第9話 こんにちはって言ったら投獄された

 さらに南へ南へとたびをつづけるおれたち。


「あっ、あれ街じゃないですか!?」


 紫織が前方を指さす。

 それは不自然に積み上がった瓦礫がれきかべだった。

 自然とこんな姿になるわけがない、誰かが積み上げてかべを作ったのだ。

 速度をおとしてゆっくり近づいてみると、それがいかにもな急斜面きゅうしゃめんでとてもよじのぼれるようなものじゃないと確認できる。


「入り口は、どこかな」


 瓦礫がれきの山は長々ながながとつづいていて、まさに敵の侵入をこばむ城壁だった。

 ノロノロ運転で周囲を確認しながら進んでいくと、瓦礫の上に人影が見えた。


「あそこ、だれかいますよ!」

「第一村人はっけーん!」


 太陽光を背にしていて、顔かたちはまったく分からない。

 だが立ち姿に人の意志みたいなものを感じる。ゾンビではなく理性ある人間だ。

 おれは車の窓を開けて頭上の人に声をかけた。


「おーい! おーい!」


 手を振って大声で呼びかける。

 しかし相手は返事をせず、奥のほうへ姿を消してしまった。


「あれ、なんだよ無視すんなよ」

「ゾンビだと思われましたかね」

「ゾンビが手ぇふって呼んだりすっかよ」


 なんだか『よそ者はお断り』みたいな気配を感じつつも、おれたちは瓦礫がれきの城壁をゆっくりと時計回りにまわっていき、ついに入り口らしき場所を見つける。

 建築現場で見かけるような鉄パイプの骨組みに木の板をぶ厚く貼りつけた、武骨ぶこつな作りの城門だ。

 門の上に金属バットや鉄パイプを身がまえた武装集団が十人ほどならび、こちらをにらんでいる。


「よおっ、おれたちはゾンビじゃないぜ。旅の途中なんだ、入れてくれよ」


 相手が友好的じゃないのは感じていたが、あえて気づかぬふりをして笑顔を見せる。

 おれたちはとにかく情報と物資がほしい。

 こんな不便な時代だ。友好的じゃない相手とも交渉できなきゃやっていけないだろう。

 彼らは門の上でゴチャゴチャと十分ほど話し合いをしていたが、やがて門を開いておれたちを受け入れてくれた。

 

「やっとか。そんなに警戒けいかいしなくてもいいのになぁ」

「まあ、こんな世界ですし……」

「うーん」


 壁の中もまた、あらゆるものが荒れ果てた終末世界の景色だった。

 しかし瓦礫がれき廃材はいざいなどは撤去てっきょされていて、曲がりなりにも人が生活する場所という雰囲気ふんいきはある。


「やあおれはゼロワン、こっちは紫織しおだ。ちょっとのあいだだけど仲良くしてくれよ」


 車からおりたおれたちは横にならんであいさつをする。

 街の住民たちはゾロゾロと近づいてきておれたちをかこみ、ふところから何かを取り出すと―――。


 カシャン。

 おれの手首あたりで軽い金属音が鳴る。

 そこには警察官が使うような手錠てじょうがかかっていた。


「はっ?」


 そして問答無用で警察署に引っ張られていき、牢屋ろうやに押し込められた。


 ガシャアアアン……!


 重々しい音とともにとびらが閉められ、二人一緒に監禁かんきんされてしまうおれたち。


「なんでえええええええ!? おれたち何にも悪いことしてねえだろおおお!?」


 ガッシャンガッシャン!!


 鉄格子てつごうしをゆさぶって抗議こうぎするも、だれも説明してくれない。


「最悪……」


 紫織ははやくも元気をうしない絶望モードになっていた。


「ここってもしかして山賊とか強盗団とかのアジトだったんじゃないですか……?」

「マジで!?」


 そいつは大きな失敗だったかもしれない。けどけようが無くねえか?

 中にいる人々がどんな集団なのかなんて、外部からは分かりっこないのだ。


「マジかよ……とんでもねえ所に来ちまった……!」


 ガン! と鉄格子にりを入れる。

 だがさすがは牢屋ろうや、ビクともしない。逆に足が痛かった。

 しかし物音を聞きつけてか、一人の男が近づいてくる。


さわぐんじゃねえよ。問題おこしたらもっとあつかいが悪くなるってモンだぜ」


 歩いてきたのは和服姿の、中高年の男性。

 なんと白鞘しろさやの日本刀なんぞをこしびている。

 髪型は角刈かくがり。

 太いまゆに大きな黒い瞳。

 

 まるで大昔のヤクザ映画から出てきたような、古風な男だった。

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