第21話 魔王についてと、風雲急を告げるみたいな話
なんとかお役目、仕事の合間をぬって図書館に来た。
調べ物をするためだ。
禁書庫に入れる許可も得ているので、そこでいま大陸中で起きつつある異常事態、その類似案件を調べる。
直近では八十年前に、聖王国の聖女エリスが大陸中に魔物が溢れたのに対処したことがあるらしい。
「……ばあちゃん」
でも、結局原因については記されていなかった。
ばあちゃんでも分からなかったということだろうか?
「おばあさま??」
一緒に資料を漁ってくれていたフリージアさんが、俺の呟きを聞いて首を傾げてくる。
そういえば、これはまだ言ってなかったな。
まぁ、俺が聖王国出身なのは周知の事実だし、いっか。
俺は、フリージアさんに聖王国の聖女エリスが養母である事を説明した。
結果、めちゃくちゃ驚かれた。
「え?!
だ、だだだだ、大聖女様のお孫さま?!」
「あ、いえ、血はつながっていなくてですね。
養子、みたいなものなんです」
「はぇー、あの、こう言っちゃなんですけど。
なんで聖王国を出たんですか?」
「んー、成り行き、みたいなものですね。
元々あちこち旅をしてみたかったし、ばあちゃんも若い頃仕事で大陸中を巡っていて。
その時の話はよく聞かされていましたから」
旅は一週間弱で終わってしまったが。
まぁまぁ、たのしかった。
刺身定食が食べられなかったことを除けば、あのつかの間の自由は本当にたのしかった。
「なるほど。
でも、出国するの大変だったんじゃ?」
「いえ、そんなに大変じゃなかったですよ」
国から出て行けと蹴り出されたのだから、手続きもなにもなくめちゃくちゃ簡単に出てこれた。
そんな会話をしていると、ノア殿下がやってきた。
どうやら調べ物をしていることを、ゴードンさんから聞いたらしい。
「今の話は本当か?」
「はい?」
開口一番、問われる。
どの話だろう?
「君が、大聖女エリスの養子、つまりは弟子だったという話だ」
「本当ですけど、それが?」
ノア殿下はしばらく、なにか考えている様子だった。
しかし、すぐに真剣な顔をして俺たちを禁書庫のさらに奥にある部屋へと案内した。
「ここには、王族と特別な資格を持つ者しか入れない、そして閲覧できない本がある」
おやまぁ、まだあったのか。
「特別な資格?」
「この国の正式な【聖女】であること、だ」
あー、俺、代理だもんな。
代理は代理であるし、正式な聖女と同等の扱いではあるが。
それでも、本当の【正式な聖女】ではない。
そりゃ司書さん達も、それに則った書庫までしか案内しないか。
「君はもう、正式な聖女以上の働きをしてくれている。
だから、ここの本の閲覧を王族権限で許可する。
おそらく、ここに情報があるはずだ」
逆に言えば、ここになかったら無いのだろう。
「ありがとうございます」
特別待遇はこういう時、便利だ。
俺は遠慮なく、調べ物をすることにした。
ただし、フリージアさんは入れないで、代わりにノア殿下が一緒に調べてくれるらしい。
フリージアさんには、昼食の用意をお願いした。
昼には一旦屋敷に戻る予定だったが、長丁場になりそうだ。
昼食を持ってきてもらうのだ。
ついでにスケジュールの調整と各方面への連絡もお願いする。
フリージアさんは快諾して、禁書庫から出ていった。
そうして資料漁りに没頭する。
わかったのは、この大陸中を巻き込んだ異常事態に、魔王の存在が関わっているかもしれない、ということだ。
その後、フリージアさんが持ってきた弁当を図書館の外で食べた。
館内は飲食禁止だからだ。
図書館の外には、テーブルとイス、そして日除けの傘が幾つか設置されている。
そこで昼食を食べつつ、ノア殿下が俺が聖王国にいた頃のことを聞いてきた。
セレス様、国王様、そして最後にフェルナンド王子について聞かれた。
「君は、フェルナンド殿下が苦手なのかい?」
口調こそ穏やかだったが、しかし、何故か真剣にノア殿下はフェルナンド王子のことを聞いてきた。
「えぇ、あまりいい思い出は無いので」
「それは、冷遇されていたということかな?」
「まぁ、そうなるんでしょうね。
思い出したくもないし、話したくもないです」
フリージアさんが非難がましい視線を、ノア殿下に向けている。
「そう、か。
なるほど。
いや、すまなかった。
せっかくの昼食時に気分を害すようなことを言って」
「別に気にしてませんよ」
そういえば自分のことはなにも話していなかった。
なら、ちょっと興味を持っても仕方ないかなとは思ったからだ。
※※※
(なんてことだ)
ノアはただ愕然と、目の前で昼食を食べる少年を見た。
シルとの出会いに、なんらかの意思のようなものを感じてはいたのだ。
公的な記録から消された存在が、まさかシルだったとはさすがのノアも考えつかなかった。
『ノア殿、お力になれず、申し訳ない』
非公式の場ではあったが、そう言って頭を下げたのは聖王国の第二王子フェルナンドだった。
その後、彼なりに気遣ってくれたのか、ラテマにも優秀な聖女がいるとの情報をくれた。
聖王国を出たあと、ノアには二つの選択肢があった。
ラテマか、もうひとつの国か。
フェルナンドの言葉もあり、ラテマに行くことを決めたのだ。
そうして、たしかにラテマには優秀な聖女がいた。
しかし、ラテマ側からは断られた。
でも、そのあと。
そう、そのあとだ。
ノアはシルの存在を知り、国へ連れてくることができたのだ。
そしてどうなったか?
国が救われた。
大陸で起きつつある異常事態を周知することも出来た。
それは、シルが国外追放されたからだ。
しかも故国に未練が欠片も無いから、帰ることはない。
その上、シルはフェルナンド殿下を恨むか憎むかしている。
それは、つまり……。
「いや、考えすぎだ。
そんなことありえない」
シルは、少なくとも今はここアーヴィスのことを気に入ってくれている。
なら、この国から出ていくなんてことは今のところ無いだろう。
つまり、フェルナンド殿下へ仕返しを、復讐をするということもない。
故国への復讐は無いだろう。
彼は聖王国と、将来そこを治めるであろうセレス王女のことには心を砕いているのだから。
しかし、なぜか気になった。
だから、ノアは一人で魔王について調べ始めた。
それは直感だった。
そこになにかヒントがある。
そんな直感だった。
程なくして、望む情報が見つかった。
ノアは青ざめ、ただこう呟くことしか出来なかった。
「なんてことだ……」
そして、翌日。
その知らせは、本当に唐突にもたらされた。
聖王国の筆頭聖女ルリが、フェルナンド殿下の暗殺未遂をおこし、国外追放となったのだ。
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