第2話
骸の巨人である。
崩壊した廃墟の天辺を覗き込む事が出来る程に巨躯であり、その腕一つで無数の不死者の肉片が張り付く。
大食漢である不死者が、飢えに耐え兼ねて他の不死者を捕食し続けたが故の姿であり、暴食の名を冠する罪咎を保有する者が多かった。
彼は美食家でもあり、滅多な事では不死者を喰らわないが、趣味趣向に通じる不死者が現れた時にその顎から腐敗した牙を剥き出す。
『ぁぁあああぁぁ』
腕部や胸部には不死者の顔面が骸の巨人の一部として声を荒げていた。
他者と融合した不死者は意識が混同し、精神が壊れて真面に働く事は無い。
なので、早々に骸の巨人を討伐する事こそ、不死者達にとっての安寧に繋がるのだ。
『無貌、殺さないと、あれを、殺して、殺してッ』
錆憑く大剣から漏れる声。
骸の巨人に向けて、無貌は大剣を構えると共に剣身から溢れる赤と黒の瘴気を纏め上げ大きく振るう。
殺意を宿す死衝の斬撃が、骸の巨人の脚部を切断した。
その場に崩れ、膝を突く骸の巨人は、大きく手を広げて無貌を捕えようとする。
鈍足な足とは裏腹に、その腕部の速度は凄まじく早い。
捕らわれれば一瞬で握り潰され口の中へと放り込まれるだろう。
殺意を滾らせる無貌は再度、大剣を振るい骸の巨人の腕を切り裂いた。
『うううぼぁああああああッ』
骸の巨人は声を荒げながら痛みを発した。
死衝の斬撃を受けた者は傷の治りが一気に遅くなる。
憎しみと殺意が高ければ高い程に、傷の治癒が出来なくなるのだ。
それでも尚、骸の巨人はもう片方の腕を振り上げた。
彼の欲望はあくまでも喰らう事、極上の餌を前にすれば、例え肉体が砕けたとしても、顎が動く限り捕食を行い続ける。
そして、骸の巨人に対する捕捉の手に向けて錆憑く大剣を大きく振り上げた時。
無貌は動きを止めた、攻撃する意志を止めて、ゆっくりと大剣を背中の鞘に納める。
『ッ、何をしているのですか、無貌、殺し、殺さないとッーーーッ』
殺意の呪いが途切れると共に、錆憑く大剣の意思が途絶えた。
骸の巨人が、無貌に手を向けていた最中、その背後に立ち尽くす黒い影が見えた。
掌に集中される無数の闇が形成されると、一振りの大鎌と化して骸の巨人の頭部を切断する。
首元に集中される神経が切断された事で、骸の巨人は活動を停止し、その頭部はごろり、と地面に転がった。
「……無貌様」
黒い影は、女性の声だった。
その声に反応を示す無貌は、彼女の姿を見た。
修道服、シスターの様な恰好をした彼女は、この近隣に棲む居住区の一員であった。
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