閑話 受付嬢視点
受付嬢の視点
「三才児がゴブリンを狩っているようなものだ」
そう評されて、理解できる人は少ないと思う。
だって、彼は三才児ではないのだから。
背丈もあるし、声変わりもしている。
字も綺麗だし、算術なんて私より速い。
だから余計にややこしい。
でも、魔力的にはそうなのだ。
経験と感覚が示す値は、今でも歳相応ではない。
増えてはいる。確実に。
三年経って、ようやくよちよち歩き。
それでいて、ゴブリンだけは狩れる。
しかも安定して。
おかしい。理屈が合わない。
もっとおかしいのは、この街だ。
彼が現れてから、変わっていないものを探す方が難しい。
私が使っている紙。
インクの配合。
筆記具の形。
依頼書の書式。
討伐報告の算術処理。
全部、発端は彼の呟きだった。
「植物紙ならもっと薄くできますよ」
「この計算、まとめられますよね」
「欄を統一した方が、後が楽ですよ」
独り言みたいに言ったそれを拾い上げた人がいて、
試した人がいて、
結果が出て
気づけば、標準になっていた。
本人はまったく自覚していない。
お金もそうだ。
呟きからの発案、発明、発見。
それらの利益は、きちんと彼に還元されている。
ゴブリン討伐の報酬は、正直高くない。
なのに彼は言った。
「大金を持つの、怖いんですよね」
まぁ、分からないでもない。額が額だ。
結果、ギルド預かり。
今も預金額は増え続けている。
使ってくださいと商業ギルドが頭を下げ、
じゃあと彼が作ったのが、学校。
建築費、運営費、教材費。
全部、自腹。
「人材は最高の投資先ですから」
「親切にしてもらったお礼です」
軽い。
軽すぎる。
学校創立者。
経営者。
大金持ち。
それでいて、毎日ゴブリンを討伐している。
つまり
この街で、一番の嫁ぎ先。
の、はずなのに。
「今日もゴブリン討伐。ご苦労さまです」
私は最高の笑顔で迎える。
鏡の前で練習した、完璧なやつ。
効果は、ない。
本当に、ない。
三才児並みに、ない。
いや、待って。
私の笑顔は三才児には効果がある。
甥っ子で証明済みだ。
ということは
三才児以下。
もう、あれよ。
押し倒すぞ、しまいにゃ。
と、思う私がいる。
しかし、理性が囁く。
彼は、魔力的には三才児。
あなたは、三才児を押し倒した女になるの? と。
だから今日も私は、
最高の笑顔で、出迎える。
魔力的三才児がゴブリンを狩るこの街で、
一番理性と戦っているのは
たぶん、私だ。
ゴブリンくらいしか討伐できません 本上一 @aaa-aa-a
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