第6話 連行されて、新しい就職先が決まった件
※※※
終わった。
俺の人生、ここで終了だ。
一応ちゃんと周囲に人がいないか確認してから蘇生魔法使ったのに、見られた。
しかも、国外追放された初日に蘇生させた人たちに見られてしまった。
逃げようにも、逃げられない。
顔まで見られては指名手配されかねない。
早く捕まるか遅く捕まるかの違いでしかないのだ。
「短い、自由だったな……」
乾いた笑いしか出てこない。
そんな俺が連れてこられたのは、ラテマの首都にある高級宿だ。
安宿ですら経費の無駄だからと、結界の張り直しの時には適当なベンチで寝起きしていた身からすると場違い過ぎてゲロを吐きそうである。
「えーと、それで」
おそらくこの中のリーダーらしい銀髪の青年が口を開いた。
せめて、死に方だけでも希望を言いたい。
俺は青年が何か言うよりはやく、希望を口にした。
「あ、あの、できれば、一瞬で苦しまずにスパッと死ねる処刑方法がいいです」
「……はい?」
「即死!即死希望で!!」
「いや、ちょっと落ち着こうか。
お菓子食べるかい??
お茶もあるよ、あ、ジュースの方がいいかな??」
最後の晩餐!!
これが死刑執行前に食べる最後の晩餐!
俺の最後の晩餐、お菓子とお茶だったよばあちゃん。
携帯食料じゃないだけ、上々な最期じゃないかな?
「とにかく、こちらの話を聞いて欲しいし。
君のこともいろいろ聞きたいんだ。
オーガみたく、とって食べやしないから、そんな怯えなくていいよ」
銀髪の青年は人好きのする笑みを浮かべると、名乗った。
ノア、というのが彼の名前らしい。
自己紹介が続く。
それを聞いて俺は飛び上がった。
「アーヴィス国の王子様!?」
なんでよその国の王子様がこんなところに。
「そうそう。
でね、君に聞きたいことなんだけど。
君がさっき使ってたの蘇生魔法だよね?
蘇生魔法は聖女にしか使えないはずだ。
なんで君はつかえ……」
ノア殿下の言葉が止まる。
よほど俺の顔色が悪かったらしい。
「いや、言いたくないならそれでいい。
ただ、あー、こういう交渉はあまりしたくないんだが。
君は蘇生魔法が使えて、そのことをここでは秘密にしておきたいんだろう?」
どう反応していいかわからない。
「そこで、だ。
そのことをいまここでは黙っておいてあげるから、俺たちの国にきて協力してくれないか??」
「……へ??」
脳裏にかつての職場、同僚、上司の顔が浮かんでは沈んでいく。
そんな俺へ、ノア殿下は彼らの窮状を訴えてくる。
アーヴィス国のたった一人の聖女が急死したらしく、世代交代をしてすぐのことでもあったため、後進が育っていないらしい。
そのため、すぐにでも聖女の存在が必要なのだということらしい。
「もちろん相応の扱いとなるし、給金も出す。
衣食住の保証もするから、うちに来てくれないか??」
「い、いやいやいや!!
そういうのは、ちゃんとした聖女様に頼みましょうよ!
聖王国には俺なんかより優秀でとっても綺麗な聖女様が大勢いますよ!!」
俺の素性はわれていないはずだ。
だから、なんとかここを切り抜けて逃げたいところだ。
「もう行ってきて断られた。
ちなみにここ、ラテマでも断られた。
君は浄化魔法も使えるし結界もはれるだろ?
それで俺たちのことも助けてくれた、だろ?」
全部、バレてる。
素性以外、バレてる。
やっと自由になれたのに。
追放されて、人の温かさも知れて、幸先がいいって思ってたのに。
本当に短い、自由だった。
また、あの日々に逆戻り、か。
せめて、もう一回だけ抵抗しよう。
「い、いや、でも俺、国外追放になってて。
犯罪者で、だから、そのそんな危ない人間に聖女の代わりなんて任せたらダメですよ!!」
けれども、ニコニコとノア殿下は返してきた。
「犯罪者で危ない人間は、少なくとも人助けなんてしないと思うなぁ」
結局俺は、今回は代理ではあるが聖女の仕事を、役目を果たす運命にあるらしい。
処刑されなかったからいいけど、下手こいたらすぐに縛り首か断頭台の露と消える運命なのは変わらない。
「あぁ、そうだまだ言ってなかった。
俺たちの命を救ってくれてありがとう、シル」
下手をこかないよう、今後の仕事のスケジュールについて脳内会議を開いていた俺に、ノア殿下はそんなことを言ってきた。
なんなら、頭まで下げられた。
「ちょ、やめてください!
俺は、俺にできることをやっただけですから!!」
ほかになんと言ってみようもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。