第3話
ちゃんと時間は戻ったはずなのだが、油断をすれば頭が外れてしまう気がして、俺は頻りに首の存在を証明しつづけていた。
「まるでナルシスト」
「首ちょんぱされたことない奴の台詞だな、それは」
うなじに掌を添える格好をしていると、相も変わらず無表情のマキナが、とんでもない暴言を吐いてきた。
体験したくもない二度目の断頭を経験したのは彼女のせいなのだが、どうにも反省の様子は見られない。
「──データベースが解放。人類の滅亡を防ぐため、カナタに多少のアドバイスをすることが許可された」
「プレイヤーが下手すぎるから、攻略本を読みながらゲームを遊んでいいですよ、ってことか?」
「大体そう」
なんの進歩もなく同じ末路を辿れば当然の帰結だが、それはそれとして、プライドを刺激されたような。
俺は男の子特有の強がりを発動しようとして、
「アドバイス内容は、魔法使いの所在について」
「なんだ早く言ってくれよ。傾聴するぜ」
「プライドが
表情は変わらないはずなのに、視線に侮蔑が乗った。
気がした。
「現在地点から最も近い地点に居る魔法使いの所在地を教える」
「おお、テンション上がってきた」
二度も死を経験してしまったからか、俺は妙な高揚感に襲われていた。たぶんアドレナリン的な何かが過剰に分泌されているのだろう。今の自分に不可能はない。そんな全能感に襲われていた。
「カナタの通う学校、そこに魔法使いは居る」
「学校に?」
「日常に紛れる魔法使いは王道。お約束」
「そうなのか……」
いまいち、そういう話には詳しくないが。
マキナが嘘をつく必要もないから本当なのだろう。
制服に袖を通して学校へ向かう。
私立
今日は土曜日で半ドンなので、午後の現在、学校に残っているのはなんらかの部活に所属する生徒であろう。
あるいは先生かもしれないが、いずれにせよ、魔法使いという非日常に触れることを想像するとドキドキした。
「口元がだらしない」
「…………」
「無視をするとはいい度胸。あることないこと吹聴する」
「マキナは他人にゃ見えないだろ」
彼女は概念的存在(俺も詳しくは分からない)らしく、自分以外の人間には視認されないそうだ。
高度な魔法的素養がある奴にはバレるそうだが、滅多には居ない。
空中に話しかける人間など、危ない奴と認定されても文句は言えないので、俺は可能な限り外でマキナと会話するのは控えていた。
そうこうしていると星詠学園に到着する。
最近立て直したばかりの綺麗な外装。
校庭からは硬式ボールの弾ける音が聞こえてきて、如何にも青春という感じだ。
「んで、来たはいいけどさ。例の魔法使いってのは何処に居るんだ?」
「サーチ開始──」
みょんみょんみょん、とか言いながら指で角を作るマキナ。
謎の効果音にどれほどの意味があるのかは不明だが、十数秒後、「視えた」と呟いて校門をくぐった。
「カナタの教室は二年A組。正解?」
「おう」
「そこに居る」
「マジかよ。クラスメイトってこと?」
「判らない。たまたま教室を使っているだけかもしれない」
マキナは澄まし顔で教室を目指していく。
置いていかれないように俺も階段を上り、ついに目的地に辿り着いた。
「お邪魔しま──」
扉を開けようとして。
空気が揺れて。
意識がなくなった。
「……は?」
気が付いたら俺は校門の前に立っていた。
感覚的に能力が発動したのだろう。
校舎にかけられた時計で時間を確認。
やはり、数分前に巻き戻っていた。
「マキナ?」
「おそらく、魔法使いに攻撃された」
「いきなりかよ。そんな攻撃的な奴なのか──」
いや、それもおかしいな。俺を標的として攻撃するのであれば、今までいくらでも機会はあったはずだ。
それが本日に限って襲撃──殺されたということは、なんらかの差異が存在しているということ。
「……普段とは違うこと」
「?」
「マキナじゃん」
一度目のタイムリープをしてから一年間、俺は普通の生活を送っていた。異常の塊であるマキナを伴って登校したことは一度もない。
つまり、魔法使いに攻撃された心当たりがあるとすれば、それはこの無表情ガールをおいて他にないのだ。
「お前、件の魔法使い殿に恨まれたりした?」
「基本的に私は引きこもり。恨まれるほどカナタ以外の人間と接触していない」
「だよなぁ」
頭を掻いてため息をつく。
しかし、いくら考えてもマキナ以外の原因には思い至らない。
「試しに俺一人で行ってくるから、マキナはこの辺で待っててくれ」
「了解。暇潰しにサルビアを全滅させる」
そう言って、彼女は花壇に植わっているサルビア・スプレンデンスを指で摘まんでちゅーちゅー吸いはじめた。
見た目も相まって実に子供らしい行動。
けれども実際のところ、俺はマキナの年齢を知らなかった。なんか尋ねたら「乙女の年齢を知りたがるとはふしだらな」とか鼻を鳴らすのだ。
「あ、一応訊いておきたいんだが、時間ってどうやって戻すんだ?」
今までのタイムリープは全て俺の死を以ておこなわれた。
ゆえに意識的な時間遡行の方法を知らない。
早くも三本目のサルビア・スプレンデンスを口に咥えていたマキナは、蜜を吸いだされカラカラになったそれを投げ捨てて、自分のこめかみに指を突きつける。
「意識するだけ。自分が移動したい時間。地点。さすればお手軽な時間旅行が完了する」
「なるほど。さんきゅ」
俺は片手を上げて教室を目指し歩きはじめた。
痛みがなかったとはいえ、先程殺された相手だ。
再び向かおうと──まあ顔は見なかったんだが──すると足が若干震える。
「……しっ」
しかし自分が行動しなければ一年後の破滅は避けられない。
両頬をはたいて、ついに二年A組の前に到着した。
「行くぞ」
己に言い聞かせるように、ドアを開く。
ぎゅっと目を瞑っていたのだが、いきなり攻撃されることはなかった。
おそるおそる瞼を開け、はたして、そこに立っていたのは──。
「──あれ、芳賀くんじゃない」
クラスのマドンナである
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