第4話 平常心を胸に

すぐさま駆け寄り、丁寧に説明を試みる。

男子生徒は頭がパニック状態らしく、説明が入っていかないようだ。


「ちょっと俺マンツーマンで教えるから、女子たちと東は動画確認したり練習しててもらっていい?」

「了解ー」


海吏は男子生徒に向き直り、「よし、やろうぜ」と気合いを入れた。


「悪ぃ……俺一人のせいで……」


すっかり自信をなくした男子生徒は、元気すらも無くなっている。


「大丈夫だって。今日初日だし、ダウンはちゃんとできてたから心配すんなよ」

「でも……」

「俺だって野球だったらお前みたいにできないし。それに、グループで踊るからには、みんなでいい踊り見せたいじゃん?」

「……おう」


男子生徒は、今度は目を逸らさずに海吏の動きを追っていた。


「……そう! できたじゃん!」

「っしゃ!!!」


男子生徒の顔にも、ようやく笑顔が戻った――。

その日の放課後、海吏はサッと帰り支度を終えると隣のクラスをのぞき込んだ。

目的の人物がいることを確認し、声をかける。


「東、お前んちどっち方面?」

「西門側だけど」

「途中まで一緒に帰んない?」

「あ、うん……いいよ」


二人は連れ立って歩き始めた。


「でさ、社会科見学のときジョーが来ない来ないって先生たちめっちゃ騒いでてさ」

「あったあった! 結局寝坊だったんだよね」

「そう! ジョーんち、学校の隣だから先生がインターホン押しに行って――」


小学校は人数も多く、ほとんど話したことがなかった二人だが、共通の話題は多いので話には事欠かない。

気付けば6年間で交わした会話を遥かに超える量を喋り続け、あっという間に分かれ道となる交差点に差し掛かっていた。


「俺こっちなんだけど、東は?」

「あ、俺は反対側」


海吏は周りに視線を巡らせて、大きく息を吸い込んだ。


「あのさ……ちょっとだけ、いい?」

「え……?」


海吏は、陸叶の目を真っ直ぐ見据える。

――この時はまだ、二人の身長差はそんなになかった。


「東、お前さ……ダンス経験者だよな?」


陸叶の顔から血の気が引いていく。

薄い唇が微かに揺れ、出かけた言葉を飲み込むように喉を鳴らした。

そんな様子を見て、海吏は一瞬ハッとした。

そしてすぐに安心させるような笑みを浮かべる。


「あ、いい、大丈夫! 言いたくないなら言わなくていいから」

「えっ……?」

「問い詰めたくて言ったわけじゃねーし。どっちかって言うと俺側の事情だからさ」

「いやっ、あ……その……」


困惑気味の陸叶の肩をポンポンと叩くと、「じゃ、また明日なー!」と言ってその場から走り去った。


「……っぶねー……マジで」


陸叶が見えなくなるまで走った後、海吏は両手で顔を覆いながら上を向く。


「大丈夫……平常心……」


ざわつく心に言い聞かせるように、何度も繰り返した。

しかし脳裏には、青ざめた陸叶の顔が浮かぶ。

鼓動が大きいのは、走ったからに違いない――きっと、そうだ。


(相手に何かを求め過ぎるのは間違ってるんだから――)


海吏は両手で頬をパチンと叩くと、明るい声で「ただいまー」と言いながら家に入っていった。

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