実家の猫が死にました
@tochiji39
タケルの巻
こんにちは、都知事です。
我が家には4匹の猫がいましたが、3匹を見送り、残りは女の子猫のジュノンちゃんだけになってしまいました。
神様というのは実に強欲で、優しい子、愛される子を次々と奪ってしまいます。
猫の温かさ、柔らかさを奪ってしまう神という存在が憎くて仕方ありません。しかし、悲しみを怒りにして誤魔化しても前には進めません。
出来るのは、思い出すだけ、供養するだけ。
そして、今を精一杯生きるだけ。
猫が教えてくれた事は死に対する恐怖や神への怒りなどではないはず。
そんな気持ちで、今日も筆をとって行こうと思います。
私の執筆するすべての記事が、虹の橋で穏やかに眠る猫たちへ届き、心地よい音色となりますように。
2022年11月26日、4匹のうち上から二番目の猫、タケルが旅立ちました。
タケルは中に人間が入っているのかと思うくらい賢く、優しく、とても食いしん坊で喧嘩も強い。
存在感があり、後輩猫の面倒見も良い猫でした。
頭が良く、人間が設置したトラップは易々と解除し、ドアを開けフェンスを開け、どこへでも行ける強い猫。
しかし、人間のことを蔑ろにせず、他の猫も毛繕いしたり、喧嘩の仲裁をしたり、兄猫が後輩猫に虐められている時は率先して戦いに参加する、群れのリーダーみたいな存在でした。
明るく元気溌剌、全身筋肉質でムッキムキ。食欲旺盛で他の猫の皿も奪って横取りするようなデカ猫、タケちゃん。
そんなタケちゃんも歳を取り、足腰が不自由になりました。
それでも、父が夜遅く仕事を終えた時には出迎えをし、母の元を離れず、私や妹が実家に帰るとお出迎えして身体を撫でさせてくれる、本当に優しい子でした。
そんな弱っていくタケちゃんを、私は見たくありませんでした。受け入れたくありませんでした。
心なしか、避けていたとも思えます。15年間一緒に暮らしてきました。「タケちゃんが死ぬ」そう考えると胸が裂けそうになって、考えるだけで吐き気がして、思考停止して心を守りました。
結果、死に目に会う事も出来ず、タケちゃんは父と母が病院へ向かうのを見送り、そのまま母のベッドの下へ潜り、静かに最後を迎えました。
昼過ぎ、病院から帰った母からLINEを貰い、タケちゃんの訃報を知りました。
私は仕事に明け暮れて、すぐに向かう事も出来ませんでした。
実家へ着いたのは深夜過ぎ。
タケちゃんはいつものように母の横で眠っていましたが、身体は冷たく、もう起きる事は無いんだとすぐに分かりました。
心が麻痺する。少しも悲しくない。涙も出ない。
人は愛する者の死に対して準備をしていないと、こんな事になってしまうのです。
私は昔葬儀屋さんで働いていて、多くのご遺族の悲しみに寄り添ってきました。
その私も、いざ自分事になるとこうなってしまうのでした。
翌日…
タケちゃんは荼毘に付され、御骨になって戻りました。
すっかり寂しくなった我が家。
生まれた時は大喜び。一緒に過ごす日々は楽しく美しい。
ただ、死んで居なくなってしまうと、今までの感動や喜びをすべて利息を付けて取り上げられてしまったような感覚になります。
それでも生活は続きます。
悲しみは尽きませんが、生きている限り道も尽きません。
母が猫達におやつを用意しましたが、食べに来たのは妹猫のジュノンちゃんだけ。
はぐはぐといつも通り美味しくおやつを食べるジュノンちゃん。猫の無邪気な姿は、いつでも私達を癒し、和ませてくれます。
そんなジュノンちゃんでしたが、半分くらい食べ進めてから何かを思い出したようにドタドタと上の階へ上がり、「にゃぁーん」「わぁーん」と大きな声で鳴き始めました。
「どうしたんやろうジュノンちゃん、こんな大きな声で鳴いて」
「タケちゃんを呼んでんねん、いつもおやつもらう時一緒やったから」
「ジュノンちゃん…」
飼い猫が死ぬ時、同居猫は死というものを理解できないのかもしれません。
タケちゃんの亡骸は触ってみないと死んでいるのが分からないくらい、いつも通りの見た目でした。
身体はふわふわのまま、きっと重たい身体を引きずっても、手入れを欠かさなかったのでしょう。タケちゃんは生前と変わらない美しい姿で天に召されていました。
そして、荼毘に付されると御骨になるので腐敗もしません。なので、死んだ事に気付かず、「突然いなくなった」と思っても仕方の無いことです。
「ジュノンちゃん、タケちゃんはもう死んだんよ」
「戻って来ないのよ」
それからもジュノンちゃんはおやつのたびにタケちゃんを探し、家中を走り回るのでした。
落ち着きのないジュノンちゃん、安眠する事のなくなったヤマト、そして、タケちゃんの代わりを務めるかのように出迎えをして、身体を撫でさせてくれるようになったムサシ。
翌晩…夜遅く帰宅した父と酒を酌み交わしながら、タケちゃんの事を話しました。
「あいつ、最後は身体もつらいやろうに、俺の部屋まで階段登ってきてくれてなぁ」
「もう、おらんのやな」
我が家が大きく変わった秋のこと。
寒くなる前に旅立った我が家の温もり。
父の語る悲しみが、私にも響くようでした。
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