タッイガーッッッ!

 この世界は人と人の争いが殆ど起きていない平和な世界なのだが、「悪霊」と呼ばれる迷惑な存在が出現する。


 悪霊は非常に迷惑な存在だ。

 用水路を詰まらせて農家を困らせたり、大通りに氷を張って道行く人を転ばせたり、お昼寝タイムの保育園の傍で大きな音を立てたり。

 悪霊対策省の研究班によると、悪霊による社会的損失は年間100億Astro(1Astroは約2.5円)に達すると推計されている。


 しかも厄介な事に、悪霊には物理攻撃が全く効かず魔法でしか倒す事が出来ない。

 だから国は魔術師の育成に力を入れており、悪霊を倒す事に高い報酬を設定している。加えて、悪霊を倒すと手に入る「霊石」を再生可能エネルギーとして利用できることが分かり、悪霊退治のニーズは上がる一方だ。



 その日、メメとリースは先生に呼び出された。先生は「受けて欲しい依頼があるの」と言って、二人に一枚の紙を見せた。

 わざわざ指名して依頼するような内容、いったいどんな悪霊が討伐対象なのだろうか? 二人は緊張しながら紙を受け取った。


「討伐対象は……猫又?」

「えっと、猫又ですか?」


 猫又の脅威レベルは中の下と言ったところであり、正直に言うと大した脅威ではない。

 二人が首をかしげていると、先生の後ろからひょこっとユイが顔を出した。


「これは、私からのお願いなんです。どうしても手伝って欲しい事があって」


「「ユイちゃん(さん)のお願い?」」


「はい。先生から『格上と戦闘する事で、固有魔術に覚醒するかもしれない』というアドバイスをいただきまして。だから猫又討伐に挑戦してみようと思うんです」

「だからといって、危険を冒す訳にはいかないじゃない? という訳で、二人にはユイさんのサポートをお願いしたいの。万が一のことがあっても、二人が居たら何とかなるかなって思って」


 メメとリースからすると猫又は「中の下」だが、ユイからすると「格上の強敵」である。猫又を倒すことで、ユイの魔力順応性的なサムシングが開花するかもしれないと先生は考えているのだ。


 さて、メメの地属性魔法は、防御・足止め・攻撃など様々な事に応用が利く。そして万が一にも怪我を負っても、リースの回復魔法で癒す事が出来る。

 二人のサポートがあれば、安全に猫又討伐に挑戦できるだろう。


「もちろんです」「私達に任せてください」


「迷惑かけちゃってごめんね。そして、本当にありがとう!」


 ユイは申し訳なさそうに謝った。しかし、友人は謝罪を求めていないと知っていたので、それよりも大きな声で感謝を伝えた。


「そんな、迷惑なんて思ってないよ!」

「そういう事なら、いつでも頼ってね!」


 成長のきっかけを掴もうと努力する少女と、その手助けをする友人。

 はたから見ると、三人の関係性は向日葵ひまわりのように美しく温かい友愛のよう。しかしながら、実際に彼女らの間で咲いているのは月下香チューベローズのように濃厚で甘い愛である。



 フニャー!


「あれがくだんの猫又ね」

「珍しい柄ですね。良い霊石を落とすと良いのですが」


「わわっ! すっごく怒ってる……」


 その気迫に圧倒されたユイは、思わずメメとリースの腕にしがみついた。


「大丈夫だよ。動けないよう捕まえる!」

「バフをかけます! ユイさん、頑張ってください!」


 フニャッ?!


 メメは猫又の動きを封じ、リースはユイに強力なバフをかけた。

 後は汎用魔術をペチペチ当てるだけで倒せる。ユイは魔力量に限ればトップクラスだ、質より量な戦いは大得意である。何も問題ない、はずだった。


「はい、頑張ります! っ?!」


 突如として猫又が煙に包まれた。そして――


 グアアアアアッ!


 ――煙の中から、白銀色に輝く勇ましい虎が姿を現した。


「「なっ?!」」


 トラァァァッー!!


 元猫又は、その正体が虎であったことを誇示するような、如何いかにも虎らしい咆哮をあげた。


 タッイガーッッッ!


 そして如何いかにも虎らしい爆音とともに自爆した。


「ユイちゃん!」「ユイさん?!」


 白銀虎の脅威レベルは上の中くらい。メメとリースでもかなり苦労するレベルの強さだ。

 それが捨て身の自爆攻撃なんてしたら、二人では防ぐことができない。



 悪霊は霊的実体であり、どれだけ派手な攻撃を繰り出したとしても、ほとんど物理ダメージを受ける事は無い。

 代わりに「呪い」という恐ろしい異常状態に罹る事になる。


 呪いの程度はダメージ量に比例し、小さな呪いであれば「今日一日、タンスの角に足をぶつける確率50%増加」などで済むが、凶悪な呪いであれば「今日から一週間、大通りでつまずいて道行く人の注目を集める確率700%増加」などの恐ろしい悪影響をこうむってしまう。


 白銀虎の本気の自爆をもろに喰らってしまったユイ、果たしてどうてしまうのか……。

 キャットきっと、想像を絶する悪影響が発生するに違いい!



 どうして猫又だと思っていた悪霊が白銀虎変化した?

 ユイは無事なの?

 珍しい柄だと気付いた時に、どうして異常事態であると警戒しなかった?


 メメとリースは混乱と不安と自責の念でごちゃごちゃになりながら、ユイの下へ駆け寄った。


「「ユイッ!」」


 二人が目の当たりにしたのは、いつもと少し様子が違うユイの姿。

 ユイの頭頂部にはふさふさなネコミミが生えていた。おしりにはながーい尻尾が生えている。


 ユイはミミをピクピクと動かし、尻尾をくねくねさせていた。

 そして可愛らしく首を傾げながら鳴いた。


「にゃ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月27日 10:10
2025年12月27日 19:10
2025年12月28日 19:10

落ちこぼれ(嘘)とヒミツを抱えた少女達:百合ハーレムを目論む女の子達がわちゃわちゃするお話 青羽真 @TrueBlueFeather

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画