第7話 答えはその先に
「あ、じゃあ……とりあえず一緒に帰る?」
陸叶は無言で頷いた。
その顔には少しだけ安堵の色が浮かんでいる。
「…………」
「…………」
ひとまず陸叶が話し出すのを待とうと、海吏は横目でチラリと見る程度に留めていた。
だが、陸叶は一向に話し出す様子がない。
かといって、こちらから尋ねるほどの勇気も、今の海吏には持ち合わせていなかった。
「…………」
「…………」
沈黙が続いたまま、分かれ道まで来てしまった。
「あっ……」
周りを見ずに歩いていたのか、陸叶は今いる場所に気が付くと、慌てた表情を見せる。
海吏は、『話を聞く準備はできてる』と伝わるかなと思い、陸叶の目を見て頷いた。
どうやら、意図は伝わったようだった。
陸叶は、意を決したように口を開く。
「あっ……あのさっ……」
「うん」
どんな話をされてもちゃんと受け止めよう――。
海吏が、この何週間か考え抜いて出した結論だ。
自分に対する文句でも、重い話であっても。
きっと陸叶とは、もっと仲良くなれる――この数週間一緒にダンスをしてきて、海吏はそう確信していた。
「――浅見に、質問していいかな!?」
「お、おう……もちろん」
陸叶の気持ちを聞けるかと思ったので一瞬拍子抜けしたが、受け止めると決めたからには『何でも来い!』だ。
「何で……俺がダンス経験者だって気付いたの?」
質問に合点がいった。
陸叶が経験者であることを『意図的に隠そうとしている』ことに、海吏は気付いていたからだ。
「あー……うん、まぁ……色々あるんだけどさ」
海吏は頭を軽くかき、少しだけ笑うのを我慢しながら言った。
「教えてないのに、ダウンで胸の動き入れてくる初心者はいねーかなって」
海吏もかつては、そうであった。
ダウンで胸を前後させるのは、最初のうちは意識をしないとできないものである。
それが、陸叶は『無意識で出てしまうレベル』で基礎を身につけている人間だというのは明白だった。
「あっ……」
「あとはまぁ、16ビートの刻み方とか、指先とか、使ってない方の手の動きとか……まぁ、挙げればキリないんだけど」
陸叶は真っ赤になった顔を両手で覆いながら俯いた。
隠そうとしていたのに、全然隠しきれてなかった自分への恥ずかしさだろう。
「浅見は凄いな……」
自嘲気味に笑いながら、陸叶はようやく海吏と視線を合わせた。
「……うん。俺、小学校入学くらいからダンスやってる」
「おぉー。俺より先輩じゃん」
陸叶は首を横に振る。
「ダンスは歴じゃないよ。どれだけ『ダンスが好きか』だと思う」
確かにそれは間違ってはいない。
何年やっていても嫌々やっていたら上達しない。
海吏もそうだったが、貪欲に吸収していく子は上達が早いものだ。
しかし、海吏には『陸叶がダンスを好きではない』ようには見えなかった。
陸叶の踊り方は、完全に『ダンスが好きな子』の踊り方だったのだから――。
「間違ってたらごめん。だけど、お前きっとダンス好きだよ」
陸叶の顔が泣き出しそうに歪む。
つられて海吏の胸も締め付けられるような痛みを感じた。
「そんなことない! だって俺は……ダンスをやってる自分をずっと否定してきたんだから……」
海吏は黙って、陸叶の胸のうちに耳を傾けた。
「俺、小学校の頃アイツらと一緒につるんでて――」
「あぁー……」
海吏はその名前を聞いただけで、状況を察した。
陸叶が挙げた名前は、いわゆる『典型的な昔ながらのヤンチャ坊主』という連中だった。
「ダンスやってる」などと言おうものなら、「お前女だったのかよー!」と返されるのは目に見えている。
「そこからずっと言えずにいて……やってることとか……隠さなきゃって……」
「うん」
「始めたキッカケも……姉ちゃんたちに巻き込まれて……」
「うん」
ちゃんと聞いてるよ――その相槌だけうち、陸叶が胸の内をすべて言葉にするのを待つ。
「辞めたいとか……そういうのは、無かったけど……」
「うん」
陸叶の瞳から、涙が零れ落ちた。
「俺……何がしたかったんだろう……浅見にも、全部っ……丸投げして……俺にも、できること、あったかもしれないのに……」
「いいよ、それは」
「俺……おれっ……なにがっ……したいんだろう……」
海吏は、泣きじゃくる背中にそっと手を置いた。
「少なくとも……あんな指先キレイに踊れるヤツが、真剣にダンスやってないとは誰も思わねーよ」
陸叶は涙でぐしゃぐしゃな顔を上げた。
「おれっ……ダンス……好きなのかなぁっ!?」
それを見て、海吏は思わず吹き出しながら「お前が決めていいんだよ」と笑った。
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