第8話 コンビニゾンビとパチンコゾンビ

 ブロロロロロ……!


 荒れ果てたアスファルトの上を、四輪のタイヤが蹴散けちらすように駆け抜けていく。


 おれたちは南にむかって移動をつづけた。

 北に数十キロいけば紫織たちが生活していた小さな街があるらしい。

 自動車だったらわずかな距離だ。興味はあったけど、紫織が喜ばないのは分かりきっていたので正反対の南に行くことにしたんだ。


 いまおれたちは関東平野の中央あたりにいる。

 南へ南へと行けばかつての首都東京へたどり着くだろう。

 人がメチャクチャいっぱいいた土地だ。ゾンビもとんでもない数いるとは思うが、得られる情報も多いのではなかろうか?

 予想というより願望がんぼうだが、とりあえず行ってみよう。


 細い道は建物たてもの倒壊とうかいしていたり、草木がボーボーしげっていて通れない場所が多かった。

 なのでおれたちは太い国道を進路に選ぶ。


「あっゼロさんそこのコンビニに止まってください!」


 紫織にリクエストされておれはコンビニの駐車場に車を止めた。

 水や食料が放置されていたらもうけもの……だがしかしとっくの昔に略奪りゃくだつされたあとで、食いものなんかは残っていなかった。

 そのかわり食べられない文房具や雑誌なんかは見つかる。

 雑誌やノートはき火の材料になるだろう。

 ハサミやカッター、荷造にづくりヒモなんかも、持ち歩いていればいつか使う日がくるんじゃないかな。


 だが、良いことばかりでもない。


「ア……ア……」


 事務所の奥にゾンビがひそんでいた。

 しかもこのコンビニの制服を着ていて、名札なふだには「はせがわ」っていう名前と『店長』の二文字が。


「ゼ、ゼロさん!」

「あー、えーと、スイマセン。コンビニ強盗です。ゴメンナサイ」


 パン!


 すでに廃墟はいきょと化していた店内にかわいた破裂音はれつおんが鳴りひびく。

 おれはちょっともうわけない気がしたけれどハンドガンで眉間みけんを打ち抜き、店長ゾンビを倒した。


「はせがわさん、どうか安らかに」


 手を合わせて店長のご冥福めいふくをおいのりした。

 この人、ゾンビになっても自分の店を守りつづけてきたんだな。

 切ない気持ちになりながらも、役に立つものがないかどうか家探やさがしはわすれない。

 大体のものは劣化してダメになっていたが、工具セットや折りたたみ式の収納しゅうのうボックス、脚立きゃたつなんかも頂戴ちょうだいすることにした。

 あと期限切れの消化器。

 使えるかどうかわかんないけど、けっこう重くて硬い金属製の物体だ。最悪げつけるだけでも武器になるか。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 コンビニをあとにしたおれたちは、とあるド派手な建物にひしめくゾンビの群れを発見した。

 意外にもパチンコ屋である。ほら国道沿こくどうぞいってデカい駐車場付きのパチンコ屋がよくあるでしょ。

 ゾンビたちはパチンコ台のハンドルをにぎりしめ、あるいはスロットマシーンのレバーやボタンをベシベシ叩きつづけていた。


「生前の記憶とか残ってんのかねえ……」

「どうなんでしょう……」


 ちなみに電気なんか通っていない。機械はすべて止まっている。

 音も光もない暗い店内でゾンビたちは完全に無意味な行動をつづけていた。


「楽しいんですかね、アレ」

「ど、どうだろうねー?」


 おれたち二人はあきれるしかない。


「まあ生きているころからすでにゾンビみたいな連中だったし、あいつらの人生ってアレで良いのかもな」

「うわ、ひどくないですかその言いかた」

「ひどくねーよ、何度もやれば絶対に負けるようになってるって分かりきってんのに『実質的には勝ちみたいなもの』とか『今日はマジで勝てる気がする』とか意味不明なこと言ってパチ屋に労働ろうどう対価たいかみつぎつづけてきた異常者集団だぜ。電気止まってむしろラッキーなんじゃねえかあいつら」

「ゼロさん容赦ようしゃないわー」


 車中から中の様子をうかがいながら、遠慮なくパチンコゾンビたちをディスるおれ。

 ぼんやりながめていると、店内にいた一体のゾンビが立ち上がる。

 こちらに向かってゆっくり歩いてきた。


「おっ、不毛ふもうな人生(?)を変えようってやつが現れたのか?」


 おれは用心して胸のホルスターにおさまっているハンドガンに手を当てた。

 だがしかし歩いていたゾンビは進路をカクっと90度曲げ、空席だった台に座りなおす。

 そしてふたたび動きもしないパチンコ台のハンドルを握りしめてボーっと画面を見つめだした。


「いや何やってんだ!? だいかえたって同じこったろーが!?」


 つい大声を出してしまった。

 いや本当に何なのこいつら。


「あーもういい、もーわかった、こいつらどうしようもないクソだ。けるしかばねが死んでも死ねるしかばねに変わっただけだわ。まともなゾンビにすらなれねー人類の失敗作どもだわー、マジどうしようもねーわー」

「ゼ、ゼロさん」

「シオちゃんもこんな大人たちになっちゃダメだよー? ギャンブルってマジで人生を破壊するからねー。はーアホらし」


 ちょっとアメリカンなノリで目をつぶり、両手をひろげて肩をすくめるおれ。

 そんなおれの肩をつかみ、紫織はさけびながらゆさぶった。


「来てるううう!! ゾンビみんな来てるううう! 怒って出てきたー!!!」

「えっ」


 気が付くと俺たちの車はパチンコゾンビの群れに包囲されていた。

 みんな「ア”-!」とか言いながらバンバン車体をたたいてくる。


 バンバン!! バンバン!! バンバン!!

 ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!


「どわああああ!?」


 あわててアクセルを踏み、目の前のやつを吹き飛ばしながらおれたちの車は危機から脱した。

 数十メートルも距離をとると、パチンコゾンビたちは興味をうしなったのかふたたびパチ屋の中にもどっていく。


「ビックリしたあ……」

「なにやってんですかもう!」


 くちわざわいもととはよく言ったもんだ。

 おれは紫織に説教されながらその場をはなれた。

 それにしても。

 怒って飛び出してきたくせに、また結局パチ屋に戻っていくんだなあいつら……。

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