第23話 描かれていた道筋2
「いえね、どうも彼……シルとの出会い自体がお膳立てされてるように感じていたんです。
あまりにも、偶然が重なりすぎていた。
それはもう、不自然すぎるほどのご都合主義な戯作を観ている気分でしたよ。
違和感は日に日に大きくなっていき、ついに貴女が現れた。
まぁ、確信したのはほんのちょっと前ですが」
なにを、言い出すんだこの人は。
「ど、どういうことですか?!
何の話ですか??
フェルナンド殿下が描いてたシナリオって??」
フリージアさんが直球の疑問をぶん投げた。
その場に居合わせた兵士たちも、顔を見合せている。
「少なくとも、これはここ数日、数ヶ月の話ではないでしょう。
何年も前から今回のことは計画されていたはずだ。
そう、シルが魔王に取り憑かれたフェルナンド殿下を成敗する、というシナリオのことです。
違いますか、ルリ殿??」
彼女は無表情だ。
無表情で、ノア殿下と俺を交互に見やる。
「なぜ、そう考えたのですか?」
「先程も申したように、あまりにも俺と彼との出会いが出来すぎていたんですよ。
この大陸のなかにある国で、ここアーヴィス国はとにかく聖女不足が深刻だったのは周知の事実です。
先々代の時にも他国へ聖女派遣の要請を依頼した記録がのこっているんです。
だから、聖女アンが亡くならずとも遅かれ早かれ俺たちは聖王国やほかの同盟国に赴いていました。
あまりにも聖女アンへの負担が大きかったからです。
だから、彼の次の居場所としてアーヴィス国が選ばれたのでしょう。
さすがに、アンが急死するのまでは予想外だったかと思いますが」
聖女アン様が亡くなった原因は、木に登って降りられなくなっている子猫を助けようとしたためだ。
結果、木から落ちてしまい頭を打ち、それが命を奪う結果となってしまった。
「あの時、聖女派遣についての打診に関する手紙をこちらから聖王国へと送りました。
返事はすぐに来て、とりあえず聖王国で話し合おうと言うことになりました。
その際、他ならないフェルナンド殿下からこんな返事が届いたのです。
『急を要することと愚考します。
可能なら大きな街道から少し外れた、地元の者と冒険者しか使用しない道を突っ切って来た方が時間の短縮になるはずです』
ようは、急ぎの要件ですし、近道した方が早く着きますよ、という内容でした。
ご丁寧に地図も同封されていましたよ。
こちらとしても、早く聖女を迎えたかったのでその道を使うことにしました。
そして、凶暴化した魔物と遭遇し、恥ずかしながら生命を一度落としたのです。
その後、国から出た彼がたまたま通りがかり、俺たちを蘇生してくれたわけです」
「……続けてください」
「俺はフェルナンド殿下へさらに手紙を書いて送りました。
大体の到着日と時刻を、です。
あくまで目安なので、ズレるのを前提にしていたのですが。
おそらくフェルナンド殿下は、それも計算づくだったかと考えられます。
だからこそ、シルを無一文で放り出した。
シルがお金を作るためにポーションの材料や、魔物から取れる素材目的で、道を外れることも予想していたからです」
嘘だろ。
あの人、今まで風邪すら引いたことなかったのに。
そんな知恵がまわるわけないはずなんだけど。
「まだまだありますよ。
俺たちがなぜラテマに向かったのか?
フェルナンド殿下に言われたんですよ。
ラテマにも優秀な聖女がいるから、と。
そうしてラテマに向かって、彼と出会ったわけです」
「ち、ちょっと待ってください!
ノア殿下!!」
俺は不敬だとは思ったが口を挟んだ。
「そんなのおかしいですよ!
俺が国を出て、まっすぐラテマに向かうなんてわかりっこないですよ!!」
「まぁ、普通はわからないだろうね。
でも、彼にはわかったんだ」
「なんでですか?
あの人は俺のことを嫌っていた。
だから、いつだって仕事をひとりでこなしてたんです!」
「それだよ」
「は?」
「まぁ、コレは単なる想像でしかないけど。
君、結構抜けてるところあるからねぇ。
たぶん監視が付けられてたんだよ。
アンのことがあったから、うちでもフリージアやゴードンを君に付けてたし。
フェルナンド殿下の場合はこっそりと、うちの場合は堂々と監視をつけてただけの違いだ。
フェルナンド殿下は、そうやって行動パターンを全部報告させてたんじゃないかな。
それこそ、趣味嗜好まで事細かく。
あ、そうだ。
ほら、君、俺たちと出会った時のこと覚えてる?
わりと近くまで俺たちが来て声をかけるまで、接近に気づかなかったでしょ?
俺たちのことですら気づかなかったんだ。
プロの監視が目を光らせていたのなら、察知できなかったはずだよ」
……あ。
「人間の行動もある程度データをとれば、予想できるし操れる。
あの時は、浄化後だったのもあるから周囲に魔物がいない前提だったんだろう?
だから、気が緩んでたんじゃないかな?
君は周囲を掃除してから万全の体制で、蘇生を行う。
まぁ、一人で仕事をするにはどうしても仕方ないことだけどね。
さて、俺ですら、短い付き合いだけどこうして君の行動パターンを分析できる。
なら、君の幼なじみのフェルナンド殿下はもっとよく君のことを知っているはずだ。
フェルナンド殿下はかなりのクワセモノだよ。
君を冷遇し、度が過ぎた扱いをし、君から恨まれ憎まれるように過ごしてきた。
そうすれば、ちょっとのきっかけで大義名分さえ得れば、君は彼に復讐するために動くだろうとも予想したんだろう。
そう、今回のように。
魔王に取り憑かれたフェルナンド殿下を、堂々と殺せるわけだ。
君には大義名分が与えられ、そして堂々と復讐できるなんて機会、そうそうないだろう。
そして誰にも、王族殺しを咎められることはない。
だって相手は魔王に取り憑かれた存在だから。
……このあとは、フェルナンド殿下がセレス王女と国王陛下を軟禁。
兵士達も魔法で操り、国民にも多少の犠牲者を出す、といったところかな?
でも犠牲者が出たとしても、シル、君が入いれば少なくともフェルナンド殿下以外の命はなんとかなる。
だって君は、たとえ肉塊からだろうが蘇生させられる能力の持ち主だから。
すべて順調に運べば、きっと……あえてこの言い方をするけど、完全犯罪になったかもしれない。
もう一度言うが、フェルナンド殿下はかなりのクワセ者だよ。
たぶん、魔王も騙してる可能性がある。
違いますか?
元筆頭聖女殿?」
待て待て待て待て?!
俺は彼女を見た。
彼女、聖王国の元筆頭聖女であり、フェルナンドの恋人である女性は、ボロボロと涙を零していた。
そして、こくりと頷いたのだった。
頷いて、か細い声で訴えた。
「……けて――い」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
「たすけて、ください。
あのひとを、あのかわいそうな、わたしの、わたしたちのだいじなひとを。
おねがいします……。
わたしでは、かれをまもれない」
ルリは嗚咽まじりに、そう訴えた。
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