17:雨雲の下の遭遇
◇十日目【6月19日(水)】
■黒髪ロングの美少女
雲が垂れ込め、今にも雨が降り出しそうな放課後。
おれ達は私鉄「山手電鉄」の西港東公園駅へ向かっていた。
「お前、毎日学校までついてくるよな」
√ 不満か?
「別に不満てわけじゃないけど…… なんで?」
√ 貴様の安全を確保するためだ。それと多少ではあるが、貴様が受けている授業が面白いというのもある。
なんだろう、この知的好奇心は。
悪魔ってのはもっとこう、人間の欲望とか、別のものに惹かれるんじゃないのか?
√ 吾輩、図書館というところに行くのは初めてだ。
ダミアンは尻尾をピンと立て、機嫌が良さそうだ。
「猫は入れないぞ」
√ 構わん。貴様は吾輩が作ったリストにある本を借りてくればよいのだ。
家の本や心優から借りた本を読み尽くしたこの悪魔は、新たな知識を求めて図書館デビューを目論んでいる。
駅に着き、切符を買おうとした。
のだが……
「すみませんお客さん。猫はケージに入れていただかないとご乗車できません」
駅員さんの無情な一言に、ダミアンの尻尾はだらんと垂れた。
そりゃそうだよな…… 気が回らなかった。
√ おいっ。
「あはは、わりぃ」
そんながっかりした顔するなよ。
しかたがないので、おれ達は線路沿いの道を通って帰ることにした。
ダミアンはぶつぶつ文句を言いながら、おれの前を早足で歩いて行く。
やがて、どんどん離れていき、念話が届かなくなって静かになった。
前から男子学生がやってくる。
ダミアンが踏まれないか気にしていると、すれ違いざま、二人は目を合わせた。
次の瞬間、ダミアンはその場に座り込み、じっと学生の後ろ姿を目で追っていた。
なんだ?
気になったのですれ違うときに、おれも観察した。
おれと同じ制服に見慣れた校章。
同じ学校の生徒のようだ。
坊ちゃん刈りで、おれより少し背が低い。
顔色悪いな。
ってか何かに怯えているようだ。
視線をおれから逸らしている。
ダミアンもじっとしたまま動かない。
男子学生を気にしているっぽいな。
振り向くと、角で曲がったのか、その姿はなかった。
ダミアンの隣で立ち止ると、歩き疲れたのかおれを見上げる。
√ 疲れた。カバンの上に乗せろ。
わがままな悪魔様は、スクールバッグの上をご所望らしい。
「嫌だよ。重いし」
√ 何だと。吾輩の体重は僅か2kgくらいだぞ。
「2kgって、大きめのノートパソコンくらいだろ? そんなもん肩に掛けたら、肩が抜けるわ」
√ 貴様、吾輩に無駄足を踏ませておいて、その言い草はないだろう。
そう言いながら、ダミアンはスクールバッグに飛びつき、爪をかけてバッグの上に乗っかった。
「うわ、バカ。バッグに傷がつくだろ」
√ うるさい。文句を言わずにさっさと歩け。
歩道を進みながら騒いでいると、また前から人がやってきた。
……うゎ、何も知らない人から見れば、おれはひとりで猫相手に大声出して騒いでるように見えるだろうな。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
正面から歩いてくるのは女子高生だ。
制服は……
見覚えがあるけど、どこだっけ?
この辺りは高校が多いからな。
それにしても――その子の美貌は遠目でも際立っていた。
アイドルと言われても信じるレベルだ。
あまりジロジロ見ると不審者だと思われるので、出来るだけ視線を逸らし、さりげなくすれ違おうとした――のだが、もう少しですれ違うというときに、やっぱり気になるので彼女をチラッと見た。
背中まで伸びた、さらさらの長い黒髪。
どこか儚げな印象を与える卵型の整った顔立ち。
背は心優と同じくらい。
全体的に細身だけどバランスがとれている。
思わず見惚れるほどだ。
そんなことを思っていると、スクールバッグの上のダミアンが、ビクッと震えた。
「……ん? どうした?」
ダミアンの様子を見ようとしたが、彼女が驚いた顔でおれを見ているのに気づいた。
一瞬の沈黙。
そして彼女とすれ違う直前、
√ 逃げろぉぉぉ!
ダミアンの絶叫が、頭の中に響き渡った。
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