平民を装うお姫様、メメ

◆ Side メメ ◆


 私はメメ。とある港町で暮らす普通の女の子だったのだけど、固有魔術に目覚めた事で、王都にある魔術学園に入学する事になったの。

 私の固有魔術〈星の加護〉は、地属性魔法の威力を数倍にするんだ。強力無比って訳じゃないけれど、色んな事に応用できる使い勝手が良い魔法って感じかな。


 魔術学園には貴族とか豪族とか凄い家柄の人が沢山いてちょっと窮屈だけれど、なんとか楽しく過ごしているよ。



 ……というのは、ただのカバーストーリー。

 私の正体は――この王国の第五王女メリッサ=メル=アストロフローなのです!


 まあ、王女と言っても王位継承権は無いのだけど。私は現女王様が産んだ子ではなく、現女王様の妻が産んだ子なの。だから「王女」とは名ばかりで、そんなに凄くないって事だね。

 何を言ってるのか分からない? ええっと、まあ分からなくても大丈夫!



 さて、王位継承権の無い王女となると、将来はどこかの貴族に娶られる事になるだろう。

 それはそれで悪くないと思っていたのだけど、とある本と出合った事で私の考えは一変する事になる。


「この本、表紙が綺麗……。『星見石と遊牧少女』かあ。読んでみようかな」


 王城の中にある図書館で、綺麗な表紙の小説を見つけた。

 タイトルは『星見石と遊牧少女』、大草原の中で生活する遊牧民として生まれた主人公が、可愛い幼馴染達に囲まれながらスローライフを送るという物語なの。


「良い、すっごく良い! 私も可愛い女の子に囲まれたい!! ハーレムを築き上げたい!!!」


 思春期の入り口にいた私にとって、この作品は衝撃的だったの。

 それからというもの、私の中で「沢山の美少女に囲まれてウハウハしたい」という欲望がメラメラと湧き上がってきた。いや、ムラムラと湧き上がってきたの方が正しいかしら?


「いいなあ。だけど、この立場じゃあハーレムを築くのは難しいよね……」


 繰り返しになるけれど、王位継承権の無い王女という地位は、複数のご令嬢を娶るような立場ではなく、むしろ有力貴族に娶られる立場なんだよね。


 しかし、貴族外からお嫁さんを見つけるのも難しい。だって相手の子に「どうして王女様が私に……? ひょっとして、体目当てなんじゃ?!」って警戒されちゃうから。

 いくら「貴方達と幸せな家庭を築きたい」って言っても、確実に信用されないだろう。


 そう悩んでいた時、唐突に素晴らしいアイデアが私の脳裏をよぎった。


「そうだ、それなら王女という身分を隠して生活すればいいじゃない!」

 

 幸い私の顔はほとんど知られていない。ここ最近はパーティーにも出席していないからね。

 アクセサリーを全部外して、髪型を変えて、地味な服装にすれば……。おおっ、良い感じ!


 ふっふっふ。我ながら、完璧な作戦ね!



 そう思っていたのだけど……現実はそう簡単ではなかった。


「メメちゃん、おはよ~」

「おはよー!」

「メメさん、おはようございます。朝から勉強ですか、私も見習わないとですね」


「! お、おはようございます……」


 ど、ど、ど、どうやって仲良くなればいいの~?!

 クラスには魅力的女の子が沢山いた。ポーションの申し子、敬虔な魔法少女、正義の魔法少女……。仲良くなりたいけれど、何を話せばいいの?!


 どうすれば恋人関係になれるの? いや、それ以前に、何をすれば友達になれるの?!

 何にも分かんないー!! 私ってコミュニケーションが下手かも!!



 このままだと、幸せ甘々ハーレム生活を送れない!

 しかし、そこに転機が訪れた。


「編入生が困ってる……。声をかけてみようかな」


 私のクラスに編入生が来たの! しかも可愛い!

 私は意を決して、編入生に話しかけた。


「あなたが編入生ね? 私はメメ、よろしくね! 貴族とか豪族とか凄そうな人が多くて萎縮しちゃうかもだけど、一緒に乗り越えようね!」


「あ、ありがとうございます……? わ、私はユイです、よろしくお願いします」


 編入生、ユイちゃんはポカンとした表情で私を見つめてきた。

 戸惑っている顔を見て、私はキュンと来た。あっ、好き。


 黒曜石のように美しい瞳、清流のようにサラサラしたロングヘアー、ぷっくりした唇。

 そして声もとっても良い! 子猫が鳴いているような、可愛くって守ってあげたくなるような、そんな声なの!!


 あの唇に触れてみたいな。きっとぷるぷるで気持ちいいだろうな。

 あの声で愛の言葉をささやいて欲しいな。そして私を満たしてほしいな。


 恋人になれたらいいな。結婚したいな。

 目をつむって結婚後の生活を想像妄想してみる――



 時刻は19時。キャンドルの甘い香りに包まれながら、私たちはそっと口づけを交わす。


メメ『お風呂、一緒に入ろ?』

ユイ『うん///』


 大好きな恋人の一糸まとわぬ姿を見ている事、そして見られている事に、緊張と照れを感じながら、一緒に浴室へ。


 そしたら、ユイちゃんがぴとって体を寄せてきて。

 恥ずかしそうに私の耳元でささやいた。


ユイ『洗いっこしたいな、いい?』

メメ『うん、いいよ///』



 ――良い、すっごく良い!

 じっとユイちゃんの顔を見つめると、ぽぉっと顔を赤らめた。はぁ、可愛すぎる。

 決めた、この子は意地でも私のお嫁さんにしよう。むふふふ~♪


「ユイちゃんって呼んでいい?」


「はい。ええっと、じゃあメメちゃんって呼んでも?」


「うん、もちろん!」


 ユイちゃんとぎゅっと握手を交わした。

 ユイちゃんの手、スベスベで気持ちいい~。こんな事を思う私って、ちょっと変態かなあ……?



 すると、私たちの会話を聞いたのか聖女ことリースさんが近付いてきた。


「はじめまして、ユイさん。私はリースです」


 そう言って、リースさんは私達にずいっと身を寄せた。

 こんなに近付かれたのは初めてかもしれない。リースさんも凄く魅力的な女の子だから、緊張しちゃうな。


「はじめまして。ええっと聖女様?」

「リースさん! こ、こんにちは」


「リースでいいですよ。固有魔術が〈女〉なだけで、私自身は普通の女の子ですから。それに――」


 リースさんは自嘲気味に溜息を吐いてから、私の方を見てこう続けた。


「――私よりもメメさんの方が、ずっと聖女だと思いますよ」


 そう言ってリースさんは私たちの頭を優しくなでなでしました。

 き、気持ちいい……。私とユイちゃんは思わず「ふにゃぁ」って力が抜けてしまった。



 そこへ正義の魔法少女ことソラさんとポーションの申し子ことカナさんがやってきた。


「こんにちは、あなたが編入生だね! よろしく!」

「こんにちは~。むむむ、緊張しているみたいだね~。そうだっ、この後みんなで学校の周りを散歩しない?」


 これをきっかけに、私はユイちゃん、リースちゃん、ソラちゃん、カナちゃんと仲良くなる事が出来た。

 ここ最近はスキンシップも多くなってきており、親友以上の関係になりつつあると思うの! ハーレム一歩手前と言っても過言じゃないわね!


 ふふふ、身分を隠して親睦を深める計画は、何もかも順調に進んでいる!





※補足※

この世界は百合世界なので、女の子と女の子が結婚して女の子が産まれる世界観です。

何故か男性が一人も登場しない百合アニメ、割とよく見かけますよね。つまりそういう事です(?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る