第3話
大地には葉脈の様に廃墟の壁に張り付く血管と、骨で出来た樹木が生え揃う。
天空は汚染により黒く変色し、赤色の黄昏の光が大地に降り注いでいた。
一休みをするべく、廃墟の中へと入り込んだ無貌は、腰に携えた『薪の枝刃』を地面に突き刺す。
消耗品である『薪の枝刃』は切っ先を深く突き刺すと共に燃え盛るのだ。
『
『……』
錆憑く大剣は何も発しない。
鞘に収納する事で、意識が外界とは閉ざされているのだ。
一度抜剣をすれば、錆憑く大剣は意識を取り戻す。
だが、呪いによる殺意を撒き散らす彼女は、嫌な記憶しか蘇る事が無い為、無暗に抜剣する事はしなかった。
無貌には、同行者がいる。
今回の旅路では自国の脅威となる不死者を討伐する事が無貌の使命であった。
「……」
ふらりと、廃墟の中へと入り込む人影に顔を向ける無貌。
彼の視線の中には、黒色の装束に身を包む女性が居た。
彼女は敵では無く、むしろ味方であり、彼は言葉を発しないが故に名を口にする事は無いが、彼女の名前は、『黒縫』と呼ばれる不死者であった。
物質製を持つ闇を生み出す事が出来る彼女は、闇を修道服の様に全身を覆っている。
下手な甲冑よりも頑丈であり、重量が無い為に、最適な防護服とも言えるだろう。
「無貌様、周囲の散策を完了致しました……」
静かに声を漏らす黒縫は人前で顔を見せる事は無かった。
その顔にも黒子の様に顔面を黒いヴェールで覆い、一切の素性を晒す真似はしない。
黒縫が無貌の近くによると、その場に座り込んだ。
足を崩して、焚火を見ながら静かに黒縫は自らの手首に向けて、闇で作ったナイフを押し当てる。
「お食事にしましょう」
そう告げると共に、黒縫は自らの手首をナイフで切った。
赤色の血液が手首から滴り落ちると、無貌は頭部に嵌めるメイルを脱ぎ捨て顔を晒す。
口元は、頬が剥げて、唇が剥けていた。
鼻は無く、瞼は火傷によって爛れて、視界が真面に反応している様子は無かった。
これが無貌である、不死者として生きる彼は頭部に損傷を覆ったと同時に呪いを授かった。
顔が無いと言う罪咎、その代わりに彼は常軌を逸した知覚能力を得る事が出来る様になったが、多くの者から見ればのっぺらぼうでしかない。
だが、この世界では既に容姿など意味を持たず、人のカタチをしているだけでも十分に魅力的である。
彼女の手首から滴る血液を、無貌は口を開いて舌を這わせる。
黒縫の血液は鉄の味であり、口の中に広がると確かな満腹感を得た。
じゅる、ぢゅるる、と、音を鳴らしながら黒縫の肉体から溢れる生命の雫を飲み干す無貌。
その音に耳を傾ける黒縫はヴェールの奥から微かに声を漏らした。
「ん、……ぁん ……は、ァ……」
舌先の感触に、傷口から浸食する無貌の唾液。
甘い声を漏らすと共に、無貌が口を離した。
彼女の手首の傷は、既に膜が出来て血が止まる。
不死者の再生速度は尋常では無く、傷は塞がりつつあった。
無貌は腹を満たした事で、ゆっくりと籠手を剥いだ。
沢山の切創の傷痕を遺す無貌の腕に、刃物を使い傷をつけようとした最中。
「私の、お食事は……此方で十分です」
そう告げると共に、無貌の頬に両手を添える黒縫。
ヴェールを解くと、闇と共に消え去った。
彼女の湿気で潤った唇が、無貌の罅割れた唇に近付くと、細く長い舌先を伸ばして無貌の咥内を舐め取る。
「ぢゅる……ぢゅちゅっ……」
音を鳴らしながら、咥内の唾液を貪る黒縫は、湿度の高い吐息を漏らしながら無貌の体液を食事として腹を満たし始める。
「無貌様……ん、ふぁ……」
片手で無貌の手を取り、闇の衣に当てさせる。
闇は彼の手を許容し、彼が触れる部分だけが解けていくと、生の肉体に触れながら、彼女の冷たい肉体が肌から伝わって来る。
「はぁ……ぁん……無貌様、どうか、卑しい豚に、お食事を」
舌を伸ばしながら、ゆっくりと無貌の下腹部に手を伸ばす。
……黒縫は食事と共に性欲を満たす事が多い。
同胞に対して、この様な一面はあまり見せる事は無いが。
心から陶酔した者に対しては、娯楽を貪る様に愛を液として求めた。
不死者が蔓延る地獄の世界での娯楽は淫蕩に浸る事しかない。 三流木青二斎無一門 @itisyou
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