ゴブリンくらいしか討伐できません
本上一
第一話 三年目の
三年経った。
異世界に転移して、剣と魔法の世界で生きるようになって、ようやく年数で語れるくらいには時間が流れた。
それでも、狩れる魔物はゴブリンくらいだ。
何とかやってる。という表現が一番正しい。
日銭を稼ぎ、宿の安い部屋を借り、腹を満たす。
そのすべてが、ゴブリン討伐で成り立っている。
もちろん、ゴブリンより弱い魔物はいる。
ぷるぷると跳ねるだけのスライム。
畑を荒らす、でかい芋虫。
だがそれらの討伐は、子供たちの仕事だ。
この世界では、魔力を消費したり、魔物を討伐すると魔力が増える。
剣を振り、魔法を使い、命を奪うことが、成長そのものに直結している。
だからこそ
ギルドに初めて足を踏み入れた瞬間、すべてがバレた。
「……異世界転移者、ですね?」
受付嬢は笑顔で淡々と言った。
受付カウンターに立った後だった。
魔力が、少なすぎたのだ。
生まれたての赤ん坊よりも少ない魔力。
この世界の基準では、ありえないほどの少なさ。
一年目は、とにかく心配された。
冒険者ではなく、保護対象。
ギルドの隅で、子供たちに混じって文字や魔力操作を学ぶ日々。
ただし
子供も、油断ならない。
彼らは生まれたときから魔力に触れている。
いや、ことによれば、生まれる前からだ。
異世界歴は十年近い。
俺とは、年季が違う。
彼らが段階を踏んで、何年もかけて覚えたことを、
俺は一足飛びに身につけなければならなかった。
幸いだったのは、算術だ。
四則演算、割合、簡単な方程式。
この世界ではまだ一般化していない知識を教える代わりに、
魔力の理屈、体の使い方、剣の基礎を叩き込んでもらった。
交換条件としては、悪くなかったと思う。
日々、劇的に強くなったわけではない。
だが、ふと気づく。
去年より、討伐数が増えている。
一日一体が、二体になり、三体になる。
一年目が、その日暮らしだったことを思えば
着実に、前に進んでいるはずだ。
「今日もゴブリン討伐。ご苦労さまです」
ギルドの受付嬢が、笑顔で言う。
報酬を受け取りながら、俺は軽く頷いた。
その笑顔は、純粋な労いだ。
同時に、社交辞令でもある。
ゆめゆめ勘違いしてはいけない。
これは称賛ではない。
評価でもない。
まだ、ゴブリンしか狩れない人
その前提の上に成り立つ、優しさだ。
俺はそれを、よく理解している。
だから今日も、剣を磨く。
ゴブリンの血を落とし、次の依頼書を取る。
一歩ずつでいい。
三年かかって、ここまで来た。
なら――
四年目も、五年目も。
ゴブリンを殺しながら、俺は生きていく。
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