第3話

今、俺は自宅の中を見渡していた。元からろくに物が置いてないような部屋だったが、今やそれすら消え本当に何も無い部屋となった。

そうなったのも、EXE本部には執行官専用の居住区があり、そこに住まわせて貰えるそうで、この家を片付けることにしたからだ。

今思えばクソみたいな家だったが、それでも5年も住んだ場所だ。なんの思い入れも無い訳ではない。だからこそ、この何も無くなった部屋を見ると何かこみ上げるものがある。

「じゃあな。」

俺は長年の相棒に別れの挨拶をしてやり、そのまま家を出た。

いよいよ、今日から仕事が始まる。




「ふざけんな!俺はこいつとだけは絶対にやらねぇ!」

「それはこっちの台詞だ。何故俺がお前なんかと組まなければならない。」

「まあまあ、2人とも落ち着いて。」

何故、こんなことになったのだろうか……。




そう。あれは、EXEの本部ビルに行った時のこと。白露に、

「言い忘れてたけど、執行官は2人1組で行動しないと行けないんだよね〜。」

なんて言われてそのままその相手と会うことになったんだが……。

「チッ。なんで俺がこんな……。」

そいつは、例のクソガキだった。


それで、そこから前に待ち合わせした駅に来るまで、ずっと言い合いをしていた。

俺の体が、この神上 桜我とかいう名前のクソガキを受け付けなかった。

上から目線で鼻につく態度。常に俺のことを睨みつけてくるその目。全部。全部気に食わない。無理だ。こいつは、こいつとだけは絶対に無理だ。

「そもそも、なんで二人じゃないといけねえんだよ!」

文句を言えば、

「ただのリスクヘッジだ。一人だと、相性の悪い異能者と対峙した際に敗北しかねない。他にも、互いに監視し合えば買収等の行為も多少は防げる。これくらい自分で考えたらどうだ?まさかその程度の知能も」

「テメェには聞いてねえよ!」

わざわざ余計な一言を加えて返してくる。

「そもそも、こんなヒョロガリが戦えるのかよ!」

と煽っても、

「そのヒョロガリに負けたのは誰だったか。すまないが忘れてしまった。教えてくれないか?」

全然効かねぇし、反撃されたし!


暫くそんなやり取りをしていると、

「それじゃ、僕は用事があるからこれで、

二人とも、仲良くね?」

「は?ちょ、待っ!」

俺の呼び止めも虚しく、白露は人混みの中に消えていく。

「はぁ……。やるしかねぇかぁぁ……。ほら、さっさと行くぞ。」

「指図するな。お前が俺に従え。お前が、俺についてこい。2度は言わないからな。」

そう言ってクソガキは歩き出す。

こんのクソガキィィィィィ!




本当はついて行きたくなど無かった。本当に!1mmも!ついて行きたいなんて思わなかったが、はぐれたらはぐれたで後で白露に何を言われるか分からない。最悪下手な行動をすれば警察に突き出されることになるかもしれない。だから、仕方なく、ほんっとうに仕方なくついて行くことにした。

クソガキは一切こっちを振り向くことなく、黙々と歩き続ける。イライラするが、ここは我慢だ。そうだ。俺はこんなやつに構ってる暇は無いんだ。俺は遥斗の病気を治すためにここで働いてるんだ。だから、ここは我慢して、ただ仕事をこなせばいいんだ。深呼吸してから、アイツを見てみる。うん、行ける。俺は我慢できる。

俺は早足で歩き出す。我慢できていれば大丈夫だなんて、この時の俺は考えていた。



俺たちはずっと、大通りを歩いていた。だが、クソガキは突然道を曲がり、路地裏へと入っていく。

俺もそれに続いて路地裏に入る。急にこんなとこに来て、本当にコイツは何を考えて……。

「あ?あれって……。」

ある程度進んだところで俺たちは止まった。そこでは、10歳くらいのガキ2人が殴りあっていた。片方は腕が獣のように変化しており、もう片方は体が鉄に変化している。異能を持ったガキ同士の喧嘩なんて、この街じゃあ日常茶飯事ってやつだ。俺からすれば、別になんの問題もないことだ。だが、クソガキからすればそうでも無いようだった。

「止まれ。EXEの執行官だ。今すぐ異能免許を見せろ。それが出来ないなら大人しく出頭しろ。2度は言わない。」

そう言われた二人のガキは、互いに顔を見合わせると、標的を変え俺たちに襲いかかってきた。

そう来るならしょうがない。こっちも仕事だからな。大人しくなってもらうぜ。

俺もガキたちに向かって走り出した。幸いここには一般人はいない。つまりちょっとは暴れても大丈夫ってこと

「何を勘違いしている。」

俺はクソガキの方を見た。すると、アイツは石を2つ握りしめていた。そして手を開くと、そのまま石が落ちていき……。


石が急加速しながら前方に飛んだ。俺よりも速く飛ぶふたつのそれは、一瞬でガキたちの寸前にまで到達し……


両方ともガキたちの額にクリーンヒット。そのまま1mくらい後ろにふっ飛び、ガキたちは倒れた。

相変わらずえげつねぇ異能だ。一瞬で終わっちまった。まあ、これだけで金が入るんなら楽な仕事だな。この調子なら遥斗の薬代も直ぐに稼げ

「だから勘違いをするな。」

……は?

「お前は今、何も貢献をしなかった。こいつらを見つけたのも俺、こいつらを無力化したのも俺。全部俺の功績だ。」

こいつは何を言って……。

「だから、このことはしっかりと本部に報告して、お前の報酬を減らしてもらう。そうだな。百分の一くらいは貰えればいい方だな。」

…………は?いや、本当に何を言ってるんだこいつは。ぜんぶこいつの功績?俺の報酬を減らす?なんでそんなことをするんだ?頭がイカれてるのか?

「ハッキリと言っておく。俺はお前が嫌いだ。お前みたいな馬鹿を見ていると腹が立ってしょうがない。」

「本当は今すぐにでもそこのヤツらと同じ目にあわせてやりたいが、生憎仲間同士での暴力沙汰は禁止されている。だから、こうして別の手段でお前の心を折ることにした。」

クソガキは、初めて笑顔を見せた。

「お前には何もさせない。今後どれだけ異能犯罪者と対峙しようと、全て俺だけの力で対処する。そして、お前に報酬をほとんど与えない。」

「テメっふざけん」

「話は最後まで聞け。そこで、だ。それが嫌なら白露さんに頼んで、バディを変えてもらえ。本当は俺が言いたいが、あの人は俺の話はろくに聞かないんでな。まあ、無理だったらその時は……」


「ここを辞めるんだな。」


俺は言葉を失った。こいつは、想像以上だった。異常なまでの憎悪。狂気の発想。最早、俺はこいつを人とすら思えなかった。

「話は以上だ。ほら、行くぞ。まだ仕事の途中だ。それと、言っとくが俺と離れれば連帯責任で二人揃って報酬は無しになるからな。」

その後5人の異能犯罪者を確保したが、毎回クソガキに先を越され、俺は何もできなかった。




「なんなんだよ、アイツ!」

その夜。俺は自室で叫んでいた。

どうすりゃあいい?どうすればアイツを出し抜ける?クソ!あいつのせいで全部が台無しだ!このままじゃあ遥斗の為の金が……。

……そうだ。俺は遥斗の為にここで働いているんだ。なら、ここでするべきことはアイツの言うことを聞いて、バディを変えてもらうことなんじゃ無いのか?変はプライドでアイツに対抗しても、それで上手くいくのか?


……無理だ。俺はアイツに速さで勝てない。その上、アイツは一撃で異能犯罪者を仕留める。取りこぼしを狙うのも現実的じゃない。ついでに知能でもアイツには勝てない。今日も、なんとかしてアイツを出し抜こうとしたが、結果は……。


そうだ。元々俺はそういう生き方をしてたじゃないか。自分で考えても上手くいかないから、俺より頭のいいやつに考えてもらって、俺はただ体を動かす。オッサンの仕事をしてた時も、EXEで働く判断をした時も、俺は何も考えてなかった。

そう。俺は、これでいい。アイツに従って言われた通りに……。




は?従う?アイツに?

俺の脳内に広がるのは、今すぐ殴ってやりたくなるあのムカつく面。

アレに?しだ、がう?俺が……?


いや、何言ってんだよ俺。んなことして、俺は満足するか?

いいや、しねぇ。ここで折れたら、俺は一生後悔する。そうだ。後悔するんだ。


「あっぶねぇ。忘れるところだったぜ。なあ、クソガキ。俺はよぉ、昔に1回だけ、でけえ後悔をしたことがあんだよ。」


「俺がぶっ倒れてる間に遥斗が消えてよ、それからずっと見つからねえんだ。それで、あの時もう少しだけでも耐えられてたらって、ずっと思ってんだ。」


「こんな思い、ふたつも抱えてたら俺は多分生きていけない。」


「今思い出したよ。俺は、もう二度と後悔しないってあの時に決めてんだ。」




その瞬間。俺に、ひとつのアイデアが浮かんだ。だが、実現するにはまだ足りない。

これを実現するために必要な情報は……。


『やあ、悠真くん。社員証の通信機能のお試しかな?』

「いや、ちげえよ。ちょっと聞きたいことがあってな。」




決戦の日は明日。ゼッテーにアイツを、桜我を見返してやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ACTOR @amata-Danbooooru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ