ムサシの巻
こんにちは、都知事です。前回、十数年を共にした猫、タケちゃんの死を乗り越え、新たにやってきた別れの兆候。
今回は妹が拾ってきた捨て猫、ムサシです。
ムサシは元飼い猫でしたが、ダンボールに入れて捨てられているのを妹が学校帰りに発見し、家に連れ帰ってきました。
当時高校生だった私は突然増えた&部屋に入ってきた見知らぬ猫にびっくり仰天。「え!?猫増えてる!?どこの子!?」
その子は目付きが鋭く、色合いも白黒のキジでカッコイイ。ただ、その見た目からは想像もつかない甘えん坊でした。
また、しっぽの先が90度曲がったかぎしっぽで、喉が良くないのか「ギャァ」と鳴くのが特徴でした。
(父はよく「ギャァ~🐱」と話しかけていました)
ムサシ(その時は名無し猫)は私の部屋へ入ってくると、胡座をかいている私の足の中へ入り、まんまるとくるまってしまいました。
どこの子?誰の子?うちの子??と訳も分かりませんが、とりあえず猫に座られたら撫でるのがマナー。手の匂いを嗅がせ、緊張を解いてから頭、喉、身体と、順に撫でていきました。
名無し猫はゴロゴロと喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を閉じます。「猫のゴロゴロってちょっと違いがあるんだなぁ」と感心しつつ、撫で続けました。
しかし、私は当時高校生。時間は既に8時過ぎ。自転車でかっ飛ばしてギリ間に合うかどうかという時間。
総合学科の単位制なので、落とすとマズい。そろそろ行くか…と、撫でるのをやめると、離した私の手を押さえるかのように、名無し猫が手を出します。
爪は出ておらず、柔らかく冷たい肉球の可愛らしい感触。そして、相変わらず「ギャァ」と鳴きます。私の目を見るその目は、綺麗な緑色に黒い瞳、宝石みたいな美しい目でした。
まるで「止めるな」「撫でろ」と言わんばかり。猫に撫でろと言われれば、撫で続けるのがマナー。マナー違反者はきっとTwitterで石を投げられるでしょう。
私は(もう少しだけならええか…)と、再び名無し猫を撫でました。
やがて、リビングから響く母の声。母に「学校へ行け」と言われたら、学校へ行くのがこれもまた息子のマナー。
母を怒らせると怖いので、必死に爪を立てて呼び止めようとする名無し猫を後目に部屋を出ました。
「また戻ってくるから」私は名無し猫を置いて部屋を出ました。
学校から帰って事情を聞くと、どうやら妹が拾ってきた捨て猫らしく、同級生の間でかわりばんこに世話していたところ、こっそり飼育していたマンションの管理人に見つかって叱られ、どこかへ捨ててくるように言われたそうです。
私は「まぁそういう事なら、既に猫を飼ってるうちが引き取る形になるのも道理ですな」と、相変わらず私の胡座に乗り込んでくる名無し猫を撫でながら納得するのでした。
さて、名前はどうしよう?長男猫はヤマト、次男猫はタケル。それなら、やはりミコトか?
この子達はもちろん、ヤマトタケルノミコトを由来として命名されています。
母は大の日本好き。日本神話に基づいた名前を付けたいと、早くから言っていました。
しかし、命名はなんと「ムサシ」。
まぁ宮本武蔵という剣豪がいるし、路線は外れてないけど…と苦言を呈すと、「ミコトって感じじゃない、ミコトにしては凛々しすぎる」という事で、まぁそれもそうかと。
じゃあお前は今日からムサシやな。ほら、ムサシ。ムサ、ヤマト君とタケちゃんと仲良くな、お前後輩やからな、と言い聞かせ、ひたすら撫でました。
ムサシは「ギャァ」と鳴きました。
ヤマトとタケルは保護猫であり、生まれた時から人の手で大事に育てられていましたが、ムサシは飼われていたところを捨てられていた子。
栄養不足なのもあってか、毛並みは2匹のもちもちふわふわに比べ、カチカチカサカサでした。
そのため、長時間撫でていたら手のひらの水分を全部もって行かれ、手荒れが起こります。
でも撫でるのを止めさせない。それがムサシでした。見た目も名前もカッコイイのに、根はとんでもない甘えん坊。
母曰く、日々かわりばんこに面倒を見る子供が夕方過ぎには帰って行く。夜は寒さに震えながら一人ぼっち。行くあてもない、エサも取れない。
そんなムサシがようやく家の中で1日中過ごせるのだから、今までの寂しさを埋めるように甘えてくるのは仕方ないんじゃないかと言うことでした。
さて、そんなムサシ君でしたが、とにかくコミュ障!他の猫との関係がとにかく悪い!
捨て猫だったからか、人の愛に飢えており、甘えてくるのはいいんですが、その姿を先輩猫に見せつけ、「俺の方が可愛がられているぞ」と言わんばかりの態度を取るのです。
そして、優位性を取れたと感じたのか、長男猫のヤマトへ喧嘩を吹っ掛けました。完全に我が家の縄張りを荒らそうとしています。
とんでもねぇなこいつ!?
しかし、兄が喧嘩を売られるのを見て黙っていないのが弟猫のタケル。
タケちゃんは神経質のヤマトと違い、ムキムキで運動能力も高く、それでいて後輩猫の面倒見も良い猫でした。
が、兄が殴られてるのを見てすかさず馳せ参じ、威嚇、からの取っ組み合いでムサシは即ギブアップ。タケちゃんは保護猫でありながら喧嘩も強いし人望(?)もあるし、猫同士の喧嘩の読み合いも非常に上手いのです。
強烈な攻撃を食らって血を流しながら敗走したムサシ。「お前アホやな~!タケちゃんにかなうわけないやろ~!」と、慰めつつ止血し、これで懲りただろうと思ってたのもつかの間。別の形で戦争が始まりました。
そうです。ムサシは人間をダシに使い始めたのです。私が胡座をかくと、すぐさまその中に乗り込んでくるムサシ。撫でる私。大袈裟にゴロゴロ言うムサシ。目線の先にはタケちゃん。
「こいつ…狙ってやがる…!」
-冷戦と呼ばれる時代の幕開けである-
表ではマウントを取り、影ではイキった挙句シバかれ、敗走して来ては人間相手に慰めてもらうムサシ。野良猫にもなれず、家猫にもなれない、不器用というか、不憫な子だったと思います。
まぁシバかれて流血はするものの、食事と寝床には困らない分今の方がまだマシかな…?というような感じでした。
なんというか、名前負けするくらい喧嘩には弱いのに、プライドは高く、喧嘩を売るのはやめない。虎の威を借る狐のような猫。捨て猫の頃に経験したからなのか?ある意味処世術のようなものかなと考えていました。
その後…タケちゃんが亡くなり、実家の猫は3匹になりました。タケちゃんの遺体の前で皆で悲しんでいると、ムサシが寄ってきて、そっと膝を擦るように身体を当ててくれました。
ムサシはそんな気遣いが出来る子ではなかったのに、タケちゃんが普段から人間にしていた気遣いを見ていたのかもしれません。
天敵(ライバル)ではありましたが、やはり家族というか、兄弟のように思ってくれていたのでしょうか。
その後も、ムサシは積極的に出迎えをしてくれたり、添い寝してくれるようになりました。
穏やかな日々を過ごし
季節はめぐり、時は流れて…
2025年4月、突然元気がなくなり、歩くのも辛くなってきたムサシ。
それでも私が実家に帰ると、お出迎えをしてくれました。
「いよいよ今夜かもしれない」と母から連絡を受け、実家へ駆け付ける私。
タケちゃんの時には出来なかった、最後のお別れ。
ムサシはやせ細り、歩くのも力なく、目も見えないのか、匂いと記憶を頼りに水を飲み、トイレを探しているようでした。
これが生き物の終わり…
不安なのか、痛いのか、苦しいのか、涙の滲んだ目で私を見て「フーン」と寂しそうに鳴きます。
「ムサシ、ここにおるよ」
「フーン」
「頑張りや、ムサシ。ここにおるからな」
「フーン」
この日、母と妹も駆けつけ、ムサシを心配しつつも皆で夜遅くまで、楽しくお喋りをしました。
皆で暮らしていたあの頃のように。
子供達が家を出る前の我が家のように。
そして、翌日…
2025/04/17(木)午前8時頃、ベッドと壁の間に顔を埋めるようにして亡くなっているムサシを母が発見しました。
これからは1日安置し、他の猫達と別れを済ませた後に葬儀屋さんに依頼することになります。
不自由な身体を脱ぎ捨て、若い頃の姿で天へ駆けていくムサシの姿を想像すると、少し寂しいし涙も出ますが、「あぁ良かったな、もう苦しみはないんだな」と、安堵した気持ちになります。
ありがとう
ムサシ君
向こうではタケちゃんと仲良くね
まだ下界は肌寒い日も続きますが、お浄土や虹の橋と呼ばれる場所はとても暖かく気持ちが良いと聞きます。出会いと別れに感謝しつつ、我が家の猫も極楽浄土へ行けると信じて、南無阿弥陀仏。
神様仏様、どうかうちの子、ムサシをよろしくお願いします。ここ数日何も食べられなかったので、まずは腹いっぱい何か食わせてやってください。
南無阿弥陀仏。
南無阿弥陀仏。
ありがとう。ムサシ。ありがとう。
お疲れ様でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます