第12話 M―憧れは理解から最も遠い感情―FEOH



〈もし貴方がなんの罪も無い自殺志願者ならその願いは私が頂きます。もし貴方が罪有る自殺志願者ならその願いは私が頂き、貴方には禊を与えましょう。〉


【M―憧れは理解から最も遠い感情―FEOH】

心理カウンセリング・未知の存在を指す。


登場人物紹介


PN・夕闇(男3X才)

俺だ。●●●●●県に住む。ピクシブで「夕闇」という名で数々の小説とゲームブックを投稿している。ファッションが個性的と言われる(黒のカーゴパンツに浴衣の帯をベルト代わりに使用。赤いポロシャツに黒の3角タイ(金色のアクセサリーで留めている)を着用。羽織着物をジャケットのように着ている。灰色のキャスケット帽を愛用している。長い黒髪をポニーテールにしている。俺自信も蒐集癖があり、ネット通販で様々なサイコロを集めたり、老舗ブランドのフィギュアを集めたりしている。口調はクレバーで丁寧語。

一人称はどんな時も「俺」

しばしば女子校生に間違われる。


PN・朝霧(女17才)

女子高生。何にでも興味を持つ好奇心と行動力、ずば抜けたスタイルの良さと女子力を持つ。子供っぽさと大人の落ち着いたクールさを併せ持つ。スケートボードで移動する事もある。アルビノで毛は白く目は赤い。青色のキュロット、黒色のシャツ、緑色の羽織、赤色の帽子を着ている。


PN・マクロベータ(男3X才)

俺と仲の良い派出所勤務の警察官。

熱く優しい真面目な警察官。


PN・オルカ(男27才)

まだまだ若い警察官。


PN・タコ(男63才)

昭和堅気の警察官。


PN・アワビ(女24才)

正義感と衝動溢れる若き婦警。チビでアホで子供っぽい上に猫っぽい。


プロローグ

「良い機会だ。一つ憶えておくといい。憧れは理解から最も遠い感情だよ。」


  『BLEACH』20巻170話 藍染惣右介の台詞


ストーリー

昨日、俺と朝霧はマクロベータさんから相談したい事があると言われた。深夜だった為今日の朝にマクロベータさんが勤める派出所へ来た。

「おはよう〜。マクロベータさん。来たヨ〜〜〜。(夕闇)」

「お…おはようございます。(朝霧)」

すると派出所の奥から女性警官の制服を着た小さい女性が俺のもとへ駆けてくる。

「あぁ〜♪夕闇さんだニャー♪」

女性は俺の懐に頭から勢い良く飛び込む。

ズドンッ

「ゴブゥッ!!お………おはよう………。アワビちゃん。(夕闇)」

「おはようニャ♪ニャ?この娘誰ニャ?(アワビ)」

アワビちゃんは朝霧を指差してきく。

「あぁ、この娘は朝霧。俺と一緒に生活している。(夕闇)」

「はじめまして♪私、朝霧。よろしくネ?アワビちゃん♪(朝霧)」

「ニャーーー♪私はPN・アワビニャ♪よろしくニャ♪(アワビ)」

「ちなみにアワビちゃんは朝霧より7才年上のお姉さん警官だゾ。(夕闇)」

朝霧はギョッとして

「えぇ!?私なんて言い方を!?ごめんなさい。アワビさん。(朝霧)」

アワビちゃんは笑いながら

「ニャーーー♪別に良いニャよ〜〜〜。コレからもよろしくニャーーー♪(アワビ)」

コツッコツッコツッコツッ

派出所の奥から人が来る。若い男性警官と老齢の男性警官が来た。

「タコさん、オルカさん、おはようございます。(夕闇)」

若い男性警官は爽やかな笑顔で

「おはようございます。夕闇さん。(オルカ)」

老齢の男性警官は無愛想な表情で

「おぅ、おはようさん。(タコ)」

「ねぇ、夕闇クン、この人達知ってるの?(朝霧)」

「あぁ、紹介するヨ。タコさん、オルカさん、こちら一緒に暮らしている朝霧です。(夕闇)」

「朝霧です。よろしくお願いします。(朝霧)」

「ソレで朝霧、コチラはPN・タコさん。ベテランの刑事さんだ。そしてコチラはPN・オルカさん。(夕闇)」

オルカさんは爽やかな笑顔で朝霧に

「朝霧さんだね?僕はPN・オルカ。よろしく。(オルカ)」

タコさんは朝霧に近付きながら

「俺はPN・タコだ。話はマクロベータから聞いている。おい、夕闇。しばらく朝霧借りてくぞ。(タコ)」

「え?良いですケド、俺マクロベータさんからそんな事聞いてないナ。どうしてです?(夕闇)」

「その理由は俺が話そう。おはよう。夕闇、朝霧クン。(マクロベータ)」

「や♪マクロベータさん。おはよう。ソレでどういう事さ?(夕闇)」

「昨日派出所に戻ってすぐにタコさんとオルカに話したんだ。〈命の骸〉の事を。ソレで今日タコさんとオルカには、いつもオマエと行動を共にする朝霧クンを連れて〈命の骸〉の所へ行ってもらいたいんだ。頼めるか?朝霧クン?なんなら報酬として恐竜でも怪獣でもプレゼントするし、現金が良いならソレも呑もう。(マクロベータ)」

「私は構いませんけど、何しに行くんです?(朝霧)」

マクロベータさんは自分のデスクの引き出しをあさりながら

「〈命の骸〉の周りの石板、アレ花咲かせたカウンターで12枚全部光ると凄い奴が現れるんだろ?昨日の時点で石板は11枚光ってる。だから朝霧クンにはタコさんとオルカと共に俺達が合流するまで誰も近づかないようにしていて欲しいんだ。もし石板の光が消えてたらその凄い奴はもう出現してるって事だよな?(マクロベータ)」

「まぁ、確かに石板が全部光ったら出現して再びいなくなるヨ。その時はまた花咲かせなきゃだけど。(夕闇)」

「ソレも考慮してホラ、12種類花の種を用意してある。朝霧クン、この花の種持っててくれるか?(マクロベータ)」

マクロベータさんは花の種が入った袋を朝霧に差し出す。朝霧は袋を受け取り

「ハイ。わかりました。頑張ります。(朝霧)」

「ありがとう。ではタコさん、オルカ。お願いします。(マクロベータ)」

「ハイ!わかりました!(オルカ)」

タコさんは朝霧に板ガムを差し出し

「まぁ、バリケード張って睨み効かせときゃ良いんだ。そうきばんな。よし、行くぞ。俺が運転する。(タコ)」

「えぇ、そんな僕がしますよ!(オルカ)」

「オルカァ、オマエまだ年端もいかない嬢ちゃん死なせたらどう責任とるつもりだ!?ゴルァ!!(タコ)」

「え!?オルカさんの運転そんななんですか!?(朝霧)」

「オルカァ、この可愛いツラ傷つけるつもりか?だから俺が運転する。わかったか!?(タコ)」

「ハ〜イ。ソレじゃ朝霧さん、僕と仲良く後部座席で………(オルカ)」

「馬鹿野郎!!オマエは1人で後部座席だ!嬢ちゃんは助手席に座ってもらう。良いか?嬢ちゃん?(タコ)」

「は…はい。(朝霧)」

「気をつけてネ。行ってらっしゃい。(夕闇)」

「行ってらっしゃいニャーーー♪(アワビ)」

朝霧を乗せたパトカーが昨日の山に向かって走り出す。

「そして、俺はどうするの?(夕闇)」

「オマエとアワビは俺と一緒に行動だ。オマエ等護送車に乗れ。(マクロベータ)」

俺はマクロベータさんの言う通り護送車の後部座席に乗る。アワビも後部座席に乗ろうとしたがマクロベータさんに襟首を掴まれ助手席に放り込まれる。扱いがネコだ。

「アワビ、オマエは助手席だ!(マクロベータ)」

「ニャーーーーー!!(アワビ)」

そのニャーはどういう感情のニャーなんだろう。

「ソレで何処行くのさ?(夕闇)」

「△△△精神病院だ。(マクロベータ)」

俺達が乗る護送車は走り出した。


走る護送車の車窓からいつもの町が見える。

やがて護送車は△△△精神病院に着いた。

「着いたぞー。降りろ。(マクロベータ)」

「ハーイ。(夕闇)」

「ニャー。(アワビ)」

俺とアワビちゃんはマクロベータさんの後に続き△△△精神病院の中を進んでいく。そして辿り着いたのは独居房のような入院室だ。というか独居房である。

「夕闇、見てくれ。(マクロベータ)」

「うん。(夕闇)」

俺は独居房の格子のついた窓から中を見た。

独居房の中は、いつか見た刑務所のドキュメントに出て来る部屋と同じだった。その独居房の中に成人女性が居る。女性は痩せこけていた。女性は俺の視線に気が付き俺の方へ顔を向ける。可愛いが目が完全に虚ろだ。その目と目があった。怖い。

「あの人がどうしたの?(夕闇)」

「場所、変えよう。ついて来い。(マクロベータ)」


俺達はマクロベータさんの後に続き歩いて、玄関のホールへ行く。マクロベータさんが自販機で缶コーヒーを3本購入する。マクロベータさんは微糖。俺とアワビちゃんは殆ど牛乳と砂糖の激甘珈琲だ。

「ニャーーー♪珈琲ニャーーー♪ありがとニャーーー♪(アワビ)」

「ありがとう。でもコレ、珈琲?(夕闇)」

珈琲が何処にも無い。色が着いた程度の激甘牛乳だ。

「ついアワビと同じのにしてしまった。(マクロベータ)」

「ソレは良いケド、あの人はどうしたのさ?何か今にも死にそうって言うか、別のナニカになりそうって言うかさ。あの独居房も納得出来るレベルでヤバいでしょ?明らかに。 普通に怖かったケド。(夕闇)」

マクロベータさんは珈琲を飲みきりゴミ箱へ捨てると一息ついて話し始める。

「彼女は西園小百合。今年で24才だ。(マクロベータ)」

「ニャーーー。アワビと同い年だニャーーー。(アワビ)」

俺はアワビちゃんの頭を撫でる。

「そうだネ。ソレで西園さんに何があったの?(夕闇)」

「夕闇、オマエは6年前、この町で起きた女子高生殺人事件を覚えているか?(夕闇マクロベータ)」

俺は気持ちが暗くなる。たまらずアワビちゃんを抱きしめる。

「ニャニャ!?(アワビ)」

「………あぁ。覚えてるヨ。酷い事件だったよな。あまりの凄惨さに全国的にニュースで報じられ、新聞にも毎日大々的に事件の記事が載っていた。


6年前、この町で1人の女子高生が悲劇に遭う。

山岸和子、当時18才。卒業間近の彼女は突如悪漢達に攫われ、暴行を受け、所持金を全て取られ、衣服や下着等全て違法なアダルトショップに売られ、およそ一ヶ月間、ろくに食事を与えられず、人権も尊厳も蔑ろにされ暴行され続けた挙句、悪漢達に飽きられて殺害され山奥の森林にゴミのように埋められ遺棄された。山の管理人が飼犬の散歩を兼ねて見廻りをしていると飼犬が死臭を嗅ぎ取り地面を掘ると全身真っ赤な全裸の女性の死体を発見した事で事件は発覚。悪漢達はすぐに全員逮捕された。悪漢達は全員高校3年生。あまりの悪質さと残忍性、その他諸々により彼等は〈少年法〉すら適用されず翌年全員が死刑執行された。


「その事件と西園さんとどういう関係があったの?(夕闇)」

「幼少の頃からの幼馴染みだったそうだ。周りから本当の姉妹と思われるくらいな。いつも一緒だったそうだ。髪飾りなんかお揃いのモノを身に付けてたらしい。(マクロベータ)」

「辛いな………。(夕闇)」

マクロベータさんは溜め息をつき

「実は山岸さんが拉致された日、西園さんは当番仕事があったんだが、その日西園さんは急遽外せない用事が出来てな早退したんだ。そして西園さんがするハズの当番仕事を山岸さんが代わりにする事になったんだが、その帰りに事件に遭ったんだ。しかもどういう運命か山岸さんの髪飾りが拉致された現場に残されていてな、西園さんはソレを見つけて山岸さんが行方不明になった事がわかって、西園家も山岸家も毎日山岸さんを探してたんだ。しかし、山岸さんは例の事件で帰らぬ人になっててな。山岸さんの遺体を発見した山の管理人は最初〈怪物の死体〉だと認識して警察へ通報する程凄惨な死に様でよ、その亡骸を見た両家は絶望のドン底に叩き落されたんだが………(マクロベータ)」

「その後何かあったの?(夕闇)」

「被害者の母親が感情の余りに西園さんを激しく罵倒したんだ。「お前が娘に当番を任せなければこんな事にはならなかった!!お前が殺したも当然だ!!娘を返せ!!この汚い人殺しめ!!生き汚いアバズレめ!!」ってな。西園さん自身も「自分が当番をしていればこんな事にはならなかった。」って自責の念に囚われていたんだ。ずっと一緒だった幼馴染みが惨たらしく惨殺されて、自責の念に押し潰されそうになってる所に被害者の母親から激しく罵倒されて。事件が起きるまで被害者の母親と西園さんも仲良かっんだ。ソレだけに留まらず被害者の母親は毎日西園さんの家に石やゴミを投げつけたり罵詈雑言を書いた紙を西園家の塀に張りまくったり、西園さんに毎日「人殺し」「人殺しの親」「人殺しの一族」「娘を殺して自分は無事進路歩めて良い身分だな」とか聴くに堪えない罵声を吐き散らしてな。とうとう警察沙汰になって被害者の母親は逮捕されたんだが、西園さんの心は完全に取り返しのつかない状況になってしまってな、毎日自殺を繰り返してな。家族はたまらずこの△△△精神病院へ彼女を入院させたんだ。彼女の首や手首、腹な、無数の傷跡でいっぱいなんだ。もうズタズタ。最初彼女は普通の入院室に入院してたんだがあらゆる手段で自殺を図るわ、号泣するわでな。病院側もやむなくあの入院室に彼女を入院させる事にしたんだ。(マクロベータ)」

俺は複雑な気持ちになっていた。

「西園さん、何も悪くないだろ?なんで………?(夕闇)」

「ちなみに山岸家は鬱状態の被害者の母親を連れて遠くへ引っ越したそうだ。父親は西園さんは何も悪く無い事を知っているが、妻を見捨てる事は出来ない。このままだと両家の為にはならないって事でな。西園家は西園家で被害者の母親を恨むに恨めないようだ。全くコッチも辛いモンだよ。(マクロベータ)」

悪いのは死刑に処された悪漢共なのに、なんでこんな仕打ちを両家が受けなければいけないのだろう。

「西園さん可哀想だニャーーー!!(アワビ)」

アワビちゃんが泣き出した。

「朝霧がココにいなくて良かったヨ………。(夕闇)」

「だから朝霧クンをアッチへ行ってもらったんだ。良い判断だろ?(マクロベータ)」

突如、上の階で騒動が起きたのか凄い音がする。

人の絶叫も聴こえる。

「まさか!!(マクロベータ)」

マクロベータさんが西園さんの入院室へ走り出す。

「俺達も行こう!!(夕闇)」

「ニャー!!(アワビ)」


駆け付けると妙齢の男性2人と妙齢の女性1人がいた。

1人の男性は扉にすがりついてひたすら謝罪を繰り返している。女性は座り込んでいる。もう1人の男性は女性に寄り添っている。3人共皆泣いていた。

そして扉の向こう側から女性の慟哭が響く。

「マクロベータさん!!あの人達って!?(夕闇)」

マクロベータさんは苦虫を噛み潰したような顔で

「西園小百合さんの御両親と、山岸さんの父親だ。どうかしましたか!?(マクロベータ)」

マクロベータさんの声で男性が反応して立ち上がる。

「刑事さん!!娘が!!娘がぁ!!助けて下さいぃ!!(西園父)」

扉を見ると、扉が凄い振動している。そして扉の向こう側から女性の慟哭が響く。さながら地獄だ。女性の慟哭はもはや言葉にもなっていない。ただわかるのは悲痛の叫びという事だけ。俺達の後から病院スタッフさん達が医療器具や薬を持って駆け付け

「皆さん、下っていて下さい。後は我々が!」

と言ってスタッフさん達は慎重に入院室に入っていく。

しばらくすると入院室は静かになる。病院スタッフさん達が入院室から出て来る。西園さんのお父さんがスタッフに

「娘は!?娘はどうなりましたか!?(西園父)」

「娘さんはまた錯乱状態になりひたすら壁に頭を打ち付けていました。鎮静剤を使い今は静かに眠っています。御安心を。」

またって言ってたな。マクロベータさんがスタッフの1人(老齢の男性)に声をかける。

「田所さん。良いでしょうか?(マクロベータ)」

「マクロベータさん、わかりました。皆後は私に任せて持ち場に戻って!(田所)」

スタッフさん達は次々と去って行く。

「皆さん、少しよろしいでしょうか?(マクロベータ)」


俺達はマクロベータさんについていき再び玄関のホールへ来た。

「まずは皆さん、今日は西園小百合さんを心理カウンセリングに有効とされる場所へ連れていきたいと思います。良いでしょうか?(マクロベータ)」

「そんな………。どこも駄目だったのに………(西園母)」

「車は用意してあります。田所さん。西園小百合さんをお願い出来ますか?(マクロベータ)」

「わかりました。少々お時間を………。(田所)」

そう言って田所さんは携帯で話をしながら西園さんの入院室へ向かう。

「えっと………。山岸さん、お久しぶりです。奥さんは大丈夫ですか?(マクロベータ)」

「お久しぶりです。実は今日自首しに来まして、最後に西園さんの様子を見に来ました。(山岸)」

「自首とは?(マクロベータ)」

「………妻を………殺しました………。段々………怪物に……………なっていく…妻を………見るのが………辛くて………少しでも………愛した妻で………あるうち………に………。(山岸)」

山岸さんは泣き崩れる。

「わかりました。山岸さん、では今は我々に協力してくれますか?(マクロベータ)」

「はい………。(山岸)」

何の罪も無い人達が泣いている。今、俺の前にその悪漢共がいたら殴ってるだろう。

「西園小百合さんを連れてきました。(田所)」

田所さんが西園さんを連れてきた。西園小百合さんは全身を拘束され、目隠しと猿轡をされていた。田所さんは西園さんの両親に

「少しの辛抱です。おわかりください。(田所)」

西園夫婦はただ黙って承諾する。

俺はスマホで朝霧に電話をする。

「朝霧?そっちの様子はどう?(夕闇)」

〚夕闇クン?コッチは昨日のままだよ。誰も来ていない。(朝霧)〛

「そっか。そろそろソッチへ行くから。頑張って!(夕闇)」

〚わかった!(朝霧)〛

プッ

俺は通話を終えて

「マクロベータさん!行くなら今だヨ!急ごう!(夕闇)」

「わかった。では皆さん、急ぎ護送車に乗ってください!(マクロベータ)」

俺達は護送車に乗る。今回は俺が助手席に乗る。

護送車は〈命の骸〉がいる山へ向かって走り出す。


ー〈命の骸〉がいる山ー

〈命の骸〉の近くに朝霧とタコさん、オルカさんがいた。

朝霧は通話を終え、スマホを鞄にしまう。

タコさんがタバコを吸いながら

「嬢ちゃん、誰からだ?(タコ)」

「夕闇クンです。今から皆が来るそうです。(朝霧)」

「おぅ、そうか。にしても、本当に光ってやがるな、あのドクロと石板。(タコ)」

「そして、不思議と心地良いですね。(オルカ)」

「夕闇クンがいうには一応妖怪の1種と考えて良いみたいです。(朝霧)」

タコさんは深くタバコを吸い

「誰がどう見ても妖怪の1種だろ。しかも善良な奴だ。(タコ)」

「ですね♪(朝霧)」


しばらくすると朝霧達前に護送車が現れる。

「オルカァ!バリケードを取っ払え!!(タコ)」

「はい!(オルカ)」

タコさんとオルカさんが急いでバリケードを片付ける。マクロベータさんが運転する護送車が朝霧達の近くで停まった。

護送車から沢山の人が降りてくる。

その中に朝霧が会いたがっていた人がいた。

「夕闇クン!!(朝霧)」

時刻は夜の7時である。


ーーーーーーーーー


夜7時。俺達は朝霧達のもとへ、〈命の骸〉がある山の頂上へ来た。皆が護送車から降りていく。

「俺達も行くぞ。(マクロベータ)」

「うん。そうだネ。(夕闇)」

俺達は護送車から降りた。そして声をかけられる。聞きたかった声。

「夕闇クン!!(朝霧)」

「朝霧………。おつかれ。(夕闇)」

「うん♪(朝霧)」

「皆!コッチです!来てください。(マクロベータ)」

俺達は〈命の骸〉のもとへ行く。

「何だ?このドクロは………?(西園父)」

「でも………心地良い………。(西園母)」

「もっとはやく、妻に見せれたら………(山岸)」

「マクロベータさん、夕闇さん、このドクロでいったいナニを!?(田所)」

俺は朝霧から花の種の袋を受け取る。受け取った花はユリ。

「皆さん、少し、あと少しです。(夕闇)」

俺は皆にそう言うと〈命の骸〉に素早く種を入れる。すると〈命の骸〉は一瞬光を強め、入れた種がたちまち育ち立派に花を咲かせる。青い光を纏って。

「す…すごい。ソレにより一層心が癒される気がする。西園さん、どうですか?………あ………(田所)」

西園小百合さんの瞳はまだ虚ろなままだ。何も感じない人形のようである。

「小百合……………(西園母)」

「そう言えば娘も小百合さんもこの花好きだったな………(山岸)」

やがて、ユリは青い光の粒子となって消えていく。

「神秘の力をもってしても………小百合は……………(西園父)」

落胆する関係者達。小百合さんはまだマネキンのようになっている。

しかし、〈命の骸〉の周りにある12枚の石板の最後の1枚が青く光る。

「来る………。来るヨ!本命が!!来る!!(夕闇)」

12枚の石板と〈命の骸〉の光が更に強くなる。周囲を青く光で照らしてゆく。

そして、〈命の骸〉の上で青い光球が現れる。

青い光球は頭蓋骨に姿を変え、次に頭蓋骨の中から鉄製の棒が四方に貫き変形しさながら頭蓋骨を中心に卍字を書くように延びる。卍字を成した頃頭蓋骨の眉間に日本刀が深々と突き刺さる。

〈憧れは理解から最も遠い感情〉だ!

皆が驚く中、アワビちゃんが

「ニャーーー♪ミニホネ恐竜だニャーーー♪(アワビ)」

小百合さんを除く数名がずっこけた。

「アワビちゃん。ミニホネ恐竜じゃないから。少し静かにしてて、ネ?(夕闇)」

「わかったニャ!(アワビ)」

青い光を纏い宙に浮かぶ〈憧れは理解から最も遠い感情〉は静かにある人物を見ている。小百合さんだ。顎をカチカチ静かに鳴らしている。

「な………何よ………アレ………?(西園母)」

その場にいる全員が驚く中、小百合さんが一歩また一歩と〈憧れは理解から最も遠い感情〉のもとへ歩み寄る。

「田所さん、小百合さんの拘束を全て外して。(夕闇)」

「は…………はい。(田所)」

田所さんは山岸さんと協力して手際良く小百合さんの拘束を解く。自由の身となった小百合さんはフラフラと〈憧れは理解から最も遠い感情〉のもとへ歩み寄る。俺は小百合さんに

「小百合さん。君の心の、君がずっと感じてた悲しみとかを全部あのドクロに話してごらん?(夕闇)」

あの異様な存在の出現に小百合さんの表情に少し困惑が見られる。まぁ、あんなの見たら大概の人は困惑するだろう。

小百合さんはフラフラと〈憧れは理解から最も遠い感情〉の前へ歩み、そして礼拝堂で祈るかのように〈憧れは理解から最も遠い感情〉に祈りを捧げる。あの祈りはコレまで彼女が受けた心傷や自身への自己否定、そして自殺願望を告白しているのだろう。小百合さんが祈りを捧げてから数分後、〈憧れは理解から最も遠い感情〉の前に赤黒いエネルギー体のような光球が現れる。その光球は小百合さんの胸から湧き出て〈憧れは理解から最も遠い感情〉の前に集まる。やがて集まり収まると〈憧れは理解から最も遠い感情〉は明確に咀嚼を始める。

カツッカツッカツッカツッカツッカツッ

と顎がぶつかる音が静かに響く。と同時に小百合さんがだんだん青い光に包まれてゆき、赤黒いエネルギー体の大きな球はどんどん小さくなっていく。やがて赤黒いエネルギー体が消え去ると〈憧れは理解から最も遠い感情〉の目や鼻の穴や口から白い光がほとばしる。

強烈な光で俺達は目が眩み見えなくなる。やがて、光が収まると〈憧れは理解から最も遠い感情〉は消えていた。そして小百合さんはその場でただただ静かに泣いていた。小百合さんは声を発さずにただただ目から大粒の涙を流していた。小百合さんが泣き止むと同時に朝日が昇り俺達を暖かく照らした。朝日を背に小百合さんが俺達に振り返る。その顔は「虚ろな目をした自殺志願者」の顔では無く、永い眠りから目を覚ましたような穏やかな表情であった。

「小百合さん。気分はどうかな?(夕闇)」

小百合さんは静かに答える。

「心が救われた、なんだかとても晴れやかな気分です。(小百合)」

小百合さんの両親は小百合さんに抱きつき涙を流した。

6年の時を超えて、小百合さんは救われたのだ。


エピローグ

アレから3週間後、派出所に小百合さんから手紙が届く。今は前向きに社会復帰活動に勤しんでいると云う。

「ソレと山岸さんは刑務所内での真面目な生活勤務態度を高く評価されて模範囚として頑張っているそうだ。(マクロベータ)」

「皆、ようやく救われたんですね。良かった………。ね?夕闇クン♪(朝霧)」

「コレでもし小百合さんが〈憧れは理解から最も遠い感情〉に会う前に死んでいたら絶対に救われない魂として彷徨ってたんだろうな。(夕闇)」

俺の考察を聞いて朝霧もマクロベータさんもハッとする。

「会えて良かったね。小百合さん、〈憧れは理解から最も遠い感情〉に会えて。(朝霧)」

「夕闇、あんな怪異もいるんだな。(マクロベータ)」

「色々いるよ。あんな風に優しかったり、逆に災害みたいに恐ろしい奴もいる。本当に色んな怪異が。(夕闇)」

「今回はオマエのおかげで沢山の人が救われた。ありがとうな。(マクロベータ)」

「俺は何もしてないヨ。(夕闇)」


今日も〈命の骸〉は花を咲かせているのだろうか。

俺達の日常は続く。

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