第2話 内容を聞く
サキは食べる手をピタリと止め、
「…………殺し合わせる、ですか」
男の言葉を声の調子を低くして復唱した。男は頷いて、
「追放する人数は何人でも良い。1人でも2人でもな。…………そしてオッズっていうからには当然、賭け事もある。コロシアムの観客席で観戦している人達はどちらが勝つかを予想して、当たったら賭けた金額の何倍もの金を貰える。どちらに賭けるかによっても違って、追放"した側"のメンバーが3人、追放"された側"のメンバーが2人で、"された側"に賭けて勝ったら倍率は相当なものになる。
が、逆に"した側"2人、"された側"3人で"した側"に賭けて予想が的中したとしても、さっきの例の、"された側"の人数が少ない時ほどには倍率は上がらない。まぁつまり"された側"の方が基本倍率が高い訳だ。人数の対比によって倍率が変わるけどよ」
「なら"された側"に賭けた方が基本的に良いんですか?」
「いいやそういう訳ではない。大体のパーティは追放する人数を決められるから、追放するメンバーを1人か2人にする。当然"された側"は戦う時人数的に不利になる。だから大体は倍率が低い"した側"に賭ける奴らが多いし、事実"した側"が勝って"された側"は…………まぁ、そういうことだ。どうだ?これが追放オッズのルールだ。要は『"した側"に賭けて安定した金額を貰うか?負けるリスクを覚悟に"された側"に賭けて膨大な金額を得るか?』って選択を迫られる訳だな」
「ほうほう、つまり安定か挑戦かの二択ってところだね」
「一応王に選ばれたパーティは断れる事もできるが、大体のパーティはこれを受け入れる。そして年に2〜3度ほど行われるこの行事は大々的に開かれる。殺し合いの当日にゃあ、国中は騒げ歌えのどんちゃん騒ぎのお祭り状態。実際屋台も出るしな。ここまでの話、理解出来たか?」
「えぇ、ありがとうございます」
「まぁ、大体は」
「そうかそうか、そりゃ良かった」
大体の説明を終えた男は手に持っていたラガーを一気に飲み干すと、ウェートレスにもう一杯注文をした。
サキはコップに注がれた水を一口飲んで、ポツリと呟いた。
「しかし、そうですか。そんな行事があったとは。うーん、追放"した側"と"された側"で殺し合い…………」
「…………狂ってると思うか?まぁそうだよな。何で王がパーティを選んで、そいつらに殺し合いをさせんだって話だよな?」
「ええまぁ。殺し合いを断れるのに大体のパーティが受け入れるのも疑問ですし、なんでそんな事をさせようとしたのか。この行事を作った王様の考えが私には分かりません」
「受け入れる奴らが多い件については単純に金と地位だな。相手を殺して勝った方は王から多額の金とランクをSランクにアップして貰えるんだ。金額もかなりの数だし、冒険者にとってSランクは喉から手が出るほど欲しい称号、ギルドからの待遇も格段に良くなるからな。仲間か金と地位かって言われたら、まぁ後者を選ぶ奴らが多く出てくるのも頷ける。アンタも冒険者ならちっとは気持ち分かるだろ?」
「…………ええ、正直言ってどちらも凄く欲しいです。特にお金。今は素寒貧なので」
「ハハっ、正直だな。まぁ、そうだよな……」
笑った後に男は俯いて、空になったグラスを見ながら、何故か、急に哀しそうな表情をした。
本当に急に哀しそうな雰囲気を醸し出すので、なんだろう、何か思い返しているのかなと、サキはまるで過去を振り返って後悔しているように見える男の姿を、不思議に思いながら見ていた。
それから男は顔を上げ説明を続けた。
「そして王がこの行事を作った理由なんだが、なんでも昔はパーティ内のリーダーが弱くて使えないやつを追放する風潮が流行ったらしくてな。今じゃそんな事も殆どないが。そんで今より小さくて貧しかったこの国の当時の王は『……悪い風潮は少し工夫すればより良い利益を生み出すもの。ならばそのマイナスな風潮を国の為に活かせないか?この国の飢えと渇きを改善しうる手段に使えないか?』と良く分かんない事を考えたんだとよ」
「そして作ったのが追放オッズ?」
「そ。王のヘンテコな考えは、これまた見事にハマったらしくてよ。当時の国は本当に貧しくて国民の生活もギリギリ、いずれは崩壊してしまうような国だった。けど追放オッズのおかげで国外から色んな冒険者パーティが集まって移住してくるし、そのおかげで国の経済が回って豊かになるし、人も増えたから国もどんどん大きくなるしで今じゃこの有様さ。今や追放オッズはこの国の名物で色んな冒険者達が来るし、豊かになったから国民は王族を崇拝している。追放オッズも大好きって訳だ。人が死んでも自分達が潤えばそれで良い、昔も今も国中の奴らは…………そして誰よりも追放した側の奴はそう思ってるよ」
「「……………………………」」
2人は男の話を静かに聞いていた。男も少しの間黙った。
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