13:魔王の力の系譜

■下僕とギフト

「というわけで、明日から心優が一緒にジョギングすることになった」


 おれは自室でダミアンに、心優が一緒にトレーニングをすることになった経緯を説明した。


√ そうか。吾輩は別に構わん。


 ダミアンは机の上に置いたスリム型のデスクトップパソコンの上で、まるで置物の猫のように行儀よく座り、ベッドに腰かけたおれを見下ろしている。


 こいつ、どうしておれよりも一段上に行きたがるんだよ。


「いいのか? 二本足で歩けなくなるぞ」

√ 構わん。


 なんか、うわの空だな。


「何かあったのか?」

 訊ねると、一瞬、間があって――


√ 今日、木の上で寝ていたとき、何度も視線を感じてな。


「お前が猫に憑依しているのが、仲間にばれたんじゃないのか?」


√ その可能性は無いとは言えんな。だがな……

 ダミアンは考え込んでしまった。


「よく異世界もののラノベに出てくる、索敵スキルとかでばれたんじゃないか?」

√ 普通、吸血族にはそのような能力は無い。


 いまの言い方だと、普通じゃなければ有るんだな。


「じゃぁ、普通はどうやって同族を見分けるんだ」

√ 憑依した吸血族を見分けるには、魔力を感知するくらいだ。それも、1,2メートルくらいの距離に近寄らなければ気が付かん。


 ダミアンは行儀よく座っているのに飽きたのか、パソコンの上に腹ばいになった。あんな細長い上で腹ばいになるなんて器用なものだ。


「他に方法はないのか?」

√ ギフト。


 前足を舐めながら、ダミアンはポツッと言った。

「ギフト?」


√ ヴァンパイアを含め、吸血族は下僕を持つことが出来るのだ。下僕になった人間は、吸血族からいくつかの加護が与えられる。


 加護って何?


「呪いの間違いじゃないのか?」


√ うむ。何か勘違いをしているようだから説明しておこう。我らが魔王様は、もともと神の御使いだったのだ。


 それは何かの本で読んだことがある。


√ 大天使だった魔王様は、神と袂を分かち悪魔という存在になった。わかるか?


 それもなんかの本で読んだことがある。

 おれは頷いた。


√ ということは、魔王様の力は、神の力の流れを持つ力だということになる。


 まあ、言われてみればそうかもしれないな。


√ さらに言えば、魔王様の眷属である吸血族の力も、神の力の流れを持つ力ということになるのではないか?


 ややこしいけど、そうかな。


√ すなわち、我々が下僕に与えるのは加護だ。


「ちょっと納得いかないけど、そうなるのかな」


√ だいたい、同じものでも与える者によって、加護とか呪いとか使い分けるというのは差別ではないのか。


 なんか機嫌悪くなってきた。

 この件については、相当思うところがあるようだ。

 話を戻そう。


「前から気になってたんだけど、下僕ってなんなんだ?」


√ 下僕とは、『庭掃除をしたりする下男のこと』だと辞書に書いてあったぞ。


「そんなことは訊いてない」


√ こほん。冗談の分からんやつめ。下僕とは吾輩たち吸血族が嚙みついたときに魔力を流し与えた者のことだ。ヴァンパイアにするには大量の魔力が必要だが、下僕は少しの魔力でも作ることが出来る。


「それって人間でなくなるのか?」


√ 下僕はヴァンパイアと違い人間のままだぞ。下僕になったものは主人、つまり魔力を与えた吸血族の命令には絶対に従うようになる。


 おれはぞっとした。

 こいつ、おれをそんなモノにしようとしてたのか。


√ その見返りに我々は加護を与えるのだ。それは防御に関する力だったり、人よりも優れた身体能力だったり様々だ。それをギフトと呼ぶが、どの様な能力が与えられるかは、ガチャだな。与えられる魔力が少ないと、たまにハズレて何も与えられないこともあるが。


 どうしてそこはゲーム用語なんだよ。

 ラノベの読みすぎだな。


「そのランダムに与えられるギフトの中に、索敵スキルがあるのか?」


√ そうだ。前回人間界に来たときは、運よく索敵スキルを持つ下僕を手にしたので、他の吸血族よりも有利に立ち回れたが……


 ダミアンはおれのほうをチラッと見た。


「言っとくけど、下僕にはならないぞ」


√ わかっている。嫌がるやつは下僕に出来んからな。

「そうなのか?」


√ ヴァンパイアと違って、下僕に変えられるのは、なりたいやつだけだ。

 なるほど、無理には下僕に出来ないんだ。


√ 玄関が開く音がした。七花が帰ってきたようだな。


 ダミアンは一方的に話を切り上げて、キャットフードを貰うために、玄関まで姉ちゃんを出迎えに行った。


「もうそんな時間か」

 おれもダミアンの後を追った。

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