第27話 どうもー、横っ面ぶっ叩きにきました( *˙ω˙*)و グッ!2

なんというか、噂以上に首都が荒れてて、ヤバい。

ヤバいという感想しか出てこない。


「まぁ、この光景もヤバいけど。

ここに来るまでの君の行動も相当、アレだったからね」


ノア殿下が言っているのは、ここまでの道中、俺が蘇生魔法を乱発していたことだ。

魔王に挑むか挑む前に、遠距離広域破壊魔法でボコボコにされたどっかの国の軍や、大陸のあちこちから派遣されたであろう冒険者達が敗走しているのを見かけたのである。

それらを、遠目から回復、治癒、蘇生をして回ったのだ。

向こうからはこちらが見えないから、どこぞの国の聖女がやったということになっているはずである。

さすがに、それですぐに聖王国へとって返そうとはならなかったのはちょっとホッとした。


「君はもう少し考えて力を使うことを覚えようか。

せめて、一旦立ち止まって考える、の癖を付けていこう」


「生きて帰れたら善処します」


「うん、あと言葉には責任をもつ、も追加しようか」


「なんか、魔王討伐に来たってより、散歩に来て雑談してる感がすごいですよね」


フリージアさんだけが呆れていた。

俺たちが目指すのは、フェルナンド王子こと魔王がいるであろう王城だ。

俺はローブのフードを目深に被って、顔を見られないようにしている。

自分で言うのもなんだが、俺の顔はここでは知られているからだ。

数ヶ月まえまで、今歩いている通りでは大人からは顔を見られるや否や冷たい視線を向けられ、ヒソヒソとなにやら話をされ、そして子供たちからは石を投げられていた。


あの頃はフードの付いていない服だったし、変に顔を隠せば、この国でそんなことをするのは俺しかいないので、すぐに正体はバレていた。

だから、顔を隠すことはやめたのだ。

どうせ石が飛んでくるのは変わらなかったからだ。


「……君、そんなに顔を隠さなくてもいいんじゃない?」


「いえ、ここの人たちに顔を見られたくないんです」


「それって、いま取り囲まれてることと関係してる?」


それには、気づいていた。

気づかないように、無視していたのだ。

けど、


「この害虫!

お前が魔王を呼び出したんだろ!!」


「雑菌野郎がなにしに来やがった!!」


「お前がこの国を呪ったんだろ!!」


「おい、あんたら二人、こいつがどんなやつわかってんのか??

一緒にいると呪われるぞ!」


そんな声と共に、石が俺に向かって四方八方から飛んでくる。

それを、


「全く、礼儀もなにもなってない人達ですねー」


と、フリージアさんが軽やかに動いて全て手で受け止め、握りつぶした。

石が砂のように砕けてパラパラと落ちる。


「いきなり意味不明なことを喚いて石を投げるなんて」


ぷんすかと怒っている。


「この方があなた達に何をしたって言うんですか!!」


というか、怒鳴った。


「あ、あの、フリージアさん、俺は大丈夫ですから。

気にしないでください」


言外にいつものことなんで、と含める。

けど、フリージアさんには伝わらなかった。


「石を投げられて大丈夫なわけないでしょう!!

怪我はないですか??」


「あ、はい。

お陰様で」


俺がそういうのと、取り囲んだ人達がフリージアさんの怒声に怖気つきつつも声を上げたのは同時だった。


「その雑菌がなにをしたかって?」


「見てわかんねーのか、このアマ!!」


「そいつは今までの恨みを晴らすために、この国を、俺たちを呪ったんだ!!」


「フェルナンド殿下には一番世話になっておいて、恩を仇で返したんだよこいつは!!

フェルナンド殿下がこんなことになったのも、全部全部お前のせいだ!!」


「そいつのせいで俺の家族が死んだ!」


「死んで詫びろ!この雑菌が!!」


と、そこでノア殿下が、


パンパンっ!!


大きく手を叩いた。

一斉に、取り囲んでいた人達の視線がノア殿下に集まる。


「とりあえず落ち着きましょうか。

あなた方の言い分はわかりました。

でも、わからないことがある。

なんで彼を【害虫】、【雑菌】と呼ぶんでしょうか?

彼は、虫でも無ければ菌でもない。

れっきとした人間です。

少なくとも俺には、人間に見えます。

まだ成人していない、15歳の少年、子供に見えます。

それを成人して、それなりの年月を生きてきただけの方々が、なにをそんなに喚いて彼を攻撃するのか意味がわからない。


はたから見たら、一方的な私刑ですよ」


取り囲んでいた人達のなかで、ひとりが声をあげた。


「はっ、そいつはな、男のくせに【聖女】っていう職業持ちだ。

気持ちわるいだろうが!

男のくせに【聖女】なんてよ?

そんな気持ち悪い存在を害虫、雑菌って呼んでなにが悪い」


それは、俺がノア殿下やフリージアさん、この場にはいないがゴードンさん、そして良くしてくれていたアーヴィス国の人達にずっと秘密にしていたことだった。


わかっていた。

なんとなく、ここへ戻ればこういうことになることは。

秘密がバレるだろうことは、予想がついた。

思ったよりはやくバレただけだ。


そうだそうだ、と他の人たちからも野次が飛ぶ。

今更だ。

今更過ぎてなにも感じない。


「もう行きましょう?

目的の場所はここじゃない」


俺は、そう提案した。

しかし、ノア殿下は動こうとしなかった。


「ごめん、ちょっと聞き流してくれるかな」


ノア殿下は俺に向かってそういうと、今度は民衆に向かって語るように問いかけた。


「なるほど。

つまり、彼はこの国でタダ飯をくらって人に迷惑三昧をかけていた、と?

人を癒すことも、蘇生させることも、回復させることもしていなかった。

聖石の管理もなにもかもを怠って、それ故の扱いだと言うのに逆恨みしてこの国を呪って、人を死なせた、そして魔王をフェルナンド殿下にとりつかせた、と??」


その問いに、その場にいた石を投げてきた人達が動揺した。


「そ、それは」


誰かが、なにかを言おうとする。

しかし、それより先にノア殿下の口が動くのが早かった。


「そうそう、言い忘れてました。

彼、今はアーヴィス国で【聖女代理】を務めてるんですよ。

【救国の英雄神官】、といったらいまや大陸中で知らない人はいない。

彼が、その人なのですよ」


待って待って待って、大陸中でそんな風に言われてたの?

知らなかったんだけど!

今度は俺が動揺する番だった。

しかし、そんな俺を他所にノア殿下は言葉を続ける。


「少なくとも彼が聖王国を出たのは正解でした。

彼は誰も呪っていない。

むしろ、救ってきた。

貴方達が彼のことをいくら貶めようとしても、彼に救われた人がいる、蘇生させられた人がいる。

そしてそれは、決して覆らない事実だ。

この国から一歩でも外に出て、そしてこれからこの国に派遣されてくるだろう他国の軍人や冒険者に聞いてご覧なさい。

もしくは彼を貶めるようなことを言ってごらんなさい。


きっと石を投げられるのは、あなた方になるはずですよ」


ノア殿下の言葉が終わる。

微妙な空気が流れる。

その時だった。


「あ、あの、神官様!」


全く別方向から、子供の声が聞こえてきた。


「この子、を、たすけて、ください!」


見ると、小さな子が別の小さな子をおぶっていた。

おぶわれている子供の顔に見覚えがあった。

かつて俺に石を投げていた子供だ。

よく、的当てゲームだ、と言って投げてきていたのだ。

その子は、死んでいた。

なんなら、蝿がたかって肉が腐っているのがわかる。

おぶっている子は、その腐敗臭を我慢してまで俺のところまで連れてきたのだろう。


「……」


俺は無詠唱で蘇生魔法を展開、発動させる。

腐敗が消える。

元に戻る。

なにもかもが、元通りだ。

俺は、その子供たちからノア殿下とフリージアさんへ視線を移す。


「もう行きましょう。

俺は、この人たちと関わりたくないんです」


早くこの場から離れたかった。

でも、


「ま、まってくれ!

う、うちの子も」


石を投げてきていた大人の一人がそう声をあげた。

この国に、聖女はいないのだ。

ほぼ全員が魔物討伐で死亡しているらしい。


フリージアさんの目が釣り上がる。


「あのですね!

まず、言うことがあるでしょう!!

どんだけ図々しいんですか!!」


俺は、ため息ひとつして。

無詠唱で聖王国全土に蘇生魔法をかけた。

あちこちで死人が蘇る。

歓喜の声があがる。


「ほら、さっさと行きましょう。

こんなところに長居したくないんで」


もうほんと、さっさとやること済ませてアーヴィスに帰りたい。

俺たちは王城へ向かって歩き出す。

背後からなにかさらに雑音めいた言葉が聞こえてきたが、聞きたくないので無視をした。

それくらい許されるはずだ。


俺は、この国の人間から謝罪も感謝もぜったい受け取りたくないのだ。

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