第14話 聖王国に封印されているもの

聖王国王城内にある、秘密通路のさきに存在する地下祭壇。

王族からも忘れ去られた場所である。

そこには、禍々しい宝石が鎮座していた。

封印処理を施されている、禍々しくも美しい宝石を見つめるものがいた。


聖王国、第二王子フェルナンドだ。

彼は祭壇に近づき、宝石に手をかざす。


「えぇ、はい。

すべては計画通りに進んでおりますよ。

魔王様」


やはりどこかわざとらしい、芝居じみた様子でフェルナンドはそう呟く。

宝石には、遥かな昔に勇者によって魔王の魂が封印されていた。

しかし、経年劣化によって封印の術式が綻びつつあるのだ。

封印のやり直しはできない。

封印術式の書き直しもできない。

長い歴史の動乱のなかで消失してしまったからだ。


大陸中で発生する瘴気の濃さ、そして魔物の凶暴化はこの魔王の封印が解けかけていることが原因である。


聖王国の地下になぜこんなものが封印されているのか?

それは、かつての勇者が魔王の脅威から世界を救った後に興した国だからである。

当時、魔王によって滅ぼされた国の王女が聖女として勇者と世界を救うための旅に出た。

その果てに、ともに魔王を封印することとなったのだ。


邪悪なる魔王の魂を封印できるほど、聖なる力を持った王国。

それが【聖王国】であった。

しかし、そんなのはすでに伝説、おとぎ話扱いで誰も信じてはいなかった。

こうして目にするまでは、フェルナンドだって信じることは出来なかっただろう。


封印が劣化したため、魔王はなんとか意識だけを外に飛ばすことができた。

それは封印されてから二度目のことだった。

実は数十年前にも一度、魔王は復活しそうになったことがある。

その時は、浄化魔法の応用で無力化されてしまった。

封印は気休め程度のものを施されておわった。

それしか出来なかったのである。


それでも数十年かけてようやくまた力をつけることができた。

二度目の今回、目をつけたのがフェルナンドだ。

彼は負の感情にまみれていて、実に魔王好みのにんげんであったのだ。

しかも王族だ。

憎らしい勇者と聖女の子孫である。

利用しない手はないだろう。


意識だけではあったが、魔王はフェルナンドに接触した。

そしてフェルナンドの負の感情に付け込んだのだ。

こうして、復讐のための第一歩として都合のいい手駒を手に入れたわけである。


「魔王様復活を予期し、恐れながら倒せる可能性のある者は、この国から排除いたしました」


シルのことだ。

淡々とフェルナンドは報告する。


「歴代最高と称された、かつて貴方の復活を阻止した聖女もすでに亡くなっています」


魔王の満足そうな声がフェルナンドの頭の中に響く。


「いましばしお待ちください。

さすれば復活と同時に世界は貴方様のものとなるでしょう」


フェルナンドの恭しく向けられた言葉に、魔王はさらに満足するのだった。

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