第3話 王都セレファーンと、増える書類

 王都セレファーンは、白かった。


 建物も、道も、橋も。

 すべてが白い石で作られているせいで、晴れた日は目が痛い。


「……明るいですね」


 馬車の窓から外を見て、リードはそう漏らした。


「王都ですから」


 隣のミリアは、当たり前のことのように答える。


 人の数も、村とは比べものにならない。

 行き交う人々、露店の声、遠くで鳴る鐘。


(静かに暮らしたい人間が来る場所じゃないな……)


 その感想を胸にしまい込み、リードは馬車を降りた。


---


 最初に連れて行かれたのは、王城ではなかった。


 王城の隣に建つ、やたらと大きな建物。

 装飾は控えめだが、威圧感がある。


「王国魔力管理局です」


「……名前からして、嫌な予感しかしません」


 リードの率直な感想に、ミリアは否定しなかった。


---


 部屋は、無駄に広かった。


 中央に置かれたのは、見たこともない測定器。

 村で使われていたものより、三倍は大きい。


「最新型です」


 白衣の技師が胸を張る。


「魔力量を十段階で把握できます。

 多少多くても、壊れることはありません」


 その「多少」という言葉に、リードは引っかかりを覚えた。


「……念のため聞きますが」


「はい?」


「手加減、した方がいいですか」


 技師とミリアが顔を見合わせる。


「通常、手加減は不要です」


「では、通常で」


 リードは測定台に立ち、指示通りに手を置いた。


 静寂。


 次の瞬間。


 ――ゴゴゴゴ。


 低い音が、部屋全体に響いた。


「……え?」


 技師の声と同時に、測定器の水晶が赤く染まる。

 針が振り切れ、さらにその先へ行こうとする。


「止めて! 一度止めて!」


 誰かが叫んだが、もう遅い。


 ――バン。


 鈍い音とともに、測定器が沈黙した。


 煙は出なかった。

 だが、完全に動かない。


 部屋が凍りつく。


「……壊れましたか」


 リードの問いに、技師は震える声で答えた。


「い、いえ……壊れたというより……」


「より?」


「想定外、です」


 ミリアが額に手を当てた。


「記録は?」


「……最大値を、更新し続けて……そのまま」


「数値は?」


「表示できません」


 リードは目を伏せた。


(やっぱり、やりすぎたか)


「……すみません」


 謝ると、技師たちは一斉に首を振った。


「いえ! こちらの想定が甘かっただけです!」


「次は、さらに強化した――」


「次、あるんですか?」


 思わず聞いてしまった。


 ミリアは一呼吸置いてから、静かに言った。


「あります」


 きっぱりと。


---


 その直後、扉がノックもなく開いた。


「話は聞いた」


 低く、落ち着いた声。


 入ってきたのは、大柄な男だった。

 鎧を着ているが、威圧するためのものではないと分かる。


「騎士団副団長、ガルド・ロイゼンだ」


 ミリアが紹介する。


「例の“計測不能”が、彼か」


 ガルドはリードをじっと見た。


 値踏みする視線ではない。

 むしろ、困ったものを見る目だ。


「……畑仕事が好きそうな顔だな」


「よく言われます」


 ガルドは小さく笑った。


「安心しろ。ここで斬ったりはしない」


「それは、安心材料なんでしょうか」


「少なくとも、今はな」


 冗談とも本気ともつかない言い方だった。


---


 別室に移され、簡単な事情説明が行われた。


 結論だけ言えば、こうだ。


「放置はできない」


 ガルドが言う。


「だが、兵器として扱う気もない」


 ミリアが続ける。


「結果として――」


 二人が同時にリードを見る。


「管理対象、ですか」


 リードが先に言った。


 ミリアは頷いた。


「正式名称は、“特別観察対象者”」


「言い方が優しくなっただけですよね」


「印象は大切です」


 そう言って、彼女は分厚い書類を置いた。


 どさり、と音がする。


「……これ、全部俺のですか」


「初期分だけです」


「初期分?」


「今後、増えます」


 リードは天井を仰いだ。


(畑の方が、まだ管理しやすい……)


---


 その日の夕方。


 仮宿として用意された部屋で、リードはベッドに座っていた。


 豪華だが、落ち着かない。


 窓の外には、まだ賑やかな王都。


「……帰りたいな」


 小さく呟く。


 その願いが、すぐに叶わないことは、もう分かっていた。


 だが、それでも。


 リードは、明日も畑のことを考えて眠りについた。


 この王都で、どれだけ書類が増えようとも。


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