第6話 ミラル、堕天使と(?)魔物退治
追放された魔女の私ミラルは、奴隷の堕天使リタと共に、とある村を発見した。
かなり小さな村だ。田舎っぽいし、ここなら私たちの噂も広まってないんじゃないかな?
「ねぇ、ちょっとあそこで休もう? もう私限界……」
私は確かに天才魔女とまで呼ばれた水魔法の使い手だが、同時に体力のなさも常人越えだ。
全力で走ったら、10秒でダメになる。ここまでリタと歩きすぎて、お腹も減っているというのに、疲れ果ててしまった。
もう、あのサディのせいで余計な時間を食った!
「銅貨2枚で何か買ってくるから……リタは外で待っててよ」
「わかった」
リタは頷くと、外に生えていた木陰に座る。
いいなぁ、リタは。どうせ私なんかより体力は多いんだろうけどさ。歩き疲れたら、翼で飛んで移動していた。その力を私にも寄こせ!
そう思いながら、私は静かに村へと入っていった。
村に入ったとたん、私は絶句した。
そこは田舎というより……廃村だったからだ。
作物がめちゃくちゃに荒らされ、家々も破損している。住民たちは活気のない様子で、村の中をとぼとぼと歩いていたのだ。
「なにこれ……最悪な雰囲気」
まるで死臭すらが漂っている気がした。
こんな村で呑気に休んでられるわけがない。呪われるだろ、絶対。
私は引き返そうとしたが、途中で一人の男性に止められた。
「待ってくれ! アンタ、その身なり……魔法使いとかか!?」
「あぁ!? えぇ……。一応魔女ですけど」
思わず正直に答えてしまった。
その一言が引き金になるなんて知らずに。
「お願いだ……。村には戦える奴がいない。村をこんなめちゃくちゃにした、ドドラを倒してくれよ!!」
その頃――
リタは、木陰に座りながら、吹いてくる暖かなそよ風を浴びていた。
ふと目をやると、村から数人の子どもたちが出てきている。
(あれは……人間の子どもたちか。あんな小さな村にいたって、暇なんだろうな)
そう思いながら、リタは静かに翼の手入れをする。
すると、リタの存在に気付いたのか、子どもたちが興奮しながら近づいてきた。
「あっ、羽生えてるよ! この人!」
「あれじゃない? 教会の人が言ってる、天使様!」
「でも羽が黒いよ? ねぇ、だーれ?」
興味津々のその瞳には悪意はなく、純粋な好奇心だけが映っている。
リタは静かに顔を上げ、子どもたちの顔を見回した。
まだ、5歳前後の少年少女だ。泥だらけの服を着たまま、ニコリと笑っていた。
「……俺は堕天使だ。神に反逆し、地上に叩き落された脆弱な天使のことだ」
「だてんしー? わぁー、かっこいい!」
「ねぇ、羽を触らせてよ!」
キャッキャ言いながらリタにまとわりつく子どもたち。リタは特に振り払うこともなく、静かに目を閉じた。
すると、中でも少しだけ年上に見える少女が、リタに声をかけてきた。
「あの……堕天使さんって、強いの?」
「……まぁまぁだな。少なくとも、人間よりは」
「わぁ、すごい! あのさ、私たちの願い、聞いてくれない?」
「?」
すると少女は、少し悲し気な表情で語りだした。
「私たち、村で苦しんでるの。ドドラっていうドラゴンが暴れて、村を壊すから。パパもママも諦めちゃってる……。私たち、毎日村が平和になるようにって、神様に祈ってるのよ」
「……」
「お願い……! ドドラの巣、場所はわかってるから。倒してほしいの!」
他の子どもたちも、彼女に同意するように頷く。
リタは悩んだ。
ドドラの討伐……。どれだけ強いかは知らないが、おそらくリタが苦戦するような相手ではないだろう。
だが、ミラルの許可なしで、勝手にやっていいのだろうか……。
それでもリタは、少女の言葉に引っかかるところがあった。
神様へ祈っている。
天の国の神様は、すべての人の願いをかなえてくれるわけではない。これだけ切実に幸せを願う子どもたちがいるのに、報われないなんて……彼は受け入れ難かった。
それに、ミラルは言っていた。
「あなたらしく飛べ」――と。
「……わかった。俺がそのドドラを倒す」
「えっ?」
「君たちが不幸なのを……俺は放っておかない」
それは、彼自身が決めたことだ。揺らぐことはなかった。
子どもたちの瞳が輝く。
「ほんと!? だてんしのお兄さん、やってくれるの!?」
「やったぁ! こっちだよ、来て!」
騒ぐ子どもたちに連れられ、移動する中――リタは、胸に激しい闘志を燃やしていた。
リタがやってきたのは、広い洞窟。
最初は元気だった子どもたちも、次第に、表情が暗くなってきた。
「ここ、ぼくらで力を合わせて見つけた巣なんだ。大人たちには……内緒だからね」
「うぅ、怖いよぉ……」
「もういい。ここまでで十分だ。あとは下がってろ」
リタは短くつぶやくと、一人で洞窟の奥へと入っていった。
真っ暗な洞窟の中に、リタの足音だけが響く。
やがて、その最奥にたどり着いたとき――視界が大きく開け、明るくなった。
巨大なくぼみに溜まりこんだ溶岩が、光を放ち、凄まじい蒸気を放っていたのだ。
そして、溶岩の海から飛び出してきたのは――
軽く10メートルはありそうな、巨体のドラゴンだった。
赤色の翼を広げ、ぎょろりとした瞳をむき、巣窟への侵入者を見下ろす。
「グオオオアアアアアアアアアアア!!!」
凄まじい咆哮が鳴った。
だが、リタは一切ひるむことなく、静かに雷の槍を生み出す。
「すぐに終わらそう」
リタがつぶやいた瞬間――激しい火花が散った。
「なるほど。そのドドラというのが、この村を荒らしてるんですね?」
「そうなんだよっ! 最近封印が解けたみたいで、餌を求めて時々村にやってくるんだ! あいつのせいで、せっかく育てた作物はぐちゃぐちゃだ。何人か殺された。もうこんな地獄は嫌だっ……!」
私は、村人たちの話を聞いていた。
どうやらドドラという魔物が、この村の活気を消し去った張本人らしい。はぁ、国もこういう事態に対処するべきだよなぁ。田舎すぎて、情報が回ってこないのか。
そうだ、私には最強のリタがいる。
私と彼が協力すれば、おおむね倒せない魔物はいないと思う。
よーし。こんなに困っている村人たちを放っておくのもなんだし、私たちでドドラを倒そう! そうすれば、もしかしたら、食事やお金をもらえるかも……なんてね。いや、見返り目的じゃないからね!?
「もしよかったら、私にドドラ退治を任せてくれませんか?」
「本当か!?」
「えぇ! 村を荒らす悪いドラゴンなんて、魔女として放っておけません!」
私は胸を張りながら言い張った。
さて、そうと決まれば、さっそく外で待っているリタを呼んでこよう。
と、思ったのだが――
なぜかリタが、木陰からいなくなっていた。
「えっ!? どこいったの!?」
まさか、逃げた!?
いやいやいや、いくらなんでもそんな急に。彼はきっと逃げないはず。
じゃあ、どこに行ったんだ……?
すると遠くから、息を切らして走ってくる子どもたちの姿が見えた。
「ねぇ、そこのお姉さん!」
何か焦っている様子だ。
外にいたなら、リタがどこに行ったのか知らないかな。
私は背を低くして、一人の少年に声をかけた。
「ねぇ、リタを見なかった? 黒い羽が生えてる男の人」
「……あ……だてんしさんは……」
「堕天使!? 知ってるの?」
「だてんしさんは、ドドラ……」
「えっ、ドドラ!? もしかして、やってきたドドラに食われたりしたの!?」
「違うの、お姉さん! お兄さんがドドラを……とにかく、こっちに来て!」
私は困惑した状態のまま、子どもたちに連れられていった。
子どもたちに案内された先には、知らない洞窟があった。
どうやらリタは、この中にいるんだとのこと。
何してんの、マジで?
嫌な予感がしつつも、足を踏み入れる。
そのまま最奥に行くと――
そこには、槍を持って立ち尽くしたリタがいた。
どうやら、まったく怪我はしていない様子だ。
そしてそんな彼の目の前には、見上げるような大きさの、真っ赤なドラゴン――
の、死体が倒れていた。
全身焼け焦げていて、白目をむいている。
リタは呆然としている私を見つめると、静かに言った。
「すまない、ミラル。勝手に倒しちまった」
……よし。
やっぱり堕天使君は、私が手綱を握ってないと危険である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます