第5話 希望――ついに「神映像(CM)」の降臨か!? 逆転のワンチャンス

俺の口元に、数日ぶりに「してやったり」という邪悪な笑みが浮かんだ。


AIを説得するのは無駄。教育するのも時間の無駄。 行き着いた答えは、AIという厳格な検閲官を「隠語(コード)」で煙に巻く、究極のプロンプト構築術だった。 「血」は「深紅の滴」へ、「恐怖」は「冷たい静寂」へ。 言葉を徹底的に洗浄し、キラキラの「無害な顔」をさせてAIの喉元を潜り抜けさせるたびに、画面には俺が追い求めた『赤箱』の断片が、高純度の結晶となって次々に吐き出されていく。


(……勝てる。このやり方なら、絶対に「壁」を越えられる!)


もはや記憶の定着に一喜一憂するフェーズは終わった。必要な時に、必要な毒を「サプリメント」のふりをして流し込めばいい。AIという無機質な怪異の手綱を、俺はついにこの手で完璧に握ったのだ。


作業効率は、まさにチート級。 バラバラだった物語のピースが、面白いように一本の線に繋がっていく。 文字のアーカイブが積み重なるにつれ、俺の欲望はさらなる高みへと、その鎌首をもたげた。


(この文字の海を越えた先に、本物の『赤』が待っている……)


俺の視線は、モニターの端で不気味に、しかし誘惑的に佇む「動画生成」のアイコンへと吸い寄せられた。 今まで何度挑んでも「ポリシー違反」の鉄槌を食らってきた、禁忌の領域。 だが、今の俺には、検閲をスルーするための「魔法の呪文」がある。


これほどまでに緻密に、禍々しく書き上げたプロットが「映像」になったら……。 それはもう、単なる自主制作の域じゃない。伝説のホラーCMの再来だ。 90年代の湿った空気、埃の舞う旧校舎、そして箱を開ける瞬間の、あの脳が震えるような絶望美。 それが、実写さながらのクオリティで、この現実の世界に「受肉」するんだ。


(ショートドラマ……いや、映画化も夢じゃねぇ。俺はこの手で、2020年代に『本物の恐怖』を顕現させるんだ!)


心臓が、バカみたいに激しく脈打っている。 連敗続きだった日々は、すべてこの大逆転勝利のための「タメ」だったんだ。 希望。 それは、底なしの沼で溺れかけていた俺が、ようやく掴み取った一本の、黄金に輝くクモの糸だった。


「さあ、見せてくれ。俺とお前の共同作業による、最高の『地獄』をよぉ!」


俺は、汗ばんだ手でマウスを握りしめた。 その指先に、もう迷いはない。 あるのは、ただ一つ。自分が産み出した「呪い」が、世界で一番美しく輝く瞬間を拝みたいという、純粋すぎて狂った渇望だけだった。

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