第17話 必要な存在

少し低めの落ち着いた声に、二人は勢いよく声の方向を向く。

そこには、呆れ顔の峻が立っていた。


「来てくれたんだ」


海吏は駆け寄った。

陸叶も慌ててあとに続く。


「『来てくれたんだ』じゃねーよ」


峻は海吏の頭を手のひらで軽く押し返した。


「何だあのクソダセェ動き。やる気あんのか?」

「何も反論できません……」

「やると決めたらちゃんとやれ。できねぇならやるな」


自覚があるからこそ、言葉が出てこない。

海吏は項垂れた。

こんな踊りを見せてしまっては、峻の気持ちも離れてしまうのではないか――。

ちらりと上目遣いで峻を見る。

いつも通りの落ち着いた表情なので、その先の思考が読めない。


「今日は来てくれないかと思ってた」

「んー……まぁ、色々考えてはみたんだけど、まだ分かんねぇ部分とかもあって……」


陸叶の言葉に、峻は一拍おいてから口を開いた。


「一人で考えてても結論が出ねぇから、その前に一度、お前たちに会って話すべきだと思ってさ」

「何なに!? 何でも聞いて!」


すぐ断られるわけではないことを知り、海吏は前のめりになる。

峻は再び海吏の頭を押し返すと、二人に問いかけた。


「そもそも、何で『俺』を入れようと思った?」


海吏は陸叶に視線を向けると、陸叶も大きく頷いた。

二人の答えは決まっている。

何度も話し合ったのだから――。


「俺らにないものを持ってるから」

「技術的な話?」

「もちろんそれもあるんだけど、それは置いといて……」


海吏は説明を続けた。


「結構イベントとかコンテストとか観に行ってたんだけど、バチバチに揃ってるチームって完成度は高いけど個性は消されてたりするじゃん?」


峻は軽く頷く。


「それが正しいときも勿論あるんだけど、『揃ってれば誰でもいい』じゃなくて、『俺らが踊ってる意味』みたいなのを考えたくて」


海吏は一歩、峻の方に踏み出した。

伝えたい思いが強すぎて、距離がもどかしく感じていたようだ。


「峻は上手い。上手いだけじゃなくて個性があるし、華もある」


海吏は自分でも気付かぬうちに、思いもよらない距離まで近付いていた。


(……っ!)


思わず峻も後ろに仰け反る。

鼻が触れそうなほどの距離に、胸がざわついた。


「俺たちの目指すチームに、どうしても峻が必要なんだ!」


峻の顔が映った海吏の瞳には、譲れない想いも宿っていた――。

峻が面食らっていると、海吏の背後にもう一人のシルエットが重なった。


「ごめん峻、圧強いよね」


それまで黙っていた陸叶が、海吏の両肩を掴んで引き剥がす。


「でも、俺も同じ気持ちだから」


大型犬に抑え込まれ、小型犬が尻尾を丸めている。


(いいコンビだな……)


確かに、海吏が『個性』と言うだけはあった。

二人とも芯は同じだが、違った空気感をまとっているのだ。

それはまるで、同じ絵の具を使っても、画家によって全く違う絵が生まれるかのようだった。

自分にも『個性』が出せるだろうか――。

両手を胸の前で軽く開き、そこに視線を落とした。

手がじんじんと痺れているような気がする。

心臓の音は激しくビートを刻んでいた。


「最後にもう一個だけ聞いておく……俺を誘って、後悔しないか?」


二人は間髪入れずに頷いた。


「当たり前じゃん!」

「もちろん!」


海吏は続けて、満面の笑みを見せる。


「ぶつかる事もあるかもしれないけど、峻を誘わないでいるより断然いいに決まってる!」

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