〜〜追放オッズ〜〜 追放した側とされた側、どちらが死ぬか賭けてみよう。

本郷隼人

第1話 追放オッズを知ってるか?

 それは旅人のサキとその使い魔パティが、その国に来訪して初めて摂る食事での出来事だった。


「なあアンタら……――"追放オッズ"って知ってるか」


 ある国の酒場で1人の酔っ払い男が、テーブルを挟んで反対側のサキとパティにそう問いかけた。




 サキは世界中を放浪する旅人であり、魔法使いだった。白猫の使い魔パティと共に、空飛ぶ箒に乗って様々な国や村をあてもなく訪れ、人々と交流を交わしては得意の占いや、ギルド(注・法人格を有した冒険者組合の別称。冒険者に様々な仕事を紹介、依頼する団体を主に指す。国や栄えた村につき大抵一団体存在する)から依頼されたモンスターを討伐するなどして旅費を稼ぎ、そしてまた別の場所へと旅に出る。そんな生活を送っていた。


 その日サキとパティはこの国に観光と休養の目的で訪れ、夕飯を食べる為にたまたま目に入った酒場に入った。酒場はたくさんの冒険者で賑わっておりほぼ満席だったが、ウェートレスが相席でもいいか?と聞いて来たので了承すると、ある1人の男が座る壁際の2人用テーブル席の、その向かいへと案内された。

 サキは椅子に、パティはテーブルの端に座って適当な安い料理を頼んだ後、男と軽く世間話をした。自己紹介や自分達が旅をしている事、職業が魔法使いで占いなどで生計を立てている事、それでも日々金欠であり生活を送るのは大変だ、などのたわいもない話である。


 その男は20代前半ぐらいの短髪で、腰には剣が鞘に収められていた。人相が悪い顔は紅く、その原因であるジョッキに注がれたラガーをぐびぐび飲みながら、自分は職業剣士の冒険者をしている事、今は仲間もおらずソロで活動している事、そしてそろそろ冒険者を引退して隠居しようと思っている旨を二人に話した。


「へぇ、お兄さんそんなに若いのにもう引退?」と来た料理を食べるパティが興味本位で聞くと、男は神妙な面持ちで冒頭の言葉を発し、今現在に至るのである。


「追放オッズ……ですか?」


 サキがそう聞き返すと男は頷いて、


「この国には他の国にない賭け事が存在する。それが追放オッズ。国民は皆んな知ってるし、国外でも認知度は高いと思うが、聞いた事ないか?」


「いいえ全く」

「聞いたこともないよ」


 サキとパティが同時に首を振ると、男は「そうか」と一言入れてから、その"追放オッズ"について説明し始めた。


「――"追放オッズ"っていうのは随分昔から、遡るなら何百年も前からずっと続いている伝統行事といったところだ。なんでも当時の王が、『この貧しい国を豊かにする為に!』って作ったものらしい」


「どんな行事なんですか?」


 サキが聞いて、男は少し酒を口にしてから、


「王が冒険者パーティを、この国のギルドに登録されている中から基準をクリアした1グループから選ぶんだ。選別基準は三つ、人数が4人以上であり、全員が同じ冒険者ランクではない、そしてパーティランクがBランク以上あること。元々この国ではパーティを組むのに最低4人以上いないといけないから、まぁ実際は全員がCランクやらBランクやらの階級がバラけてて、且つパーティ自体のランクがB以上なら条件は満たされる」


「へー、なるほどねなるほどね。それで?肝心の内容はどんなのなの?」


 今度はパティが聞く。男は一間置いてから、こう聞いてきた。


「なぁ、何人か…‥仮に5人程いるパーティの中からあるメンバーを1人脱退させて……つまり"追放"したとして、その追放したメンバー達と追放された奴、『追放した側と追放された側』が戦うとしたら…………"殺し合う"としたら、アンタらはどっちに賭けるよ」


「「???」」


 二人は少し驚き、戸惑いながらも、お互いの顔を見合わせた後に「追放した側」と、さも口裏を合わせたかのように同時に言った。

 それを聞いて男は少し笑みを浮かべ、何度もうんうんと頷きながら「そうだよなぁ。常人なら普通、そっちに賭けるよな」と呟いた。サキとパティはまだ戸惑っていた。


 男は変なことを聞いて悪かったと謝ると、すぐにまた神妙な面持ちになって説明を再開する。

 男が説明したその内容はこうだった。


「――ええっとつまりな、追放オッズってのは王が選んだそのBランク以上のパーティの中からメンバーを"追放"して、追放した側とされた側を、国の中央にあるコロシアムでどちらかが"死ぬまで殺し合わせる"んだ」

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