第7話 新生活初日
アーヴィス国へ来てすぐに案内されたのは、なんかデカイ家だった。
屋敷というやつだ。
聞けばここが、この国で俺が暮らすことになる家らしい。
アヴァヴァヴァ!
衣食住は保証するとはいわれていたけど、ガチの屋敷が用意されるなんて予想外だ!
てっきり、出張者のための寮を想像していたのに。
たかが代理でしかない自分には贅沢すぎる。
「え、いや、寝袋と職員用更衣室での寝泊まり許可さえあればいいです」
と言ったが聞き入れられなかった。
「なにそれ?
聖王国流ジョーク??」
と、ノア殿下に笑われてしまった。
あと屋敷には、メイドまで常駐させるらしい。
執事もいるとのこと。
なんでこんな高待遇なの??
聖王国の筆頭聖女と同じ扱いじゃん。
たかが代理なのに。
給金さえちゃんと払ってくれて、それを取り上げることさえなければそれでいいのに。
どうせ忙しくて帰って来れない場所なのに。
あ、でもここは聖王国とは違うんだった。
別の国には別の国のルールがある。
そう考えれば高待遇でも仕方ない、のか??
いや、貴族の扱いだろ、これどう見ても。
それから執事さんと俺の世話係だというメイドさんを紹介された。
執事はゴードンさん、俺専属のメイドはフリージアさんというらしい。
「あ、シルです。
よろしくお願いします」
二人は家の管理とか俺の世話をしてくれるらしい。
それはいいけど、仕事は基本多忙で家を空けることが多くなるのは知っているのだろうか。
確認すると知っていた。
それでも世話係は必要らしい。
「あ、いや、お気づかいなく」
別に一人でも仕事はできる。
聖王国では、ずっとワンオペのようなものだったからだ。
「いえ、これが私の仕事ですから」
フリージアさんから、にこやかに返された。
仕事なら仕方ない。
というか、あれか。
俺が逃げ出したり不正したりしないための監視役か、この人たち。
言わば首輪のようなものなのかもしれない。
そういう意味では、聖王国は自由がきいたし、俺は放し飼いされていたようなものだった。
自分でも、ノア殿下に言ったじゃないか。
俺みたいな犯罪者モドキではなく、もっとちゃんとした聖女に仕事をたのめ、と。
俺はちらり、と横に立つノア殿下を見た。
良かった。
この人は正常な判断ができる人のようだ。
この国へ来る道中で、だいたいの説明は受けていた。
結界のやり直しはまだしなくていいらしい。
当面は結界内でも、どうしても発生してしまう瘴気や魔物の討伐をすることになる。
けれど、一度結界の要である聖石が設置されている場所を見ておきたかった。
初日ではあるが近場だけでも見て回ろうと考えていた。
これまた道中の馬車の中で、近場の地図は確認してある。
「長旅でお疲れでしょう。
お仕事は明日からということで、今日はゆっくりお休みください。
すぐにお茶を用意します」
ゴードンさんにそう気遣われてしまう。
「あ、そんな、ありがとうございます」
だだっ広い部屋へ案内される。
ここが俺の私室となるらしい。
「それでは御用の際はそちらの鈴でお呼びください」
テーブルの上にちょこんと乗った鈴が目に入った。
「あ、はい」
二人が去ろうとするので、あわてて呼び止める。
今後の仕事のために必要なものを用意してもらうのだ。
わざわざ逐一鈴を鳴らして呼ぶのは、悪い気がしたのだ。
他人に用件を言いつけるのは気が引ける。
しかし、物の場所もわからないのだ。
今は二人に頼るしかない。
さて、ゴードンさんとフリージアさんが仕事のため去る。
ノア殿下も、
「それじゃ、明日からよろしくね」
と言って去っていった。
広い部屋に一人残される。
ベッドのようなフカフカのソファに座り込む。
おもったより勢いがついて、ぼふんっと沈み込むような形になってしまった。
「たしかに、疲れた」
俺は持参した魔法袋から特製ドリンクを取り出す。
ポーションではない。
一時的に疲れを忘れさせてくれる、栄養ドリンクだ。
それを一気に呷る。
ほどなくして、フリージアさんが頼んでいたものを持ってきてくれた。
アーヴィス国の地図と筆記具、最近の魔物の出現場所や被害に関する資料、それにスケジュール帳。
あと、事務所や学校でもつかわれている移動式の黒板だ。
休めと言われたものの、必要最低限の準備くらいはしておきたい。
初日はそうしてさらに情報を頭に叩き込むことで終わった。
夕食はご馳走だった。
パーティーで出るようなやつだ。
といっても、ほとんど出席したことはない。
出席しても、簡単な挨拶が済めばすぐに会場から追い出されたからだ。
とりあえずまだお客様扱いのようで良かった。
歓迎もされているということでいいだろう。
ゴードンさんや、フリージアさん、ほかの屋敷で働いてもらっている人達からも、今のところ友好的な扱いをされている。
そして、一般常識だからとばあちゃんにテーブルマナーを教わっていてよかったと、この時ほど思ったことはなかった。
ありがとうばあちゃん。
料理はすべて美味しかった。
量もちょうど良く、残さず食べれた。
そういえば、どうしても蘇生魔法のことは説明しないわけにはいかないとのことらしく。
俺は、世にも珍しい聖女とおなじ力を持った神官、ということで貴族含めた国民に説明したらしい。
怖かったが、誰も気にしていないのが救いだった。
本当にこの国は切羽詰まっていたらしい。
石を投げられなくて、気持ち悪いと言葉を投げつけられなくて、本当に安心した。
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