第3話 風鈴とカップ麺
食料を探す過程は、二人の認識の隔たりを浮き彫りにした。
ミサンが剥がれた金属塗装の破片をギョウの前に差し出した時、ギョウの表情に微かな動揺が走った。
「これは食べられるか?」ミサンが尋ねた。
「これはゴミよ」ギョウは言った。
「ゴミ?」ミサンは夕陽に虹色に光るその金属片をひっくり返した。「俺の世界では、ある種の合金は摂取可能なエネルギー源だ」
「ここでは違う」ギョウはそっとため息をついた。「『スーパー』という言葉は理解できる?」
「つまり、その場所に食料があると?」
「運が良ければ、賞味期限切れでないものも」
ギョウの説明によれば、彼女たちは廃墟となった道路を横断する必要があった。
「ギョウ、スーパーは向こう側だ」
「ここに信号機はある?」
「ある。三本の灯柱が全部倒れてる」
「じゃあ、手を引いて連れて行ってくれない?」
「なぜだ?」
「ここには、私にぶつかってくる“何か”があるの」ギョウの白い瞳は虚空を見つめた。「生き物じゃない、ある種の……ルール。それが発動すると、現れる」
「それか怖いのか?」
「少しは」ギョウは言った。「死ぬのが怖いわけじゃない。痛いのが嫌なの。痛みの感覚は……とても具体的で、好きじゃない」
ミサンが同意する前に、ギョウの手が彼女の手首を探り当てた。
触感が伝わった瞬間、二人ともわずかに動きを止めた。
「あなたの手、冷たい」ギョウが言った。
「お前のもだ」ミサンが応じた。
「あなたの方がずっと冷たい」ギョウの指がわずかに力を込めた。「冬の朝の鉄の手すりを握っているみたい」
歩みを進めたその瞬間、異変が起こった。
クラクションの音――生物的な悲鳴が四方八方から押し寄せた。
ギョウは怖がって後ずさりしたが、ミサンにはただうるさいだけに感じられた。
「静かにできんのか!」彼女は叱りつけた。「この音は俺の鍵穴ひとつひとつを罵倒しているみたいだ!」
そしてそれが現れた。
節足を持ち、死体を背負った「車」が、彼女たちに向かって突進してくる。
「下がれ」ミサンはギョウを背後に押しやり、手を挙げた――拳すら握らず、ただ軽く一振りした。
空気が無形の大槌に圧縮される。
その物体はまるごとひっくり返り、廃墟に叩きつけられ、子犬のような鳴き声をあげて逃げ去った。
「この車」音が完全に消えた後、ギョウは低声で言った。「ルールとしての怪談みたい。でもあなた、それを従わせたの?」
「何の怪談だ?」ミサンは眉をひそめた。「ただの無礼な子犬に過ぎん。さて、先に進めるか?」
「うん」ギョウの手が再び彼女の手首を探り当てた。「……ありがとう」
スーパーマーケットの中は、ある種の柔らかなエネルギー場が、まもなく消えゆく結界のように漂っていた。
「カップ麺を淹れてくれない?」ギョウが頼んだ。
「何だ?どうやって淹れる?麺って何だ?」
「材料を全部持ってきてくれたら、やり方を教えるわ」
「ああ、面倒だ」
続く二十分間、ミサンはギョウの一語一語の指示に従い、この見慣れない任務をこなした。
「赤い包装で、牛の絵が描いてあるやつ……そう、それ」
「給湯機……ランプが赤く点いているはず」
「ペットボトルの水、底に印字された製造年月日を確認して……私には見えないから、読んで」
「フォーク……プラスチックの。そう、金属だと口が火傷するから」
彼女が出来上がったカップ麺の容器を渡すと、ギョウの口元に初めて「微笑み」と呼べるような緩やかな弧が浮かんだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」ミサンは反射的に言い、自分でも少し驚いた。
ギョウは静かに麺をすすり、一口一口を丁寧に噛みしめた。
ミサンは向かい側に座り、突然尋ねた。「あの鍵、一度しか使えないのか?」
ギョウの咀嚼が一瞬止まった。
「私は一本しか持ってない」彼女はゆっくりと言った。「でもあなたには、たくさん穴が空いてる」
「どうして知っている?」
「あなたが動く時、風鈴みたいな音がするよ」ギョウは顔を上げ、白い瞳で彼女を「見つめて」。「誰も教えてくれなかったの?」
「風鈴って何だ?」
「美しい音を出す楽器の一種」ギョウはフォークでカップ麺の縁を軽く叩いた。「チーン……チーン……こんな感じだけど、もっと澄んでいる」
彼女は耳を澄ませ、何かを聴いているかのようだった。
「あなたの一つ一つの穴を、空気が通るたびに、それぞれ違う周波数が生まれる。おでこの音が一番高くて、水晶が軽く触れ合うみたい。胸の音が一番低くて、遠くのお寺の鐘が霧を隔てて聞こえるよう。背中の音が一番密で、夏の雨がトタン屋根に当たるみたい」
彼女は一呼吸置いた。
「今、あなたの右肩の後ろのあの穴、音が少し渋くなってる。油を差す必要のある扉の蝶番みたい」
ミサンは長い間黙っていた。
「そんなことは重要じゃない」彼女は最後に、やや硬い口調で言った。
「わかってる」ギョウはフォークを置いた。「鍵はお母さんが残してくれたの。彼女は、これは一種の『祝福』だって言ってた」
「祝福?」
「うん。この世界にはたくさんの『鍵穴』があるけど、『鍵』は少ない。一本一本の鍵は祝福されていて、自分で開けるべき鍵穴を見つけるんだって」ギョウの声は次第に小さくなった。「彼女はこうも言ってた。もしある日、私の鍵がひとりでに現れたら、それは……」
「それは何だ?」
「それは、私の守護神が来たってこと」ギョウの白い瞳には映るものがないのに、異様に集中していた。「だからあなたが来たの」
「俺は守護神じゃない」ミサンは断固として否定した。「ただの、別の世界から逃げてきた、穴だらけの金属生命体だ」
「構わない」ギョウはまた笑った。その笑顔には、ミサンを不安にさせる確信があった。「でもあなたは現れた。そして私を守ってくれている。それで十分」
黄昏が息をひそめ始めた時、空が囁き始めた――それは音ではなく、神経に直接作用する振動だった。
ミサンは全ての鍵穴が微かに痒くなるのを感じた。
危険が迫っている。
「家に連れて帰って、ミサン」ギョウはもうリュックを背負っていた。
「ああ」
「おんぶして」
「なぜだ?」
「今夜の地面には、触れられないの」ギョウの声は平静だった。「お母さんが教えてくれた――光る地面は、何かを『食べて』しまうって」
ミサンが外を見る。
一匹の多足生物が探るように地面に触れた――じゅっ!白煙が上がり、生物は悲鳴をあげて跳び退いた。脚は既に焦げている。
地面は灰の余燼のような微かな光を放っていた。
「わかった」ミサンはしゃがみ込んだ。
ギョウが彼女の背中にしがみついた。軽く、腕が彼女の首を回る。
耳元に噴きかかる息――温かく、カップ麺の匂いがした。
あまりにも具体的で、脆い生命の証。
彼女たちは深まりゆく暮色の中へ歩き出した。
ようやく互いを見つけた二つの歯車のように、ゆっくりと回り始めて。
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