第15話 内緒の想い

下駄箱を出たあたりで、複数グループの女子たちが校門の方を見ながらざわついていた。


「ね、見て。誰か待ってるのかな?」

「声かけてみる?」


「結構イケメンじゃない?」

「ホントだ!」


視線の先を見やると、見覚えのある大型犬が落ち着かない様子で立っていた。


「何してんだよ」

「あっ! 峻!」


出会えた安堵感を全身で表現しているので、待っていたのは確実に自分だろう。

――海吏の姿はどこにも見えない。

峻は、陸叶の背中を押して歩き出した。


「ここにいると目立つから、行くぞ」

「う、うん!」


ひとまず、いつもの公園に移動することにした。


「そんで、何の用?」


いつもの公園で、二人は並んでベンチに座った。


「今日、海吏には言わないで来たんだけど……」

「ん」

「海吏もなんか今日一日、ずっと落ち込んでて……」

「で?」

「俺も、何とかしなきゃって……でも、上手く言葉にできなくて……」

「だーーー! もうそれはいい! 結論を言え結論を!」


しびれを切らした峻が叫ぶ。


「俺は優しい人間でもなければ、気が長くもない」


瞬間的に、陸叶の体がビクッと強張った。


「お前が、『海吏に内緒』で、わざわざ『俺』に会いに来たってことは、俺に何か『言いたいこと』があるんだろ?」


峻は、陸叶の目を見て続けた。


「そこはちゃんと聞いてやるから、どーでもいい事は省いてそこを言え!」


陸叶は深呼吸をし、峻に向き直る。


「俺も……峻と一緒に踊りたい」


思わぬ切り口に、峻は目をぱちくりさせた。

峻の中では、なんとなく海吏が陸叶を引っ張って、陸叶は若干流されているイメージがあった。

だからこそ、今日は海吏のために来たんだろうと思っていたのだ。


「意外だな。お前にも意見があったんだ」


陸叶は照れた様子で笑う。


「海吏が教えてくれたから」

「何があったとかは興味ないけど……いい顔してるじゃん」


続く言葉を飲み込んで、峻は立ち上がった。


「まぁ、まだ決めてはいないけど」

「うん……」


陸叶もつられて立ち上がる。


「お前の気持ちは覚えとく」

「……うん。ありがと」


峻は振り返らずに公園を後にした。

今日に限って、雑踏する駅前の音がいやに耳に響く。

大型モニターでは、今週のヒットチャートが流れていた。

一位は、先週発売されたIgNINEteの新曲だった。


(いつの間にか、俺の生活にも入り込んでるな……)


一人が当たり前だった峻の時間に、いつの間にか登場人物が増えている。

少し前まではそれが不快だったはずだ。

ある程度で自ら壁を作っていた。

しかし、今は不思議と嫌ではない。

そもそも、他人と馴れ合うのも群れるのも好きではなかったはずの自分が、何故あの時二人に声をかけたのか。

そして何故何度も一緒に練習を重ねたのか――。

峻の思考は、答えにだいぶ近付いてきていた。


「ただいま」


相変わらず家には誰もいない。

今日の夕飯も、カレーライスだ。

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