俗なる夜
ペル S.ヒガンテ
俗なる夜
「今月さぁ、金足りないんだよね~。小白くんバイト増やしたんだよね?
3万でいいから貸してくんない?」
「この前のお金も返してもらっ…」
左頬に風が吹く。
「なんか言った?」
息が苦しくなる。
「わ、わかりました…」
「お、気が利くじゃんw、サンキュー。」
財布を買う金も惜しいため、入れ物として使っていた封筒ごと取られる。
僕は言わずもがな弱者であり、見世物だ。
教室という舞台で何もできない無力なピエロ。
観客は今日もあざ笑う。
役者仕事は疲れるため、控室が必ずいる。
皆、舞台裏など興味がないのだろう。
読書が唯一の休息。
しかし、今日は違った。
扉を開けると、1人の女子がいた。
自分が、いつも座る席に昨日読んでいた本をその子は読んでいた。
凍える図書室に、ただ静かに本を読む。
突っ立ていると、彼女と目が合う。
「貴方も座れば?」そう言って、隣の席に座ることを促す。
「それとも、自分の席に座られているのが嫌?」
いつものリズムを壊された僕を、更に狂わせてくる。
「フフ、なんでわかったって顔してる。貴方ってわかりやすいのね。
答えは簡単、埃が無かったから。それより、本。読まないの?」
手取り足取り、誘導されるように隣に座り、
「ごめんだけど、君って誰?」
そう質問すると、彼女は一瞬目を見開くが、先ほどの微笑みに戻る。
「ひどいのね、私の初めてだったのに」
「はぁ?」身に覚えがない。僕には友達すらいないのに
「冗談。同じクラスの同じ委員会なんだから名前くらい覚えておいてよね。」
「ごめん、僕記憶力悪くてさ人の…」
「ストレイシープ」「?」「今の貴方のこと、そして私のこと。」
「迷える羊?」「正確に言うなら子羊かしら。」
当然のごとく疑問は飛び交う。
しかし、彼女の世界に吸い込まれる。
「サンタクロースっていると思う?」
「なんでそんなこと急に?」
「明日がクリスマスイブだから。で、小白くんはどう思う?」
「いたら誰も苦労なんかしてないよ。」
「そっか、神様とか信じないタイプ?」
「いたらこんな理不尽になってない。」
「そっか、じゃあ悪魔は?」
「いる。人間そのものが悪魔だ。地球上最悪の理不尽。」
「結構過激派なのね。じゃあ小白くんは?」
「今は、まだ人間。」
「フフ、やっぱり小白くんは面白いね。私そろそろ行かなくちゃ。また話そうね。」
「結局名前は?」
「自分で思い出して。それで、悩んで迷って。」
それだけ告げると彼女は出て行った。
「悪魔。」
性悪説。
黒は隣にいる。
紙をめくる。
「小白くん、やっと帰ってきたのね。ちょっと夕飯のお手伝い頼んでいいかしら?」
「はい、いいですよ。」「小白兄ちゃんおかえりー。」
物心ついた時から両親などいなかった。
ここが、家。
可もなく不可もない。
祈りをささげる。いない神に向かって。
人は何かに縋ってないと生きていけない。それが神父様は神なのだろう。
「皆さん、明日はクリスマスイブ、その次の日はクリスマスとなります。
今年もいい子で過ごしていたと思われますが、悪い子のところにはブラックサンタが来ますので、明日もいい子で過ごしましょう。それでは、今日もよき夢を。」
本当居るのなら、自分を見捨てないでくれ。
「おや、こんな時間まで勉強ですか?精が出ますね。」
「神父様。」
「そろそろ寝ませんと、明日に響いてしまいますよ。」
針は23時を指していた。
「そうですね、ついつい夢中になってしまって。すみません。」
「謝ることはありませんよ。ただ、人間無理をすると壊れる生き物ですから。」
「1つ聞いていいですか?」
「はい、何でも。」
キーンコーンカーンコーン
授業が終わる。
今日は買い出しがあるため早く帰らなければ。
「おい、そんな急いでどうしたんだよ?ちょっと話そうぜ。」
「な、」次の言葉は紡がれなかった。
突然の視界が回り、次に来るのは痛み。そして最後に笑い声。
その理不尽な繰り返し。
何で殴られているのかさえも分からない。
いなくなればいい。
真っ赤な言葉を吐き出した。
視界は捉える。痛みはない。迷いもない。最後に悲鳴。
雨が降っている。行く先もなくただ歩く。
雨は降り続ける。傷に雨が染みる。
痛みはなく、心地よい。そして暖かい。
「悪魔になったのね。」
「どうして、ここが?」
「雨降ってるでしょ?足跡が…」
「嘘だ。」「…付いてきて誰も知らない場所を教えてあげる。」
「そういって、警察に突き出すんじゃないのか?」
「私は、貴方が行ったことは当然のことだと思ってる。」
「小白くん、ブラックサンタの話知ってる?」「なんで?」
「悪いこのところに来て連れ去るサンタさんのこと。」
「そういう意味じゃなくて、なんで今その話題?」
「だって、ただ歩いてるの、暇でしょ?それに今から会いに行くんだから。」
「は?ごめん、話が見えてこないんだけど。」
彼女は一切後ろを振り返らずに前だけを見て、迷いなく先頭を歩く。
「お願いしたの。会いに来てくださいって。その場所に行く。」
「はぁ?サンタクロースなんていないだろ?」
「サンタクロースはね。私神様とか嫌いなの。でも、悪魔に無理なことはない。」
「着いたよ。」
そこにあるのは、地下に続く階段。
看板を見てみればそこには「BAR:Spes-Rum」と書かれていた。
「行こう。」彼女の瞳は曇り1つない星。
「うん。」彼女の手を取り階段を下りていき店に入る。
カラン、カラン
「メリークリスマス。かわいいお客さん。」
そこには口だけ見えている男がいた。
「初めまして、サンタさん。いや、ブラックサンタって呼んだ方がいい?」
「ハハ、長いから無し。黒でいいよ。」
「そう、黒さん。1つお願いが増えたんだけどいいかしら?」
「あー、いいぜ。」
話は止まることなく流れる、ブレーキを踏まなければ疑問は増える。
「ちょっと待てよ。まずここってバーじゃないの?」
「おい、嬢ちゃん話さなかったのか?」「話したわよ?」
「サンタさんに会うとしか聞いてないぞ。」
「ダメじゃないか。」
パチン
黒が指を鳴らし、音は響き渡る。
「お前たちみたいなのが、クリスマスに来る場所だ。そして、俺はどんな欲望を満たしてやる。だが、代償がいる。自分を捨てる。以上!何か質問は?」
「ね?今の小白にピッタリでしょ?」
「いや、顔は変わらないんだろ?意味ないだろ。」
「あ?なんだ、少年?犯罪者か?」
「多分…」
「まぁいいや。捨てることは1を0にする行為。そして、0から1を作る。」
「それって、死ぬってことなのか?」
「そっちの嬢ちゃんは死ぬために来たんだぜ?」
「は?」
彼女と視線が合うと、ただ微笑む。
「いや、なんで?」
「使い古されて死ぬのは嫌だから。私が私であるうちに死ぬの。」
「いや、理由になってないだろ?」
彼女は、目線を外さない。
「でも、1人は怖いの。だから、」
「少年どうするんだ?」
「…ごめん。」
「もう変わらないの?」
「この世界で何を信じるの?」
「そっか。ねぇ、1つだけお願いしていい?」
「何?」彼女は黒と視線を合わせて、黒は銀色にきらめくものを出す。
「これで、私を」
赤に染まったカーテンが落ち、人はいない
俗なる夜 ペル S.ヒガンテ @Per-S-Hgante
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