第10話 爆弾岩は様子をうかがっている

 任侠にんきょうヤクザ風の和服わふく男は、芝浦軍治しばうらぐんじと名乗った。


「おめえさん達がウイルスに感染してねえかどうか確認しなきゃいけねえからよ、最低でも一週間はここで暮らしてもらうぜ」


 芝浦軍治はムスッとした不愛想ぶあいそうな顔でおれたちにそう告げた。


「おいずいぶん一方的じゃないか、そんな話なら街に入らなかったぜ。車の中にしこたま積んである荷物だって、あんたらがちゃんと返すって保証がどこにあるんだ」

「そいつに関しちゃ信じてもらうしかねえな」


 芝浦はいい加減なことを言いやがった。

 まさかおそわれるとは思ってなかったもんで、車のドアは開いたまま、キーもつけっぱなしだった。

 車そのものもきっと超高級品だし、中には武器弾薬、食料、薬やガソリンなどなど大事なものが山盛りはいっていたんだ。

 わるい奴にぬすまれないっていう保証がどこにある。


「ところであんだけの物資、おめえどっからぬすんできやがったんだ」


 芝浦は口汚くちきたなくこっちの素性すじょうさぐりはじめた。

 監禁かんきんの次は尋問じんもんか。

 ヤクザのくせに警察みたいなマネをしやがる。


「盗んでねーよ、おれの家から持ってきたんだ」

「家だあ?このヤロウ。おめえナニモンだよ。米軍か自衛隊のパシリか?」

「知らねえ、記憶喪失きおくそうしつでな。おれはおれの基地にあったモンを好きに使ってるだけの話だよ」


 記憶喪失というのがウソくさく聞こえたのだろう。

 芝浦はおれのむなぐらをグイ! っと乱暴につかむと超こわい眼でにらんできた。


「あんまナメたこと言ってっと一生このまま牢屋ろうやぐらしだぞクソガキ」


 怖ええ、超怖ええ。

 怒鳴どならすでもなく、なぐったりったりするわけでもなく。

 たいしたことはされてないのに、リアルに背筋が冷たくなるほど怖い。

 だけどここで負けてたら全部取り上げられて奴隷どれいみたいな人生になっちまう。

 ふざけんな、おれはなにも悪いことなんてしちゃいねえ!


「う、ウソなんかついてねえ! アレは全部おれのもんだ! 誰のもんでもねえ、全部おれ一人のもんだ!」


 おれも精一杯にらみ返した。

 ヤクザのはなつ『冷たい怖さ』とは違うとわかっちゃいたが、それでも力いっぱい気合をこめてにらみ返す。


「……フン」


 五秒後くらいだろうか。

 芝浦は乱暴に手をはなした。


「とにかく大人おとなしくしとけ。あんな物騒ぶっそう銃火器シロモノを山ほど持ってきたおめえらだ、笑顔で大歓迎だいかんげいなんてできるわけねえだろ」

 

 そう言い捨てて、通路の奥に消えていった。

 ……カッコ悪いが、解放されてホッと安心してしまうおれ。

 安心ついでに牢屋の中央にドカッとこしをおろし、ボリボリと頭をかく。


「あ、あの大丈夫ですかゼロさん」


 部屋のすみっこから紫織が話しかけてくる。

 彼女の顔色はさおだった。


「まあなんとかね」


 冷え切ってしまった空気を笑顔でなごませようとするおれだったが、どうにも力が出なくてヘタレた情けない笑顔になってしまう。


「あーくそ、武器も全部とられちまったしなー。

 ノヴァ、お前には武器とかそういうの無いのかよ?」


 冗談のつもりで脳内コンピューター『ノヴァ』に話しかけてみる。

 すると。


『あります。本当に緊急時きんきゅうじにのみおススメの、強力な武装が搭載とうさいされております』

「えっマジー!? 今がまさにその緊急時だって。やってやって!」


 なんでも相談してみるものだと思った。

 だがしかし。


『お待ちください。どちらも使用者であるゼロワン、あなたの健康を大きくそこなう危険な兵器なのです。まずは説明を』

「お、おう?」

『まずは超高出力のレーザーカッターを放出することができます。しかしわたくし『ノヴァ』はゼロワンの脳内に存在しますので、必然的にあなたの頭蓋骨ずがいこつに穴が開くことになります』


 ブッッッ!!

 おれは噴き出した。


『もちろんゼロワンののうははかりしれないダメージを受ける結果になることでしょう。そして二つ目は自爆装置じばくそうちです』


 おい待てや!?


『周囲五十メートル程度の空間に強烈な破壊エネルギーを放出することが可能です。使用した場合、当然ゼロワンはゲームオーバーとなります。自決用じけつようにどうぞ』


 どうぞじゃねえええええええ!!

 なんの役にも立たねえ爆弾岩ばくだんいわじゃねえかこいつ!!


 インカムマイクでおれたちの会話を聞いていた紫織は、しかたなくひきつった笑顔をうかべる。


「あ、あはは……。ノヴァってやっぱり機械なんだなあ。人間みたいにしゃべるからちょっとだけ誤解していたかも……」


 いらない情報を得ただけだったおれたちは結局どうすることもできず、牢屋でじっとしているだけの時間を強要されることになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る