第28話 どうもー、横っ面ぶっ叩きにきました( *˙ω˙*)و グッ!3
数ヶ月ぶりに来た王城は、何も変わっていなかった。
衛兵や官僚、その他に働いていた人がいない、という点を除けば、何も変わっていない。
「とりあえず玉座の間にでも行ってみましょうか」
目的の人物をさっさと殴りたいので、そう提案する。
城の間取りは、元職場なので熟知している。
「牢とか確認しなくていいの?」
ノア殿下が調べた限りでは、一部の人間は、今は城のあちこちに囚われているとのことだ。
さらに一部の人間は、その世話をさせられているとか。
ほかにも現状を説明してもらえたけど、興味がない。
「セレス様たちのことは気がかりではありますけど。
俺、この国の人とはもう、本当に関わりたくないんです。
フェルナンド王子を殴って、魔王を倒せば誰かが助けるでしょうし。
だから、今は無視します」
「……意外だね。
君なら助けようとするかと思ったけど」
俺はノア殿下を見る。
「考えが変わったんです」
「なんで??」
「わかりませんか?」
「わかんないな。
君はセレス王女を敬愛しているし、彼女のためなら動くだろう?」
「それこそ意外です」
ノア殿下なら気づいていそうなものだ。
俺の考えが変わった理由は、至極わかりやすいだろうに。
「たしかにそうでしょうね。
恩もある。
でも、もう十分働いて返したかなって思ったんです」
少なくとも、この5年間で聖王国における魔物や瘴気の被害は圧倒的に少なかったはずだ。
聖石の管理だって、十分以上にしたはずだ。
「そっか」
「……ノア殿下、さっきはありがとうございました」
「?」
「ほら、庇ってくれたじゃないですか」
「あぁ、あれ?
気にしなくていいよ。
俺が1番、子供に働かせてるのに何言ってんだろうって、なってたからさ」
「それに、殿下だけじゃなく、フリージアさんもこうして普通に接してくれてるので」
そこでフリージアさんの目が丸くなる。
「何の話ですか?」
ノア殿下が説明してくれた。
「ほら、彼の職業についてだよ」
「あぁ、なんか言ってましたねー。
別にそこまで変でもないし、珍しいといえば珍しいですけど。
全く無いことでもないんですけどねぇ。
【男性の聖女】の存在って」
今度は俺が驚く番だった。
「そうなんですか?!」
「そうですよー。
ほら、前にも話したかと思いますけど、アーヴィス国って歴史だけは古くて、筆まめで物持ちがいいんです。
アーヴィス国の五代目だったか、六代目の聖女様が男性だったと記録に残っているんですよ。
当時は驚かれたし、反発もあったらしいですけど、ちゃんと国を守って発展させてくれた方としてお名前が残されています。
記念碑が立てられていたり、そうそうその方の誕生日は祝日になってたりするんですよ」
フリージアさんがさらに言葉を続ける。
「というか、シル様もたぶんそうなんじゃないか説が出てましたよ。
でも、シル様は神官職って自己申告されてたので、まぁ、男の聖女がいるんだから、神官職で蘇生魔法使いがいても不思議じゃないよねって、皆納得してたんです」
なんとまぁ。
俺がすんなりと受け入れられたのは、それが理由だったのか。
「え、じゃあノア殿下も?」
「まぁ、うん、珍しいけどそういうこともあるよねって考えてた。
お偉方に蘇生魔法のことはどうしても説明しなければならなかったのは、その通りだけど。
でも、ほぼ全員が、まぁそういうこともあるか、って納得してた」
「ということは、納得していない人もいたんですか?」
「いや、納得していないんじゃなくて、このパターンは絶対【聖女】職持ちの可能性高いから、再検査した方がいいって主張した人がいただけ。
ほら、代理じゃなくて俺たちは【聖女】を求めていたわけだから。
もしも君が本当に【聖女】職持ちなら、それに越したことはないわけで」
「でもあんな扱いされてたんじゃ、隠したくもなりますよね」
ノア殿下の横で、フリージアさんが呆れていた。
俺にではない。
取り囲んでいた人達に対する呆れだ。
「なんだ」
ホッとしてしまった。
隠す必要など無かったのだ。
最初から、隠す必要などなかった。
聖王国の中でしか過ごしてこなかったから、知らなかった。
こんなに、国によって考え方も捉え方も、なにもかも違うなんて知らなかった。
世界って広いな。
「安心したかい?」
「えぇ、とても」
俺は王城を見上げる。
さっさと目的を果たして帰るのだ。
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