第15話 朝の森を駆け抜けろ

 東の空が明るくなってきたのと同時におれたちは行動を開始した。

 東の空は朝だが、西の空はまだ夜だ。

 夜空の濃いブルーが少しずつ減っていき、朝のあわいブルーへと変わっていく。

 朝ではなく、夜でもない。

 狭間はざまの時をおれたちは小走こばしりで駆けていく。


 途中、路上をフラフラお散歩しているゾンビたちにも出くわしたが芝浦が一瞬で退治してくれた。

 日本刀で横一閃。相手にまったく何もさせず首とどうを切り離してしまう。

 こりゃええ。

 想像以上にすげえぞこのオッサン。


「ギリギリまで銃は使うな。敵に気づかれる」

「りょ、了解」「はい……」


 おれと紫織は命令にしたがうしかない。

 銃声で敵が目覚めてしまったら奇襲をかけた意味がなくなってしまうもんな。


「こんなことならボウガンとか持ってくるんだったなあ……」

 

 ちょっとしたおれのつぶやきに、芝浦が顔をしかめる。

『そんなのがあるなら持って来いよ!』

 と言いたげだ。

 失敗だったかなー。

 実は基地の武器庫にあったんだよ、ボウガンっていうのかクロスボウっていうのか、そんな弓矢と銃が合体したような武器が。

 銃のほうが強いに決まってるじゃねーかと決めつけていたおれは、一度もためすことなく武器庫に放置している。

 あれだったら銃声がしないのでこんな隠密おんみつ作戦にはピッタリだっただろう。

 ちょっとくらいためしておくべきだったなー。失敗した。


 山に入るころには、完全な夜明けとなった。

 まぶしい朝日が森林を照らし、木漏こもが地面をいろどる。

 こんな状況じゃなけりゃ優雅な早朝ピクニックを楽しめたのにな。

 ひたいをつたうあせをぬぐいながら、おれたちは視線を上にむけた。

 頂上付近に建つ近代的な建物の姿がみえた。

 目的地の展望台てんぼうだいだ。


「思ったより、早かったですね、フウーッ」


 軽く息を切らせながら紫織がそう言う。


「ほんのちっぽけな山だからよ。だがこっからが本番だぜ」


 芝浦がアゴをしゃくって前方をしめす。

 そこには十体ほどのゾンビ軍団が群れていた。


「かくれんぼはここまでだ。やってくれご両人りょうにん

「よっしゃあ!」


 おれは登山の邪魔でしかなかった軽機関銃をゾンビ軍団にむける。

 盛大な銃声音が山にこだました。

 さあここからはリアルタイムアタックだ!

 ボスステージまでダッシュで駆け抜けるぜ!



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 タタタタタタタッ!!

 タン! タン! タン!


 おれと紫織のはなった銃声が静かな早朝にこだまする。

 それでゾンビの群れのうち中央にいたやつらは全滅。

 残り少々は芝浦のおっさんが斬り倒してくれた。

 即席トリオにしちゃいい動きしてるんじゃないかおれたち?


「急ぐぞ! こっからは速さが勝負だ!」

「あいよ!」


 おっさんが先行して山道を駆け上がっていく。

 おれたちは武器弾薬その他をかかえて、ちょっとモタモタしながら後ろへついていく。

 武器をかまえているのは同じなのに、芝浦の走りはおれたちよりあきらかに速い。

 なんかそういう技術でもあるんかね。

 戦闘って奥が深いや。


「すごいですねあの人……」

「うん」


 紫織のつぶやきにおれもうなずくしかない。

 一匹や二匹のゾンビなら立ち止まることなく芝浦が駆け抜けながら斬り倒してくれる。

 楽勝ムードだったおれたちはちょっと油断してしまった。


「あっ!?」


 短い悲鳴をあげる紫織。

 地面からはみ出していた木の根っこに足をとられたのだ。

 ころんで動きを止めてしまった彼女のうしろから数体のゾンビがゾロゾロと近づいてくる。


「イヤ……!」

「立つな!」

 

 あわてて立ち上がろうとする彼女を声で止め、おれは紫織を飛び越えてゾンビの前に立ちはだかる。


 タタタタタタタッ!!


 軽機関銃で後ろから来るゾンビどもを一掃いっそうした。


「大丈夫? 立てる?」

「はい!」


 おれが手を引いて彼女を立たせていると、上から罵声ばせいが飛んできた。

 

「なにやってんだグズグズすんな! かこまれたら終わりだぞボケども!」


 芝浦は怒鳴り声だけ飛ばして、ふたたび山道をかけ上がっていく。


「もうちょっと優しくしてくれてもいいと思う……」

世代の違いジェネレーションギャップってやつかね」


 文句を言いながらおれたちも後を追って山道をのぼる。

 囲まれたら終わりってのは本当のことだからな。

 おっさんの罵声ばせい不快ふかいだが正論ではあった。


 そんなこんなで三十分後くらいかな。

 おれたちは展望台の前にたどりついた。

 木々がすっかり伐採ばっさいされていて広々とした空間。

 そこに建てられた二階建ての、なんとなく現代アートっぽいデザインの建物。

 一階は受付とか売店。

 二階はレストランで、フェンスにかこまれたベランダ的な場所には百円玉入れたら見られる双眼鏡そうがんきょうの姿があった。

 まあ典型的な地方の観光地って印象だが、おれたちの前に先客せんきゃくたちがいた。


 見えているだけでもゾンビの群れが50体ほど。

 建物の中にもそれなりの数がいるだろう。

 100体くらいまでは覚悟しなければいけない。

 ……弾丸だんがん、足りるかな? 

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