私のクリスマスの物語

山口甘利

私のクリスマスの物語

 12月22日

 やばい、やばすぎる。本当にクリぼっちになる。

 私、坂上美咲は今超絶焦っている。

 夏休み明けに好きになった、宮崎広輝君とクリスマスを過ごす...予定だった。

 クールでカッコよくて、イケメンな広輝君はもちろんモテモテ。

 女の子とはあまり話さない男子だから、情報がほとんどない。

 だから、勝手に好きな人はいないんだと思ってた...。

 3日前、親友から広輝君には隣のクラスに好きな人がいることを教えてもらったのだ。もう、絶望でその日は何も頭が回らなかったことを思い出す。思い出すだけで辛くなる。

 今は時間と共に回復しつつあるけど、まだ目で追ってしまう。片想いってわかってるのに...。

「もう、無理。」

 ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。

 また、脳裏に広輝君の顔が浮かぶ。胸がギュッとなる。

 広輝君は隣のクラスの誰が好きで、どのくらい好きなんだろう。想像するだけで、苦しいのは自分だって分かってる。でも、どうしてもまだ諦められない。

 涙が出そうな目を閉じて、眠ることにした。明日は、いいことあるといいな。


 12月23日

 朝ごはんは、私の大好きなホットケーキ。

 昨日は結局、涙を止めることができず、一人で夜泣いていた。

 もしかしたらお母さんにそれが聞こえてて、ホットケーキを作ってこれたのかな。仕事に行ってしまったから、また帰ってきたから聞くことにしよう。

 ぱっと思いついたのは、親友の夏音と一緒に過ごすことにしよう。毎年毎年、パーティをしているのだから今年もそうしよう。


 家を出て、約束のカーブミラーの下に向かうと夏音はもう待っていた。

「夏音、今日めっちゃ早いじゃん。」

 ニヤニヤした顔で夏音は言った。

「うん、じーつーは、美咲に聞いてもらいたい話があってさ。」

「うん。」

 私は小さく頷いた。

「彼氏、できました。」

 そう言って夏音はパチパチと拍手をした。

 それに釣られてわたしも拍手する。

 てことは、クリスマスは彼氏と過ごす…ってことになるよね。

「おめでとう。彼氏ってどゆこと?良い感じの人がいたの?」

 焦る気持ちを抑え、夏音の話を聞くことにした。

「うん。誰にも言ってなかったんだけど同じクラスの、大河くん。」

 私は口に手を当て、言葉を失う。大河君、と言えば学校一の王子様と呼ばれるくらいのイケメン。そんな王子様と親友が付き合うなんて…。

 この幸せそうな2人を邪魔する権利なんて、私にない...。

「な、なんで言ってくれなかったの?そんな王子様と付き合うなんて。」

「だって〜大河が秘密だって言うから。」

 恥ずかしそうに夏音はそう言う。しかも呼び捨てで言い合うなんて、結構仲良いじゃん。

「でもさー親友だよ私たち?」

 そうだけど〜、と夏音が言う。

「だから、毎年やってるクリスマスパーティ、今回はなしっ、でよろしく。」

 うわっ、心の中でそう呟く。ほんとのほんとに私クリぼっちじゃん、このままじゃ。

「そっかー、分かった。まあ幸せにね。」

 もちろん親友に彼氏ができるなんて応援している、だけど...。

 自分勝手な考えが私の頭の中をぐるぐると回る。とりあえず、今年は…一人、だね。


12月24日

 今日はクリスマス・イブであり、終業式。

 クラスのカップルは、今からお買い物や、カラオケに映画。ちなみに、夏音達は早速お家デートだって。羨ましいよ...。

 広輝君はまだ告白していないから、一応クリぼっち、らしいけど。


 帰り道、今年最後の自転車下校。

「美咲〜広輝君に告りなよー。」

 赤信号で止まった時に、夏音が言った。

「ううん。無理無理。だって好きな人がいるんでしょ?そんなのもう無理だよ。」

 私はきっぱりと首を振る。

「私と大河の話をしたら怒ると思うから、美咲の話聞かせてよ。」

 私は口を膨らませる。

「ねえ、夏音。私広輝君に告白して、成功すると思う?」

「うーん。何とも言えないかも。好きな人がいる、って分かってもそんなに好きなら一回告白して区別つけたら、私は良いと思うけどなー。」

 告白なんかしたら、振られた時のショックは大きすぎて、もっと立ち直れないと思う。

「もうー夏音はぜーんぜん頼りになんないじゃん。もうやだー」

 そう言って私は自転車のスピードを早める。後ろから待ってーと声がするけどまあいいや。


 夕方、私はお母さんにクリスマスプレゼントとして、お金をもらったから買い物に来ている。

 駅を降り、ショッピングモールに入る。中は人でいっぱいだ。みんな幸せそうなカップルばかり。

 私だって彼氏とおそろいの物が欲しいよ、彼氏のジャンバーのポケットに手を入れて手を繋ぎたいよ、マフラーをつけてもらいたいよ、写真も撮りたいよ、一緒にケーキだって作りたいな。

 妄想が広がる。無理だって分かってるのに。

 少し前からいいなと思っていた、くしと鏡を買って、外へ出た。

 外に出たからと言って、幸せそうな人たちはたくさんいる。

 イルミネーションがきれいだ。

 ハートの形をした、光の中で写真を撮っている人たち。

 きれいに光った道を歩く人たち。

 決めた、私、一か八かで明日告白する。私だってみんなみたいにイチャイチャしたいよ。

 ねえ、サンタさん。私の祈り、叶えて下さい。


12月25日

 クリスマス当日。

 この日の朝は、早起きしてクリスマスツリーに置かれているプレゼントを開けていた。

 いつの間にか、お金に変わっちゃったけどね。

 朝9時。

 よし、と気合いを入れて考えていた文章を送信する。

 すぐに既読がついた。心拍数が上がる。

(美咲:前から好きでした。もし良かったら、私と一緒にクリスマス過ごして下さい。)

(広輝:はい。お願いします。)

 スマホが手から落ちた。はっとしてスマホを拾い上げる。

 嘘、まさかの成功。まだ夢を見ているような気がして、現実が信じられない。

(美咲:嬉しい!急にこんなこと聞いちゃうんだけど、好きな人隣のクラスにいるんじゃなかったの?)

(広輝:まあ、前ね。実は少し前から美咲さん?呼び捨てでもいい?美咲のことばっかり見ててさ。)

 呼び捨て。きゅんと胸が高鳴る。

(美咲:うん。私も広輝って呼ぶね。ほんとに!両思いだったんだ、嬉しい。)

 顔がニヤける。私の願いが届いたんだ。

 その後、私たちは予定を決めて、少し会うことになった。

 髪にアイロンを通す。何度も勉強した巻き方をする。少しだけ化粧もする。

 楽しみで体が落ち着かない。


 待ち合わせは駅前の大きなツリーの前。

 昨日、カップルを嫉妬していたこの場所で、好きな人と来られるなんて。

 人混みの中から、広輝が現れた。そこまで話したことのない広輝と話すのはすこし緊張する。

「美咲。」

 嬉しそうに、照れくさそうに広輝は私の名前を呼んだ。

「よろしくね。」

 私は顔を赤らめて言う。

 付き合ったばかりだと言うのに、広輝は手をそっと繋ぐ。私はそのまま広輝の服の中に入れる。

 お互い顔を見合わせ、微笑む。

「ねえ、広輝はどうして私のこと好きになったの?隣のクラスの子よりも。」

 私は聞きたかったことを聞いた。

「うーん。隣のクラスの人は顔で一目惚れしたけど、美咲は性格が良いなって思って好きになったんだけど、美咲は机をそっと片付けたり、カバンを取ってあげたり、プリントを渡す時に渡しやすくしたり。そうやってさりげなく親切なところが素敵だなって思って、いつの間にか好きになってた。逆に美咲は?」

 私が何も考えずに、していた行動を褒めてくれ、ただただ嬉しい。

「私は顔と、あとはクールな所かな。どんな喧嘩にもクールに対応してるのがすんごいかっこいいなって思って。」

「ありがとう。なんか俺ら長続きしそうじゃない?」

「ね、絶対しようね。」

 私は広輝の手をギュッと握る。

 クリスマス、恋人と過ごせて幸せだ。

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私のクリスマスの物語 山口甘利 @amariyamaguchi

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