのカタログを開いている。
完全な脈無しだ。
「お客さん」
「? あ、はい」
普段全く喋らない店長さんが突然カウンター越しに話しかけてきた。
「その時だって思ったら逃したらだめですよ」
「え? ……はい……?」
突然何かと思えばよく分からないことだけ言って店長さんは奥に引っ込んでしまった。
私はさっきまでの落ち込んだ気持ちをすっかり忘れて、店長さんの変な言動に戸惑いながらパスタを完食してお店を出た。
◆
その日の夕方、私の想い人であるその人と退社のタイミングが被って途中まで一緒に帰る流れになった。
彼はどこか落ち込んだ様子で、けれど私はその理由を聞くに聞けないでいた。
「今日、昼飯食いに行った時にさ」
「うん」
彼が突然話し出した。
お昼ご飯の話にしてはどこか言葉に生気がなく、棘があるような気がした。
「彼女が他の男と抱き合ってキスしてるところ見ちゃったんだよね」
「え……」
彼の彼女が浮気をしていた?
結婚目前って感じだったのに?
「ごめん急にこんな話して。なんかお前になら話してもいいような気がして」
「いや、別にいいけど……本当に彼女さんだったの?」
「うん、ばっちり目合って逃げられた」
「そっか……」
こんな時だが、私は内心喜んでいた。
彼女が浮気をしていたのなら、二人はもう別れるだろうと思ったからだ。
私は彼を元気づけようとペラペラと何かを話したが、正直何を言ったのかはあまり覚えていない。
それぐらい私の心は舞い上がっていたのだ。
そしてその日は駅で別れて帰路に着いた。
家に帰ってから、昼間の店長さんの言葉を思い出して「しまった! ︎︎機会を逃したかも!」と舞い上がっていた数十分前の自分を呪いたくなった。
◆
数日後、出社して早々、彼から彼女さんと別れたという報告を受けた。
正直とても嬉しかったが、必死に表に出さないように堪えた。
この時、私の頭の中にふと先日ランチで行きつけのカフェの店長さんに言われたことを思い出した。
『その時だって思ったら逃したらだめですよ』
一度逃したチャンスが再び到来したのだと気付き、私は意を決して伝えることにした。
「あー、あのさ」
「ん?」
「ずっと隠してたんだけど……私、前からアンタのこと……好き……なんだよね」
「へ?」
「失恋して傷心中だってのは分かってるんだけど、恋人いないなら……私と付き合わない?」
少々、いやかなり、強引な告白をした。彼はとても戸惑っていた。
私の心臓は破裂しそうなほどバクバクしている。
もう何を言えばいいのかも分からない。
私は思考を放棄し思うがままに口を動かした。
「新しい恋人でも作れば気が紛れるかもしれないじゃん? それに私、二年も片思いを隠してたんだよ? ご褒美があってもいいと思うの」
そして言い訳するように、交際を迫った。
「ご褒美? 二年って、入社した時から?」
「そうよ、ずっと。宝石のカタログ見てるアンタ見てもう諦めてたんだから! でもこう言っちゃなんだけどチャンスだって思っちゃったの!」
彼は私の告白に顔を赤くした。
その後、押せ押せな私の雰囲気に吞まれたのか、彼は私の交際の申し込みを受け入れてくれた。
晴れて片思いの相手と恋人になれた私はその日のうちに店長さんにお礼がしたくて、早速お昼に彼を誘っていつものカフェに行くことにした。
カランカランとドアベルが鳴ると店長さんはチラリと私を確認して小さく微笑んで会釈をした。
私はいつものカウンター席に座り隣に彼を誘導する。
「店長さん、本日のパスタ二つお願いします。それと、助言、ありがとうございました!」
普段はテーブルのベルを鳴らして店員さんを呼ぶのだが、今日はどうしても店長さんに直接お礼が言いたかったので声を掛けた。
店長さんは少し驚いたように肩を跳ね上げ目を丸くしていたが、私と私の隣に座る彼を見るとにっこり笑ってグッと親指を立ててくれた。
相変わらず無口だけれど、よく見ればとても表情豊かな人なんだとこの時初めて気づいた。
店長さんのおかげでずっと好きだった人をゲット出来て、店長さんとも少し距離が近づいた気がして、この日、私の胸とお腹は幸せでいっぱいに満たされた日になった。
◆◆
【夢の媒介人】【視点】
常連客のOL(24歳)
⬛︎
1月3日-修正
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