映像記録02:河野 恒一インタビュー

資料名:指導役インタビュー(河野 恒一)+修行映像

撮影日:同年7月下旬

撮影者:D



【インタビュー/自己紹介】


画面:

手持ちカメラ、中距離ショット。

簡素な部屋。背後は白布のみ。

指導役の男性が正面を向いて座っている。年齢は40代後半。


D:

お名前を、記録用にお願いします。


指導役:

宗教名で、河野 恒一(こうの こういち)と名乗っています。


D:

宗教名、というのは?


河野:

本名は別にありますが、修行の場では個人史を持ち込まないために、全員宗教名を使います。


D:

そうなんですね。教団内での立場を教えてください。


河野:

教祖の下で、修行体系を統括しています。


D:

かなり上の立場ですね。


河野:

責任が上なだけです。

決定権は、すべて師にあります。


D(メモ):

・本名を隠すために宗教名を利用?

・教祖以外に判断主体が存在しない構造




【教祖との関係】


D:

教祖とは、どういう関係ですか。


河野:

私は、師の体験を言葉に落とす係とでもいいましょうか。

師は、体験そのものを生きていらっしゃる。


D:

河野さん自身は、どうしてこの教団に入られたんですか?


河野:

最初は、普通の修行者でした。ヨーガに興味があって来たんです。


D:

宗教的動機ではなかった。


河野:

ええ。ですが、ある時点で「変化」がおきまして。

身体を動かしているときに、自分が動かしているという感覚が消えたんです。

その瞬間に、宇宙と繋がる感覚を持ちました。




【ヨーガについて】


D:

教団のヨーガは、一般的なものと違うように見えます。


河野:

ポーズは似ています。ですが目的が違う。


D:

健康や柔軟ではない。


河野:

はい。身体があるせいで、意識は誤作動してしまう。ヨーガ的な動きによって、意識を正しく作動させるんですね。

例えば、ゆっくりと腕を上げる動きがありますね。


(彼は実演せず、言葉だけで示す)


普通は「腕を上げた」と認識する。しかし修行では、「上げた主体」を探してもらう。

見て頂いた方が早いですね。


画面:

インタビューの途中で河野が立ち上がり、カメラを促す。




【修行ホールへ】


画面:

修行ホール。

参加者はすでにマットに座っている。

参加者がゆっくりと身体を前後に揺らす。

伸ばす、沈む、止まるなど、動きは統一されていない。


河野:

ヨーガで、自分が身体を支配しているという錯覚を取り除きます。


D(カメラ外):

動きは単純ですが、全員の表情が徐々に変わっていく様子が伺えます。


画面:

一人の参加者の肩が小刻みに震える。


河野:

今、起きているのは、筋肉の問題ではありません。

自己認識の遅れです。


D(カメラ外):

遅れ、ですか。


河野:

身体は先に動いている。

それを、あとから「私がやった」と意識が追いかけている状態です。


画面:

数名が涙を流し始める。

一人は口を開いたまま、動かない。


参加者A(女性):

私が……どこにも、いません。


河野(即座に):

確認します。

「いない」と言っているのは、誰ですか。


(参加者、言葉を失う)


河野:

その沈黙が、神秘体験です。


画面:

別の参加者が、突然笑い出す。


参加者B(男性):

全部……見られている。


河野:

「誰に」と考えない。考えた瞬間、修行ではなくなります。

あるがままを受け入れなさい。


画面:

一人の参加者が、完全に動きを止める。

目は開いているが、焦点が合っていない。


河野:

向こうに行きすぎないでください。ゆっくり少しずつ、戻ってきて。




【修行後インタビュー】


・男性信者(20代)


画面:

汗がまだ引いていない。

呼吸がやや早い。


D(カメラ外):

今のヨーガ、どうでしたか。


信者:

……どうだったって聞かれると、もう違う気がします。


D:

違う?


信者:

はい。

良かったとか、きつかったとか、そういう場所にいなかったんで。



・女性信者(40代)


画面:

目が潤んでいるが、泣いてはいない。


D:

何か、印象に残ったことは。


信者:

「私がやっている」感じが、途中からなくなりました。


D:

なくなると、不安などはありますか?


信者:

最初はありました。

でも、途中からは心地よさに変わりました。



・女性信者(20代)


画面:

穏やかな笑顔。

視線は少し遠い。


D:

体験として、怖さはありましたか。


信者:

ありました。

でも、怖がっているのが誰か分からなくなってました。


D:

それは、どういう意味でしょうか。


信者:

「私が怖い」じゃなくて、私以外の誰か?



・男性信者(60代)


画面:

姿勢が整い、落ち着き払っている。


D:

何度もヨーガを経験されてるそうですね。


信者:

ええ。ですが毎回、新しい体験があります。


D:

それは、なぜだと思いますか?


信者:

現象なので、何とも言えません



・指導役 河野


D:

神秘体験というのは、結局のところ何なんですか?

それを、どう定義していますか。


河野:

多いのは「自分が消える感覚」「誰かに見守られている感覚」「時間が溶ける感覚」。

つまり宇宙との接続を意味します。




追記メモ(D)

・河野は明確に、信者より上の立場の存在。

・ヨーガは身体訓練ではなく、自己認識の崩しに使われている模様

・ヨーガによる神秘体験は、かなり疑わしい。

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存在しない教団の記録 ざまぁ全力マン @zamazen

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