第13話 異常事態
「どういうことだ?」
「まだ、調査段階なので憶測もはいってしまうのですが」
と、俺は前置きして説明した。
「俺が聖王国にいたことは、ゴードンさんとフリージアさんはご存知、ですか?」
二人は頷く。
【聖女】の職業を与えられていること、そして【国外追放】されたことは避けて説明したい。
【聖女】の職業に関しては、聖王国での扱いがいまだにこびり付いているから。
【国外追放】の件は、俺の気分の問題で話したくないからだ。
「聖王国にいた頃、俺は聖女様たちのサポートで国内さまざまな場所に行きました。
そして、瘴気と魔物の質の変化に気づきました」
「質の変化?」
「わかりやすく言うなら、パワーアップしてたんです。
瘴気はより濃く、魔物は凶暴化しさらに強くなっていました」
「それを、聖女達や聖王国に報告はしたのか?」
「……報告書を提出したんですけど、説得力がかけるといわれてしまいまして。
それに、犠牲者がほとんど出ていなかったのも事実でした」
まだ、その時は微かな変化しかなかった。
説得力が欠けていたのも事実だ。
目の前でまさかその報告書をビリビリに破かれ、人間の言葉で書けと言われるとはおもっていなかったが。
「殿下。
殿下もきづいておられるでしょう?
聖王国に向かう途中で、殿下達はそんな凶暴化した魔物に襲われたんですから」
ノア殿下達の救命をした時のことだ。
ゴードンさんとフリージアさんがいるので、どこまで話していいかわからずこのような言い方になってしまう。
ゴードンさんとフリージアさんは、ただ黙って控えていた。
「そうだな。
そうだった。君に助けられたあの一件。
あの時、俺たちも決して油断していたわけではなかったんだ」
聞けば、あの時、殿下たちは
弱くもないが、殿下含め部下の人達で遅れをとるような魔物ではなかったとのこと。
「そうか、瘴気と魔物の両方が強力になっているのか」
「魔物による災害も増えてきています」
俺はラテマの港町でリヴァイアサンの件や、その後の竜の群れの件。
そして、この前のスタンピードの件を出した。
「国は違えど、頻度が上がってるんです。
とくに、先日のスタンピードです。
かなり濃い瘴気をまとっていました」
闇のように見えるほど濃かった。
あれでさらにパワーアップした魔物の特大の群れが首都に突っ込んだら、いくら結界があったとはいえ、被害が皆無だったかはわからない。
それも説明し、最後に俺はこう付け加えた。
「だから、すぐにでもスタンピードを止める必要があったんです。
かなりの力技でしたけどね」
※※※
力技。
シルはそう言った。
しかし、力技と呼ぶにはあまりにも大きすぎる能力だ。
同時に、ノアの中で疑問が浮かぶ。
(どうして、こんな人材を聖王国は追放したんだ??)
病に伏せっている現国王も、そして次期国王予定の王女も賢明な人物だ。
手放すはずかない。
シルが、聖王国内でなにかしら罪に問われるようなことをしても、それなら鎖に繋いで飼い殺しにできるいい機会だったろうに。
それなのに、シルは国外追放されている。
(おかげでアーヴィス国は救われたが)
もしも、シルがいなかったらノアはここにいない。
そして、あのスタンピードもどうすることも出来なかったはずだ。
そして、このようなことはこれから大陸各地で起きることが予想される。
「シル」
「はい」
「仕事が増えてしまうが、お願いだ。
その瘴気と魔物の凶暴化の件について、報告書を提出してほしい。
せめて同盟国にだけでも知らせたい」
シルの瞳がなぜかそれを聞いた途端、嬉しそうな色を浮かべた。
「あ、あの、それは、その同盟国には聖王国も含まれてますか?」
「?」
なぜ、そのようなことを聞くのか、ノアはわからなかった。
けれども、頷いてみせた。
「そうだが、それがどうかしたのか?」
今度は心底ホッとしたかのような表情をシルは浮かべる。
「いえ、確認したかっただけです」
何となく、ノアは察した。
おそらくスタンピードの前後から、シルの様子がおかしかったのは聖王国関連だったのだろう。
ちらり、とシルの私室の片隅に積まれた新聞の山をみる。
すべて、聖王国でなにかしらよくないことが起こっているという記事が見出し一面にでていた。
自分を追放した国のことが気がかりだったのだ。
でも、それはつまり、シルには聖王国への里心が残っているということでもある。
ノアは少し考えて、ゴードンとフリージアへ退出を命じる。
そして、ノアはシルを見ながら聞いた。
「君は、聖王国に帰りたいのか?」
きょとん、とシルがノアを見返す。
「はい?
いえ、べつに?
だっていま、俺はこの国に所属してるんですよ?
この国居心地いいし、ご飯おいしいし、人は優しいんで。
あの国に帰るなんて、無いです。
せっかく居心地いいとこに来たのに、なんで帰らないといけはいんですか??」
パタパタと手を振ってそう答える。
その返答に、今度はノアがホッとする番だった。
「でも、恩人が困ってるだろうことはわかるんで。
このことを伝えたかったんですよ。
でも、下手をしたら国同士の問題になっちゃうでしょう?」
アーヴィス国が聖王国の国防に口を出すことになってしまう。
シルは、それを気にしていたのだ。
「そうか、そう言ってもらえて安心したよ。
それで、その恩人って?」
ノアの疑問に、シルがあっけらかんと答える。
「聖王国、第一王位継承者、セレス様です」
続いた説明で、ノアはさらに驚くこととなった。
まさか、王女の側近だったことがあったなんて予想外すぎる。
人事異動で、第二王位継承者のフェルナンドの下についてから、彼の意見は通りづらくなったとか。
そして、シルは説明を省いていたがその様子から大体のことは予想がついた。
そうして上司が変わったために、ノアは冷遇されたのだろう。
その果てが、国外追放だったのだ。
(第二王子の目が節穴で助かった)
ノアは苦笑を噛み殺した。
そうでなければ、今頃この国はどうなっていたことかわからない。
そのことを含めて改めて考え直してみると、聖王国の第二王子フェルナンドもまた、間接的にはこの国を救ってくれたということになる。
彼がシルを追放したからこそ、ノアは蘇生出来たのだし、巡り巡って異常なスタンピードから国を守ることができたのだから。
と、そこでなにか引っかかりを覚えた。
(気のせい、だな)
そういうことにしておこう。
そうでないと、おかしなことになる。
何故なら、偶然にしてはあまりにも全てが出来すぎていたからだ。
たまたまシルが国外追放になり、その日のうちにたまたま死んでいたノア達を発見し蘇生。
その後、たまたまノア達が訪れた先でシルの痕跡を見つけ、それをたどりシルと出会った。
たまたまがこうも続くものだろうか?
ノアの頭に妙な考えが浮かんで消えていった。
あとでシルから聞いて知ったことだが。
ノア達を蘇生させた時、シルはしばらくノア達が起きるのを待っていたのだという。
しかし、追放された身であるからさっさと聖王国から離れたかったシルは、ある程度待ってからその場を離れたということだ。
あと数秒、ノアの意識が戻るのが早ければ、もっと早く彼はシルを国へ連れ帰ることができたわけだ。
そして、そのあとだ。
そのあと、つまりスタンピードまでのこと。
今回の報告書のこと。
もしも、彼が聖王国にいたとしてセレス王女は彼の訴えを聞くことをしただろうか?
しただろう。
でも、それを他の国へ伝えることはしたか?
するなら、彼の存在を明かさなければならない。
彼の存在は公的な記録からは消された痕跡があった。
相応の地位にいるものでないとそんなことはできないはずだ。
そんな消した存在を、表に出すか?
国として秘匿したいだろうし。
まずは自国の守りを優先させるだろう。
なら、アーヴィス国とちがって他の国へ情報を渡すのはもっとあとだった可能性がたかい。
すべては想像でしかないが。
しかし。
(ほんとうにたまたまで、気のせい、なのか?)
生憎、答えを知るものはここにはいない。
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