予知夢姉妹の恋占い

星水

第1話 カップルたち

ある町の片隅に【ホシユメ】というカフェがある。

特段有名というわけでもないその店の店主はどこか不思議な雰囲気を纏った若い女性だ。

カランカランとドアベルが鳴ってもその店主は何も言葉を発さない。

一見愛想が悪いように感じるが、目を合わせれば微かに笑って会釈をしてくれる。

店主は客を案内することはせず、客は勝手に好きな席に座り、手元のベルで店員を呼んで注文をする。

こういうシステムに初めて来る客は戸惑うだろうが、そういった客にはちゃんと店員が説明をする。

「ご注文をお伺いします」

元気にやってきたのは高校生のバイトの女の子。

彼女は慣れた手つきで私から注文を取り、それをカウンターの中にいる店主に伝える。

しばらくして私の注文したケーキセットが運ばれてくると、私は紅茶の芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込んだ。



その日はいつもと少し違っていた。

滅多に話さない店主が沢山喋っていたのだ。

私は悪いと思いつつも好奇心に負けて「何も聞いてないですよ」という顔をしながら店主とバイトちゃんの会話に意識を向けた。

「てんちょー、どうしたら彼氏出来ると思いますぅ?」

「知らない」

「てんちょーモテますよね? 何かアドバイスくださいよぉ」

「自分は恋愛に興味ないから。アドバイスなら学校の友達かお兄さんに聞けばいいんじゃない?」

「え、なんでです? ていうかお兄ちゃんに聞くとか死んでも無理!」

「そんな拒否しなくても……お兄さん可哀想」

どうやらバイトちゃんが店主に恋愛相談をしたらしい。

確かに整った容姿をしている店主はモテそうだ。

けれど店主はバイトちゃんの悩みには上手く答えられなかったようだった。

それ以降、彼女たちの話は特に進展しないまま私は店を出る時間となった。



数日後、私はその日もホシユメに来ていた。

いつもこの時間の客はとても少なく、店内には店主が選んだゆったりとしたBGMが流れている。

「てんちょーてんちょー、聞いてくださいよ!」

あの日店主に恋愛相談をしていたバイトちゃんが仕事に入るや否や話し始めた。

「私の周りでめっちゃカップル誕生してるんですよ! 酷くないですか?」

どうやらまた恋愛の話をしているらしい。

私はバイトちゃんの話題に店主がどう返すのか気になって、また「何も聞いてないですよ」という顔をしながら会話に意識を向けた。

「だから友達かお兄さんに相談しなって言ったじゃん」

「どういうことです?」

「周りで誕生したカップルって学校の友達が二人とお兄さんでしょ?」

「え! てんちょー何で知ってるんです?! 超能力!?」

「みたいなものかな」

「えー何それスゴー! 予知? 予知ですか?!」

「予知夢。あなたの周りで恋が成就する夢を見たんだよね」

「じゃあじゃあ、私の夢も見てくださいよ! そしたら私にも彼氏出来るってことですよね!」

「それは……無理がある、かな。見ようと思って見れるものでもないし」

「なーんだ、自由に見れたらメッチャ便利なのに」

「そう? たまに見れるからこその楽しみってのもあると思うよ」

「えー、てんちょー他人の恋愛を娯楽にしてるんだー。意外とゲセワー」

「別れる夢じゃないんだからいいでしょ。それより来月の限定メニューのアイデア何か頂戴。煮詰まってて」

「じゃあ『リア充なんて滅んじまえケーキ』とかどうです?」

「私怨入りまくりじゃん……却下」

店主とバイトちゃんはその後恋愛の話に戻ることはなく、来月の限定メニューについて相談を続けていた。

私は店を出る時間になったので各席に設けられたQRコードを読み取って会計を済ませ、待ち合わせ場所に向かって歩き出した。

道中、新たに知った店主の一面に胸がドキドキしていた。

予知夢を見るというのはどんな感覚なんだろう?

いつか私の予知夢も見てもらえたりしないだろうか?

そうしたら私もあの不思議な雰囲気を纏った店主と話をすることが出来るだろうか?

【予知夢】というたった一つの出来事に、私の胸は高鳴り、来るかもわからない未来を想像しては店主とどんな会話をしようか考えた。


◆◆


【夢の媒介人】

アルバイトの女子高生(17歳)


【視点】

居合わせた常連客



⬛︎

1月3日-誤字修正

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