第23話 上を目指すダンス

迎えた放課後、海吏は一人教室で銀河を待っていた。

銀河は話しかけてきたのだが、直後、先生に呼ばれて行ってしまった。

転入直後だ、仕方ない。


「ごめんな! 待たして」


戻ってきた銀河は、両手にいっぱい荷物を抱えていた。


「大丈夫? 手伝おっか?」

「ホンマ? なら、俺のカバンの口開けてくれへん?」


海吏が言われたとおりに開けると、銀河は両手の荷物をごっそりその中にしまった。


「助かった。ありがとうな」


銀河は、人懐っこい笑顔を見せる。


「いや、全然」


海吏もつられて笑顔になった。

――やはり、銀河には相手を飲み込む力がある。


「この学校広いなぁ。迷いそうやねんけど」

「俺も慣れるまで大変だったよ」

「せやろ? 教室移動んとき助けてな」

「それは、もちろん」

「課題のやり方とか、ガーッて説明されて……あんなん一気に全部覚えられへんて!」

「困ったら何でも聞いてよ」

「マジで? 助かるわー。連絡先聞いてもええ?」

「うん」


銀河はカバンの中身を少し整理しながら、会話を続けた。

ポンポン話題が出てくるのは、流石といったところだ。

連絡先を交換し終わったところで、銀河が少し落ち着いたトーンで本題を切り出した。


「まどろっこしいの苦手やから、率直に言うんやけど……」


海吏の喉がごくりと鳴る。


「自分らのチームに、入れてくれへん?」

「へぁっ?」


海吏は思わず変な声が出てしまった。


「アカンかった?」

「あ、いや、そうじゃないんだけど」

「そっか。あの大っきいヤツにも聞かなアカンよな」

「大っきいヤツって――」


銀河は海吏の隣の空間を指差して続ける。


「昼練習してたん、自分のチームのメンバーやろ?」

「見てたの? ってか、何で分かったの?」

「たまたま見かけてん。あとは……勘?」


銀河は昼の光景を思い出すよう、腕を組んで目を閉じた。


「見たことないフリやったし、角度とかタイミングとか、繰り返し微調整しとったから」


銀河はフリを思い出しながら体を動かした。

その世界観にひたり、踊りながら大きく深呼吸をする。


「ここ、ええよな。めっちゃカッコいい」

「――だろ!?」


褒められたことが嬉しくて、先ほどまで海吏の頭の中を占めていたものが全て吹き飛んでしまう。


「ビビッて降りてきたんだよ! すげー上手いことハマったと思って!」

「自分考えたん!? 天才やんか!」

「俺も気に入ってるとこだから、すげー嬉しい!」

「いやいや、お世辞抜きでこれはマジカッコええわ!」


海吏は、胸が熱くなるのを感じていた。


「つーか、お前ブレイク以外も踊れんだ?」


先ほどの銀河の滑らかな動きを思い出す。

間違いないだろうが、海吏は確認のために問いかけた。


「一番得意なんがブレイクってだけで、一応ある程度色々やったで」


銀河は他ジャンルの基本的なステップを披露してみせた。

ヒップホップは重心低くグルーヴ感があり、ロックは止めとアップのリズムを意識している。

ハウスも膝の柔らかさが経験者を物語っていた。

『ある程度』なんて謙遜でしかない、ちゃんと動きを理解しているものの踊り方だ。


「すげー……上手いな」

「やろ?」


銀河は満足そうに満面の笑みを見せた。


「地元じゃ大会出たりしててん。コッチでも、暴れてこ思て」


そして、海吏の胸を撃つように人差し指で突く。


「そしたら丁度ええとこに、ええダンサーがおったってわけ」


一見して軽いノリのようにも見えたが、その目には炎が宿っている。


「朝声かけた時は、普通にダンス見して貰お思てただけやねんけど、昼に練習見て気ぃ変わったんよ」


銀河は不敵な笑みを見せた。


「『上』目指すヤツらのダンスやなって……」

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