卵になれ。それがこの星で生き抜くただ一つの規則。

ファラドゥンガ

前編 鳥頭竜の巣の上で

 この宇宙いかに広しと言えど、あんな突飛な刑罰を執行するのは鳥類型チキンだけだろうな。


 この話をするのは、お前さんが地球から来たばかりの新人フレッシュで、辺境惑星のやり方に慣れていないだろと心配したからじゃない。


 俺は単純に身の上話を聞いてもらいたいんだ。

 久しぶりの人間型ヒューマノイドに逢えて、嬉しくてよ……。




 * * *




 俺は宇宙をさすらう一匹狼の泥棒だった。


 名前はいろいろあったが、あの頃はモンティって名乗ってたよ。

 かわいい名前で、皆油断すると思ったわけ。

 その隙にお財布をたんまりいただくってアホな計画だった。


 なんの因果か、その名前のことで一悶着あってな。

 一休みに寄ったステーションで、鳥類型チキンが喧嘩ふっかけてきたんだ。


 奴ら、人間型ヒューマノイドの俺に対して、「モンティ、猿人モンキー!」なんてぬかしやがって。

 それで、ちょいと嘴を明かしてやろうと奴らの縄張りで盗みしごとしたんだ。


 で、見事にとっ捕まったわけだ。


「やいこら、猿人モンキー!」って、お得意の突っつきで牢屋に押し込まれちまった。


 面白いのが、その牢屋ってのが象牙色をした巨大な卵でな。

 身長190cm、体重85キロの俺がすっぽり収まるほどの大きさよ。


 パッカリと横半分に割って、その中にさあ入れってんだからおかしな話だ。


 その際に殻の断面を見たんだが、結構な厚みで、おまけに内側は白い弾力性のある膜で覆われている。

 衝撃を与えてもなかなか割れそうにない代物だ。


 ま、入るときくらいは大人しくしていたさ。


 俺を収容した後、鳥類型チキンどもは上半分の殻で蓋をして、妙な糊でくっ付けた。

 その糊が不思議なもんでね、接着面は傷一つない新品みてぇに消えちまった。


 薄暗い、卵の牢獄の完成ってわけだ。

 

 その後、俺を閉じ込めた卵は巨大なタンカーに乗せられたらしく、ビュンビュンと光速でどっかに運ばれたんだ。




 * * *




 時間にして恐らく388J.Wが経った頃、タンカーは停止。

 俺の卵をごろんと外に放り出して、またどこぞへ去っていった。


 放り出された場所は、霧かすむ高原みたいな土地だった。

 ときおり風が長閑に吹き渡って霧を晴らし、僅かにのぞいた空が青々と色づいた、気持ちの良い時間帯。


 ちなみに、卵に閉じ込められていながら外の様子がわかるのには、理由がある。


 俺だって、ただ黙って大人しくしていたわけじゃない。

 いろいろ抜け出す方法を試していたんだ。


 宇宙で盗みを働く者に欠かせないのが、盗人ぬすっと三種の神器。


 そのうちの一つが生物兵器、ムモンちゃん。


 闇市で法外な値段で買ったペットさ。

 ムモンちゃんを携帯するために、専用の臓器へやを体内に移植したくらい、とにかく可愛い相棒だ。


 ソーセージみたいな形をしてるが、光ったり棘を出したり酸を吐いたり伸縮自在……多方面で大活躍ってわけよ。


 俺は腹部を強く抑えて、ぐえっとムモンちゃんを吐き出し、卵の殻をちょちょいと溶かしてくれと頼んだ。


 が、ムモンちゃんは見返りをすぐに求める生意気な性格。

 餌をクレクレと頭を振って言うことを聞きゃしねぇ。


 餌は鳥類型チキンどもに没収されちまってる。

 土下座して頼んだが、ムモンちゃん、酸を生成するにはエネルギーが不足らしく、棘だけ出して、また体内に引っ込んじまった。


 その棘片手に、コツコツ穴を空けていたんだが……一体どんな生物の卵なのか、まったく固すぎる。


 タンカーで運ばれている間、俺は無心で穴を穿ってた。

 それでも成果は小指の先ほどの小さな穴。


 ま、外から情報を仕入れるにはもってこいの覗き穴になったがね。




 * * *




 それで俺は、霧の高原に一人置き去りの刑……ではなかった。

 というのは、よくよく眺めると俺の卵と同じようなもんがポツポツと転がっていたからだ。


 同じように捕まった奴らか……そう考えていると、案の定、その中の一つがボコンボコンと騒ぎ立てながら、


 「……ヮㇱ……!」


 卵の中から何か叫んでいる。


 が、殻が分厚くて聞こえづらい。


 俺は左の耳タブを引っ張り、超聴覚機器を起動。

 こいつも三種の神器のひとつ。

 狙った箇所で起こった物音を盗聴、分析できる優れもの。


 で、あの卵の中の人物が何を言っているのかと言えば……。

『おいこら、わしを誰だと思うとる!犯罪王・リィポンじゃぞ!』

 と、しょうもないこと。


 しかし、一人の騒ぎに乗じて、他の卵たちもボコンボコンと活発に動き出した。


 どうやらここの卵は全て、罪人たちを納めたものらしい。


 脱獄で大事なのは現場に混沌カオスをもたらすことではある。

 が、まだ情報収集は十分じゃないな……そんなことを考えていると、



 ――ドシンッ!


 地面が大きく揺れた。


 宇宙いかに広しと言えど、この揺れは尋常じゃなかった。


 俺は超聴覚によって振動音を分析、その正体を割りだした。


 体重は6.8トン、三前趾足という足の形状、それから蛇のような長い尾ッポの奴が、地面に降り立って――。


 「クァカカカカ……」


 ああ、この鳴き声は間違いねぇ。

 鳥類型チキンどもが、第31次エルムーン衛星間戦争の時に投下した生物兵器―—鳥頭竜コカトリスの大型種だ!


 どうやら俺は、その巣のど真ん中にいるってわけ。


 さて、どうしよ……。

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