断罪の鈴は聖夜に鳴る -西洋聖人殺人事件-
ガル・トロイド
第1話 ……だけど、多分30話ぐらい?
「そうか、そういうことだったんですか」
探偵は頭をかきむしる。フケがふりかけのように落ちる。警部が飛び退くが探偵は気にせず推理を展開する。
「わたし達はとんでもない思い違いをしていたのかもしれません。カギは赤い聖人の像、という思い込みが推理を間違った方向に進ませてしまった。総ては、最初のところで間違えていたのです。……警部さん、関係者を全員集めてください」
洋館の応接室に総ての関係者が集められ、その輪の中心に探偵が立つ。そして、事件の真相を語り始める。
「この事件の動機は宝探しではありませんでした。先代の残した秘宝、それが赤い聖人の像に関わっていると、わたしたち全員が思い込んでいたんです。……いえ、訂正します。犯人以外はそう思っていた、ということです」
「ちょっと待ってくれ探偵さん。財宝を巡っての殺人じゃないっていうのかい?」
と、警部がいった。
「はい、今回の悲劇は財宝を巡ってのものでは有りません。いえ、財宝を巡っての諍いは実際に、この屋敷の中で行われていました。それは皆さんの心が知っているとおりです」
探偵は思考を巡らせながら部屋を歩き回る。
「
探偵は帽子を取って握りしめ悔しそうに声を絞り出した。
「それが勘違いだったのです。宝は初めからあの像にはなかった。そして真犯人は本当の像を知っていてその宝をみつけた。しかし、そこで真犯人は遅れてきた舞子さんとばったり会ってしまった。舞子さんは真犯人のお宝と内容に気づいてしまって、真犯人に殺された。そして、真犯人は何食わぬ顔でサンタクロース像に集まる我々と合流した」
応接室の一人、長男のプランサーがいう。
「あのとき遅れてきた人といえば……」
皆の視線が一人に集まる。
「そうです。あなたです。ルドルフさん。あなたが犯人です」
ルドルフが動揺していう。
「そ、そんなことでわたしが犯人だというのはムチャじゃないか」
「そこで我々の勘違いです。我々は遺言状の『聖人の像』に惑わされました。確かにこの街は、馴鹿家、特に先代のダッシャー翁の先見の明で、早期に日本にクリスマスを導入しました。田舎の町おこしとして成功し、戦前からあるサンタクロースの像は戦禍も逃れて、街のシンボルとして、経済に寄与してきました。だから、聖人の像と言えばこのサンタクロース像と思うのも当然です」
「そうです。ですから、遺産のお宝がまさかサンタクロースにあるなんて、ということでこのような事態になっているのではないですか」
馴鹿家の四男ドナーがソファに座りパイプをくゆらせながら言う。
「ええ、でも違うんです。問題はこの遺言状がいつ作られたかです。遺言状はかなり前に作られ封印されて弁護士に預かってもらっていました」
「そうですね。父はニューヨークで肺を煩って死を覚悟して遺言状を書き、しかし奇跡的に寛解して財をなして聖人村をここまで発展させた」
三男の弁護士コメットがワインを飲みながらいう。探偵はそれを聞いて一つ確認を取る。
「ブランサーさん、ダッシャー翁はあのサンタクロースの像を送ってくるずっと前に神社を建立していると」
「ええ、向こうの龍神様だとか何とか。青龍でしたか人物の像を送って寄こして祠を建てろと。あれは昭和ではなく大正でしたか」
「そうです。大正時代です。ダッシャーさんのご病気の最中でした。信心もあったのでしょう。そして、同時期に書かれたのがその『遺言状』なのです」
「まだ話がみえません。どういうことです?」
最年少五男の軍人のブリッツェンがいった。
「遺言状の『聖人』と祠のご神体『青龍の聖人』は同じなのです」
「なんだって!?」
部屋にいる全員が驚いて声を上げた。いや、ひとりだけ沈黙を続けている人物がいる。
探偵はその人物、ルドルフをみながら話を続ける。
「私たちの勘違い、それは聖人を赤い服を着たサンタクロースと思い込んでいたことです。無理もありません。昭和30年の今、サンタクロースといえばあの赤い服を着たおじいさんだからです。しかし、あのサンタクロースのイメージができたのが、1931年。つまり昭和6年なのです。遺言状の執筆は大正15年です。これは確認が取れました。つまり、遺言状の執筆時にサンタクロース像に秘密を隠すことはできないのです」
部屋にどよめきと緊張が走る。
探偵が風呂敷から一枚の絵を取り出す。
「これが大正時代にアメリカで流通していた聖人の図です。緑色の服を着た聖人です。赤ではありません。赤は当時のコカコーラのイメージカラーでした。宣伝に利用したのが思ったより一般化したのです」
探偵はルドルフの前に立ち赤く腫れた鼻の前に聖人の図と、祠のご神体の人形をみせた。人形は絵にそっくりな緑衣の聖人だった。しかし、服は破れ、背中が割れている。
「我々普通の日本人はサンタクロースといえば赤い聖人です。しかし、その常識のできる前からアメリカに行ってそのことを知ることができた人物、馴鹿家ではダッシャー翁と、そう、神学校に留学していたあなた、ルドルフさんだけです。ですから、あなたはこの遺言の真の意味を誰よりも早く理解出来た。違いますか?」
ルドルフは震える手でワインを一息にのみ、語り始める。
「探偵さん、見事だ……」
ルドルフは胸のポケットから古い鈴を取り出した。
「これが青龍像、真のサンタクロース像の中に封印されていた鈴だ」
探偵はそれを見て「スレイ・ベル……そりの鈴ですね」といった。
「我々が探していたはずの鈴はシャンシャンと軽やかな音がなります。それが現代の常識だからです。しかし、過去の音は違った」
ルドルフが鈴をならすとゴローン、ゴローンと深く低い音色が応接室に響く。
「これが財宝のカギなのか……」
ブランサーがつぶやくと同時につばを飲む。応接室にいる馴鹿家だけでなく警部や駐在も同じくゴクリと音を立てた。
……以下適当に解決編。タイムリミットです。(^^;12月25日18時。
断罪の鈴は聖夜に鳴る -西洋聖人殺人事件- ガル・トロイド @garutoroid
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