エピローグ:熱の回廊
発電所の運転開始から10年後。
八幡平の冬景色は一変していた。
白い蒸気を上げる地熱発電所の隣には、巨大なサーバーファームが並び、その排熱を利用した広大なマンゴーハウスと、温水養殖場が広がっている。
エネルギー、食料、データを地産地消する「八幡平モデル」。かつての限界集落は、最先端の「熱の回廊」へと変貌していた。
展望台で、すっかり白髪になった慶と、作業着姿の舞がコーヒーを飲んでいる。
「チタンの配管、点検したけど無傷だったわ。あと50年は持つ」
「高い買い物だったが、正解だったな。ようやく借金も返せそうだ」
慶のスマホに、一通のメールが届く。送り主は、舞の娘だ。
『ママ、私、大学院に行きたいの。もっと深い場所、マントルを掘る研究がしたい』
慶は苦笑した。
「マントルか。また金がかかりそうな夢だな」
「投資してくれる?」
「条件次第だな。……回収に何年かかる?」
「たぶん、50年くらい?」
二人は顔を見合わせて笑った。
足元の地面は温かい。
その熱は、世代を超え、技術を超え、人間の情熱がある限り、尽きることはない。
マグマ・エコノミクス NiHey @jantyran
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