(2/3)二人目:面長大学生ユウジの知的メガネっコスプレ令和のクリスマス騒動

 どうして、こんなことになってしまったんだ。


 おれの名はユウジ、しがない大学一回生。平均よりちょろっと高めの身長と面長・細面くらいしか特徴がない、普通の男だ。

 あと怖いくらい不思議すぎる話なんだけど彼女はいない。世界三大怪奇の一つに数えられるほどのミステリーだ。ちょっぴり生意気だがそこが逆に可愛い美少女に、この謎を罵り交じりに解明して頂きたい。


 とか混乱した頭で考えている場合ではない。

 おかしい、おかしいぞ――おれは今日、高校時代からの親友からの救援要請を受けこれを受諾。やつも彼女がいない一人寂しいクリスマスを送るはずだったところを、『しょうがないにゃあ……』みてぇなノリで救ってやって、おれもおれで乗り切ることができる、そんな深謀遠慮が確かにあった。


 とはいえ野郎同士のうら寂しいクリスマス、毎年のことだが、それはそれで辛いこともあろう。しかも高校を卒業して以前からの友人は離れ離れ、付き合いがあるのは親友のあいつだけで、二人っきりになっちまうわけだし。


 そう思ったおれは思い付きで、して盛り上げてやろうと思っちまったのです。

 きっかけは、一人暮らしの出来心で買っちまった、女性モノの服――店員さんの冷え切った視線を、今でも覚えています。


 んで、ですね。


「――――」

「――――」


 なんかいきなり来た、めっさ可愛いメスガキっぽい美少女と、向き合ってるわけです――


 一体なにが起こっているのか、まったく分からない。本当に、全く全然これっぽっちも、分からないんだ……。

 マンションの部屋を間違えた? それとも……。


 クリスマスが起こした、運命の出会い……?


 だって……だって、何しろ。


「ああ、あのぉ……ぉお、ぉねっ、お姉さん、ってぇ……」(高音↑)


 ぐふうっ――こ、声が! 可愛すぎる!!

 いやもうファーストコンタクトの時点でも思ったけども、まるでおれの好みにガッチリ合わせてきたかのようなメスガキヴォイスだ。完全に呆気に取られてたんで何を言ってるのか細部は聞き取れなかったけど、それはそれ。何かウオ? の話とか、されたような?


 そして声だけじゃない。見た目にも、小柄で思わず保護欲がかき立てられる。高校生くらいだろうか、最初の威勢はどこへやら、人違いと気付いたのか今や不安そうに視線を泳がせて、抱きしめたくなってしまう塩梅だ。


 でも、でもなんで本当に、こんなクソ辺鄙な場所(おれの家)に……おれは、おれはただ、魔が差して女装して親友を待ち構えていただけなのに……ハッ!?

 ……なるほど、そういうことか。知的美女に扮している今のおれは、完全に気付いてしまった。

 ははっ、なんだ、気付いちまえばなんてことはない……そう、あいつは。



 自分のを、彼女のいないおれに紹介してくれるつもりだったのだ――



 へへっ、あまりにも冴えたおれ自身の推理力が、恐ろしくなっちまうぜ。あいつおれと同じで一人っ子って言ってた気もするけど、まあ照れ臭いとかそういうのあったんだろう。水臭いなぁ、んもうっ!



 すまん、親友……トモ。

 少し、泣く。



 だって……だって、おれぇ! おまえが気を利かせて、こんな……こんなおれの好み、どストライクのメスガキ風美少女を紹介してくれようとしてたのに!

 アホみてぇな魔が差して! オウンゴール決めちまった!!


 女装とかして!! メガネまでかけてドヤ顔でさぁ!!!


 ほあぁん……そういえばおれ昔、将棋で思いっきりトチって自分の王将への道を豪快に開放しちゃってそのまま負けて、

『将棋でオウンゴール決めるやつ、そうそういねぇよ……』

 って呆れられたことあるな……ぴえん超えてぱおん……(寒空の死語)


 結局のところ、おれは魔が差してしまったせいで、超・好みのタイプの見知らぬ美少女に、謎の女装をご披露してしまったわけだ。


 だが幸い、であることが功を奏してか、おれの正体には気付かれていないはずだ。何とか、何とかここから、巻き返せる術はないか?

 あ、姉……いや、オカン……ってことで、切り抜け……られるかっ……!?


 この期に及んで……おれは、瀬戸際の怪演を、やり遂げられるのか……!?


 ゼエゼエ……このめっちゃ好みのタイプの美少女の印象を、少しでも損なわないために……。

 おれは一体……どうすればいいんだ……!?

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