第24話 なるはやで
「『上』……」
その言葉が、波紋のように海吏の中に広がった。
陸叶とは、『コンテストに出場』を目的にチームを組んだ。
峻を誘った理由は、『一緒に踊りたいから』だ。
どこまで目指すかなんて、正直考えてはいなかった。
(上か……)
――刹那、薄れていた過去の記憶が頭をよぎる。
忘れたつもりになっていた。
癒えたはずの胸の痛みが、捨てたはずの感情が、海吏の胸をじわりと侵食する。
(……いや、今は違う)
海吏は気付かれない程度に、ゆっくりと首を横に振った。
「本気で、上を目指す気なんだな?」
真面目な顔で問いかけると、銀河はそれを受け止めるように頷いた。
「当たり前やん。やなかったら、こんなすぐ打診せぇへん」
「分かった」
海吏はフッと微笑むと、銀河に向かって手を差し出す。
いつか過去を振り返ったとしたら、この瞬間もターニングポイントの一つになるだろう。
「浅見海吏。得意なジャンルはヒップホップ。ヨロシク」
「よろしくな!」
朝と同様に、勢い良く手を振られた。
「折角喜んでくれてるところ、悪いんだけど……」
海吏はおずおずと切り出した。
「加入してもらうのに、一応許可取らなきゃいけない人が二人いて……」
「大っきいヤツと、もう一人?」
頷く海吏に、銀河はあっけらかんと「ええよ」と笑う。
「ちょおーっと癖がある人なんだけど、ダンスはマジで上手いから!」
「ええやんええやん! 癖なんかあったって、上手いほうが大事やん!」
銀河の前向きな発言に一抹の不安を抱きつつ、海吏は二人にメッセージを送った。
『転入生、オールジャンル可能』
公園で先に練習しているはずの二人からは、思ったよりすぐ返信がきた。
話の内容を気にしてくれていたのかもしれない。
『良かったじゃん!』
『誘った?』
まずは陸叶からだった。
続いて、峻からも続けてメッセージが届く。
『誘ったんなら、連れてこい』
『なるはやで』
峻の言う『なるはや』は、『可能であれば今日にでも』という意味だ。
以前、『なるはやで直せ』と言われた部分を、その日のうちに修正せず怒られたことがある。
海吏は伺うように、銀河に問いかけた。
「今日って……暇?」
銀河は越してきたばかりで、特に予定もないらしく、公園に誘うと二つ返事で快諾してくれた。
ちょうど道中に自宅があったため、重たい鞄だけ置いていくことにする。
海吏はマンションのエントランスで、二人に『あと15分くらいで着く』とメッセージを送る。
「置いてきたでー」
家から戻ってきた銀河は、ジャージに着替えていた。
「他の二人て、どんなやつ?」
「えっと……重信が知ってる方が――」
「銀河でえーよ。俺も海吏て呼んでええ?」
「あ、もちろん」
距離の詰め方が早いが、決して不快ではなかった。
あの二人も自分から詰めていく方ではないから、銀河の方から詰めてくれるとありがたい、と海吏は考える。
「銀河が知ってるのが、『東陸叶』。隣のクラスで、俺と小学校から一緒のヤツ」
「地元一緒なんや」
「そう。仲良くなったのは中学入ってからだけど、中学時代はずっと二人で踊ってた」
「ほー。んで、もう一人は?」
「もう一人は、高校入ってから出会った『奥苑峻』。色んな意味で……めっちゃスゴいヤツ」
「そらすごい」
海吏は、自分の語彙力の無さに泣けてきた。
この中途半端な説明が、後から問題にならないことを願うばかりだった――。
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