第25話 嘘も方便
フェルナンド王子について、殴りたいというのが本音だ。
しかし、わからない。
ノア殿下がわからない。
この人は、アーヴィス国のために聖女を探していた。
そして、代理として俺をこの国に連れてきてその仕事をさせている。
つまり、フェルナンド王子や魔王のことは、こう言ってはなんだがずっと知らん振りをしていればいいはずなのだ。
しかしノア殿下の行動は、代理とはいえ国防を担っている存在を危険にさらそうとしているようにしか見えない。
「あの、まるでノア殿下は俺にフェルナンド王子を殴らせたいみたいですけど」
「あ、バレた?」
当たってた。
なんとなくそんな気がしただけ、だったんだけどなぁ。
「なんでですか?」
「そうだなぁ。
あえて言うなら、施しを受けたままなのは癪だから。
それに遅かれ早かれってやつだよ」
「?」
「気づいてなかったかい?
君がここにこうしているのはフェルナンド殿下の采配だよね?」
「えぇ」
それが施しということだろうか?
「彼、あえてアーヴィスに借りを作らせなかったんだ」
「どういうことですか?」
「はたから見たら偶然の重なりで、俺が君をスカウトしたって形だろ?
普通ならそれで終わるはずだった。
聖王国からの借りという形にすらなっていない。
でも、真相は今日話した通り。
すべてフェルナンド殿下のシナリオ通り。
このままそれにしたがって進むなら、おそらくアーヴィス国から聖王国への借りができるという形になる。
つまり、あの大国は今後アーヴィス国に頭が上がらなくなるわけだ」
あ、なるほど。
「なんていうか、ここまでお膳立てされてると、バカにされてんじゃないかって思えてくる。
もちろん、彼の目的は魔王を倒してもらうことだから、そこまでのこと、こっちが愚弄されてるかもなんて考えるのは予想外だとは思うけどね」
「えーと、つまり?」
「素直に操られるのも癪だから、彼のシナリオをひっくり返したいなって思ってる。
遅かれ早かれってのは、魔王が本気出して暴れ始めたら、どうせ対処することになるってだけの話」
いいんだろうか、この人がそんなこと言って。
でも、まだ詳しくは聞いていないが、ノア殿下は魔王を倒せる方法を、どうにかできる一番いい方法を知っているのだ。
「まぁ、でも現状、いろいろ難しいんだよねぇ。
君を聖王国に派遣する事になるから。
まず兄上と父上が大反対するだろうし」
それはそうだろう。
事情を全て話したところで、代理とはいえ国防の要を易々と死地にむかわせるようなことはしないはずだ。
ましてや、俺はようやっと見つかった聖女の代わりだ。
そういえば、アーヴィス国の国王様とノア殿下の兄上、アーノルド様にはまだ目通りがかなっていない。
二人ともセレス様以上に多忙と聞いている。
そして、俺の仕事のスケジュールとの調整もある。
「でも、こういうのは早く動いた方がいいんだよね。
そうしないと、シナリオをひっくり返すなんて到底できない」
困っている口調だけど、どこか楽しそうだ。
ここにきて、俺はようやくこの人がどんな人なのか理解しつつあった。
色んな意味で変な人なのだ。
ノア殿下は、悪戯を思いついた子供のような笑顔でこう続けた。
「君は【嘘も方便】って言葉、知ってるかい?」
※※※
数日後。
聖王国から逃れてきた国民が、各国へ窮状を訴えたのだ。
フェルナンド殿下が乱心して、聖王国王城地下に封印されていた魔王の魂を解放、取り憑かれてしまった。
その後、国王と姉君を監禁してしまったとのことだ。
国内は荒れに荒れまくっているという。
復活した魔王は、手始めに聖王国を魔界と繋ぎ、魔物を溢れさせ大陸中へ侵攻するつもりらしい。
同時にこんな噂が広まった。
この窮状をなんとかできるのは、アーヴィス国にいる救国の英雄とされている若き神官だけだ、と。
何故なら彼は、今は失われ使用することができないはずの古代の広域破壊魔法の使い手だからだ。
それさえ使えば、魔王を討伐できるのだから、と。
「あの人の顔の形を変えるくらいしないと気が済まない」
俺は人々の噂を聞き流しながら悪態をついた。
これらの情報や噂も、全部フェルナンド王子がばら蒔いたものだからだ。
「人を勝手に勇者にでもさせるつもりか」
くつくつと、俺の隣にいるノア殿下が笑う。
「そうだろうね」
俺達のうしろから付いてきているフリージアさんは、苦笑していた。
彼女には、だいたいの事情を話してある。
数日前、ルリの来訪からすぐにノア殿下は動き出した。
【嘘も方便】を使って、表向きはノア殿下の休養に俺がくっついて行く形となったのだ。
なにせ、聖女派遣のために動いていたのでノア殿下は、法律で決められている休養を取っていなかった。
それを持ち出して休みをもぎ取り、フェルナンド王子の横っ面をぶっ叩きに出かけた次第である。
魔王討伐はついでだ。
表向きは、俺の休養も兼ねている。
国民から、
『さすがに休ませろ』
『過労死させるつもりか』
という声が上がっていたらしい。
本当にいい人たちが多い国だ。
そんなこんなで、アーヴィスの国王様と、アーノルド様への言い訳として、ラテマの港町をお忍びで巡り、その後は、各国の王族に療養地として利用されている土地へ向かうということになっていた。
まさか、色々あってイラッときたから他国の王子の横っ面をぶっ叩くついでに魔王退治してきます、とは言えない。
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