第4話 いざ、教会へ!
五歳になった僕は、召喚の儀を受けるために父様と馬車に揺られていた。目指すは街の中心にある教会だ。
来年になれば、兄様がかつて通ったように僕も学院に入る事になる。でも、学院では召喚獣の扱いを学ぶ授業があるから、その前に儀式を済ませておく必要があった。
「リュカが入学で、オルフェが卒業か。……時が経つのは早いね」
「うん…」
「学院で友人達が出来てたら、屋敷に連れてきなさい。屋敷を上げて歓迎するよ」
「うん…」
父様は緊張している僕の気持ちを和らげようと、いろいろ話しかけてくれる。でも、胸の奥がどきどきして、うまく返事ができなかった。だけど、父様は無言よりは良いと思ったのか、話題を変えながら話しかけ続けてくれて、その途中で兄様の話になった。
「オルフェも…もう少し…遊んでくれると良いんだけどね…」
「……」
卒業後は父様の仕事を手伝いながら、次期当主としての勉強を始めるらしい。けれど、兄様の名を口にした父様は、どこか複雑で、あまり乗り気ではない様子だった。でも、兄様と仲が良いわけでもない僕は、緊張もあってそれに答える余裕なんてなかった。
そんな話しをしていると、ガタゴト揺れながら走っていた馬車がガタンと止まる。すると、僕よりも先に父様が降りて、僕へと手を差し伸べてくれる。僕はその手を掴み外へ出ると、開けた視界に映った教会を見上げた。
立派な装飾の扉に、壁や柱の細工。冬の日差しを受けたステンドグラスはキラキラと輝き、そこに続く階段は天へと続いているようだった。それは神秘的で綺麗な光景だけど、緊張なのか、それとも冬の冷たい風のせいなのか分からないけれど、自然と身が竦んで、ちょっと怖い。
「リュカ? 大丈夫かい?」
「だ、大丈夫!!」
心配そうな父様に、僕は慌てて返事をするけれど、父様の顔は曇ったままだった。そんな父様と転ばないよう手を繋ぎながら階段を一歩ずつゆっくり登り、扉の前に立つと反対側の手で重たそうな扉を静かに開けた。すると、中は驚くほど静かだった。
「ひとが…あんまりいないね…?」
教会には、僕と同じようにやって来た人がもっと大勢来ていると思っていたのに、あまり人影は見えなかった。僕が小さく呟きながら、問いかけるように父様の事を見上げるけれど、父様は僕ではなく、祭壇がある方を見つめていた。僕も父様の視線の追うように先を見れば、白いローブを纏った人物が歩いてくるのが見えた。
「お待たせしました。先日ご連絡を頂いたレグリウス公爵様で、お間違いございませんか?」
「そうだ」
「お待ちしておりました。では、召喚場へご案内を…」
「待て。先に来ている者がいるのではないか?」
「えっ……いえ、一名おりますが、公爵様をお待たせするわけには……」
「時間を指定した覚えはない。順番を乱すのは好きではない。控室を借りよう」
「……わかりました。こちらへどうぞ」
父様の一言で神官は渋い顔をしながらも、父様が意見を変えるつもりがないと分かったのか、渋々といった様子で、僕達を控室へと案内するために歩き出した。
「では、準備が出来次第、お迎えに上がります」
ただ待っているのが退屈だった僕は、案内し終わった司祭が扉を閉めると、控室のソファに座りながら、隣に座った父様に聞いてみた。
「なんで、さっきことわったの?」
「混乱を招かないよう訪問する事は事前に教会側に伝えていたが、時間を決めてなかったからね。急に来たのに、先の人を抜かすのは良くないだろう?」
「なんで、じかんをきめなかったの?」
「えっと…時間を指定しても、私達がいつ来られるか分からなかったからね。それに、今の季節は、儀式をしに来る者も少ないから、すぐに順番が来ると思うよ」
「ふ~ん」
後になって分かったことだけど、僕が興奮して眠れずに寝坊してもいいように、父様はわざと時間を決めなかったらしい。でも、起こさずに寝かせてくれるなんて、やっぱり父様は甘いと思う。でも、そんな事を知らなかった僕は、少し誤魔化すように言った父様の態度に疑問を抱くことなく、その場で思った疑問を口にした。
「でも、なんですぐよばれるってわかるの?」
「儀式を受けるのは、主に貴族の子どもだからよ。貴族は春か夏生まれが多く、誕生日を迎えると直ぐに儀式を終わらせてしまうから、冬は他の貴族と関わりたくない者や、街の者達しか来ないから少ないんだよ」
「だから、ひとがいなかったんだね」
「普段なら、もう少し協会には人が来ているんだろうけど、教会も気を使ってくれたんだろうね…」
「きをつかう…?」
「貴族が儀式をする時は、表じゃなく裏口を使うことが多いんだよ」
「うらぐち?そんなのあるの?」
「あるけど、私たちは使わないよ」
静かにそう言って笑った父様の顔は、どこか笑っていなかった。
「とうさま……?」
今まで見た事がない父様の表情に不安になって呼ぶと、父様はすぐに優しい笑顔を取り戻した。
「大丈夫だよ、リュカ。気にしなくていい。私たちには関係のないことだからね」
「?」
父様が何の事を言っているのか、僕にはさっぱり分からず首を傾げれば、父様が僕の頭を撫でてくれた。それが嬉しくて、ただ甘えていた僕は、その間に発した父様の小さな呟きに気付くことはなかった。
「……貴族の矜持などくだらない。そんなもので、家族を蔑ろにしてたまるか」
その言葉の意味を、僕が理解するのは、ずっと先のことだった。
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